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ノーチラスノート  作者: 蓬莱 葵
7/10

第7部

 

「———にわかには信じがたい話だな。あの人喰い穴が、こことは全く別の空間につながっていたなんて」

 管制室の椅子の上で腕を組みながら、ペンクロフトは訝しそうな表情をした。

「でも、真実だ。おれはこの目で見たんだから」

 クレイは、テーブルの上にメモ用紙を広げて、あの世界の簡単な地図を描き始めた。始めにいびつな円を描いて、その真ん中に「湖」と書いた。

「フェルドランスで観測できたのは、この湖のまわりだけだった。それ以外の場所に行こうとしても何故か行けなかった。まるで世界がこの湖の周囲だけで閉ざされているみたいに。それで、この湖がどうにも不可解なんだよ。まず奇妙な事は、湖の周りの様子が場所によってがらりと変わることだ。あるところは菌類の森だし、あるところはシダ植物の繁る草原だったりする。そしてその境界が妙にはっきりしているんだ。まるでチョークで線を引いたようにね。不自然なんだよ。それと、あそこには驚くべき事に、『地球』の生物が、それも遥か昔に滅び去った生物が生息していたんだ。おれはこの目ではっきり見た。運が良ければフェルドランスのカメラにも映っているだろう。後で自分で確認してみればいい」

「滅び去った生き物って、例えば何がいたんだ?」

「君は信じないかもしれないが・・・・」

 クレイは少し躊躇していたが、意を決したように話し始めた。

「おれは恐竜を見た。少なくとも5種類はいた。間違いない。直立歩行してたし、腰部の形態も、竜盤目、鳥盤目に特徴的な形をしていた。白亜紀後期にカナダのアルバータ州あたりに棲息していた奴等だったな。つかまえて連れて帰ろうとしたんだが、逃げられてしまったよ。あと、コートニーの話だと、サメもいたようだな。淡水域に生息することから考えるとオオメジロザメのようだが、それにしては大きすぎる。近縁の大型種かもしれない。その他にも色々いたよ。地球の歴史上には全く現れたことのないものもいた。巨大な軟体動物とかね。軟らかい体はともかく、殻は化石になって残るはずだから————」

「クレイ」

 いきなりペンクロフトが口を挟んだ。

「疲れてるらしいな。とりあえず休んだらどうだ。一眠りしたら、自分が穴の底で幻覚を見ていたことに気づくんじゃないか?」

 クレイは溜息をついた。

「やっぱり信じないんだな。おれの姿が通常空間から消える瞬間を、君も見ただろうに」

「見た。それは見たけど・・・・・あまりに突拍子過ぎるんだよ。どこか物理的に遠くへ飛ばされたというならまだしも、タイムスリップしたと言いたいのか?」

「ちがう。そんなことは言ってない。過去に行ったわけでは決してないと思ってるよ。その証拠にかなり進化した植物もあったしね。おれは専門じゃないからよく分からないけど、地質や大気の組成も『過去』とは違うんじゃないだろうか?あの世界、おれにはむしろ、様々な世界のつぎはぎ細工のように見えた」

「つぎはぎ細工?」

「そう。地球の歴史の上で何か大きな出来事が起こると、誰かがその一部を切り取って、あの世界の湖の畔に持ってきて次々に張り付けた、そんな気がする」

 その時ふと、ペンクロフトはあの縦穴の壁に描かれていた壁画のようなものを思い出した。あれは確かに偶然にしては形が整いすぎていた。やはり異種知性体の遺産なのか、しかし・・・・・

「おまえは、どこかのエイリアンが・・・」

 エイリアン、という言葉を自分の口で発するのに彼は抵抗を感じた。

「どこかの、その、知的生命体が、地球のパッチワークを作ろうとしていたと言いたいのか?」

 クレイはゆっくりと頷いた。ペンクロフトには、一つ釈然としないことがあった。

「地球、このインフェリアじゃなくて、地球?」

「そう。この星には現在までのところ、土着の生命体は確認されていないし、恐竜のような大型生物がいた痕跡は全くない。あれは地球の姿だよ。あの世界は地球の様々な事象を集めた、いわば博物館のようなものではないのかな」

「うーん、おまえ、やっぱり寝ろ」

 ペンクロフトには構わず、さらにクレイは続けた。

「この島はやはり異種生命体の息がかかっているんだと思う。はっきりとは分からないけど、その知性体は地球をずっと観測していたんじゃないのか?この星の上で。その観測のための『窓』が、カリビアントンネルだったという仮説はどうだろう?」

「どうだろうって言われても・・・・」

 ペンクロフトは唸った。クレイの言うことは完全に常軌を逸している。しかし、彼が穴の中で消失し、また帰ってきたのも事実なのだ。頭ごなしに否定もできない気がする。

「それにしても、やはり変なことがあるな・・・・・」

 クレイがつぶやいた。

「巨大菌類の森。その中に棲んでいる軟体動物。あいつらはかつて地球には存在しなかった。一体、どこからやってきたんだろう?」

 その時、クレイの背後で隣室のドアが開いた。彼は振り向いた。シィナが立っていた。さっきまで簡易ベッドの上に寝かされていた彼女は、貧血気味の顔でクレイを見た。

「シィナさん」

 彼女の顔は少しやつれて見えた。その痛ましさと、彼女の持つ儚い雰囲気が絡み合って、クレイはふと、彼女が今にもガラス細工のように壊れてしまうのではないかと思った。

「・・・・・・フェンネルさん。帰ってきたんですね・・・・・夢だったらどうしようって、思いました」

 シィナは、笑っているのかはにかんでいるのか分からない、不思議な表情をして、ペンクロフトが勧めた椅子に座った。

「心配かけたそうですね。どうもすみません。シィナさん」

 クレイは少し恥ずかしそうに答えた。久しぶりに聞く彼女の声は、何故か悲しいくらいに心地よかった。

 シィナはいきなりにっこり笑った。

「ヒューベルさんも、あなたがいなくなってから大変だったんですよ」

「へえ」

「余計なこと言わなくていいんだよ」

 ペンクロフトは慌てたように言った。

「おれが心配してたのは、フェルドランスをもう一機作るのに必要なカネと時間のことだ。パイロットはいくらでも代わりはいるからな」

「そうか、じゃあ帰ってこない方がよかったかな。あっちはかなり魅力的な所だったし」

 ペンクロフトは怒ったような顔をした。それを見てシィナは微笑んでいた。クレイはその時、彼女に聞かねばならないことがあったのを思い出した。大事な話だ。

「シィナさん」

「何ですか?」

「ぼくが初めてあなたの博物館に行ったとき、ほかにもう一人、誰かいましたよね。確か、黒い服を着ていた人・・・・・」

 シィナの顔が曇るのをクレイは見た。聞くべきではなかったか、と彼は後悔した。

「すみません。立ち入ったことを聞きましたか?」

「いえ、そんなことありません・・・」

 言いながらも、シィナの顔に狼狽したような色が浮かんでいた。

「あの人がどうかしたんですか?」

「いえ。ぼくを捜しに来てくれた子がいるんですが、その子が言うには、黒い服を着た少年にいろいろ教えてもらったとかで・・・・もしや博物館にいた人かなと思ったんです」

「黒い服・・・・」

「ええ。黒いマントを羽織った、不思議な雰囲気を持つ少年だそうです」

 あの人だ、とシィナはつぶやいた。

「・・・・あなたを捜しに・・・・・あの人が・・・・・」

 シィナは困惑したように言葉を濁した。

「もしよかったら、明日にでも博物館にお邪魔してもいいですか? 彼に礼が言いたいし、他にも色々聞きたいことがあるので」

 シィナは困惑した表情のまま頷いた。その表情が次第に曇っていく。彼女はしばらく何かを考えてる風だったが、いきなり「確かめなきゃ」とつぶやいて立ち上がった。そしてそのまま部屋を出て行こうとした。

「シィナさん!」

 クレイが立ち上がって呼び止めた。シィナは振り返った。クレイの声も上の空といった表情だった。

「どうしたんですか?気を悪くしたなら謝ります」

 シィナは不意に目が覚めたような表情になった。それから、いきなり「ごめんなさい」と言った。

「どうしたんでしょうね、私、こんなに嬉しいのに、何故か不安でたまらない」

 そして彼女は外へ駆け出していった。

「どうしたんだろう?」

 ペンクロフトがつぶやいた。

「妙なくらい慌ててたな」


 クレイはペンクロフトの家を出た。目の前には真夏の陽射しの下で草原が風にそよいでいる。小さな水たまりの周りではワタスゲが綿のような白い花をつけて群生していた。

 彼は草原を見渡した。すると、彼方にある楡の木の下に、コートニーが立っているのが見えた。

「あれ?」

 何故あんな所にいるんだろう? 帰り着くなり倒れるように眠ってしまったのに。疲れはとれたんだろうか?

 クレイは小さく見える彼女の方へと歩いていった。

 近づくにつれて、彼女の姿がはっきり見えてきた。彼女は木漏れ日がつくるモザイク模様の下に立っていた。手には畳んだ黒いマントと紙袋を持っている。クレイが近くに来るとコートニーの方も彼に気づいて振り向いた。

「コートニー、こんなとこで何してるんだい?」

 クレイの姿を見ると、彼女は少し恥ずかしそうに微笑んだ。それから、

「あの人が来るかと思って、待ってたの」と言った。

「あの人?」

「ほら、このマント貸してくれたり、クレイの居場所教えてくれたりした人だよ。いつもここで会ってたから・・・・」

「ふうん、ぼくも会いたいんだけどね。・・・・来ないのかい?」

「うん」

 彼女は頷いた。あどけない少女の顔だった。たった一人で異世界まで彼を迎えに来たあの勇気は一体どこから出て来るんだろう、とクレイは思った。

「そう、でも、多分その人は博物館の人だよ。行ってみようか。明日にでも」

 コートニーは頷いた。それからクレイの顔を見て、少し首を傾げるような仕草をした。

「もういいの?」

「何が?」

「友達とのお話」

「ああ、疲れたからね。事故後の報告とかいろいろあるんだけど、全部彼に任せて逃げてきた」

 クレイが微笑むと、つられるように彼女も笑った。その時、二人の間を昆虫が一匹飛びすぎていった。

「テイオウギンヤンマだ」

 すかさずクレイが言った。虫は池の方へ消えていった。

「どうしてわかるの?飛んでるの見ただけで」

 コートニーが驚いて尋ねた。クレイは少し困ったような顔をした。

「うーん。わかるよ。模様とか、飛び方とか、形で」

「どうしてそんなに詳しいの?」

 コートニーは大きな目を見開いてクレイを見上げた。彼は恥ずかしそうに答えた。

「大学では生物学を専攻してたからね。サークルも生物関係のやつだったし・・・・・あの頃は楽しかったな」

 クレイは草原の果てに見える海に目を移して、遠い昔を振り返るような表情をした。

「夜になるとさ、みんなで出かけて行くんだよ、ホタルを見に。それから川でテナガエビを採ったり、クワガタを探したり、夜の森を探検したりしたもんだ。懐かしい子供時代が再び帰ってきたような気がしてね。何もかもが新鮮で、悲しいくらいに感動的で、毎日が刺激に溢れていた」

 コートニーはクレイの顔をじっと見つめていた。

「今でもよく思い出すよ。あの頃のこと。毎日友人達と生命の息吹の中を走り回ったあの日々。宝石のように輝いている。あの頃はそんな日々が永遠に続くと信じていた。でも・・・・・」

「クレイ」

 コートニーがつぶやいた。クレイは話し続けた。

「いつか、ふと気づいたんだ。あれは研究室に配属が決まった頃だったかな。みんなそれぞれの道を歩き始めて、夜の森へ出かけることも少なくなっていった。そして、線香花火が消えていくようにいつしか全て終わっていたんだ。気がついたときには周りにはもう誰もいなくて、ぼくは一人で寂しい河原に佇んでいた。ぼくたちの時代は終わったんだって、そんな気がした。みんなそれぞれの世界で元気に生きてるけど、あの日々は帰らない。もう二度と・・・・・」

 草原に立つ二人の間を、夏の風がすり抜けていった。コートニーは心配そうな顔でクレイを見つめていた。

「今でもふと思うことがある。こんな島も、周りの人々もみんな夢で、次の瞬間に目を開けると、あの懐かしい下宿の天井が見えるんじゃないか・・・・そして」

 その時、コートニーがクレイの袖を摘まんで引っ張った。何かに憑かれたように語っていたクレイは、はっとしたようにコートニーを見た。

「あ、ごめん、変な話を・・・・」

 コートニーは首を振った。

「いい。変じゃない」

 彼女はクレイの服の袖から手を放した。

「変じゃないよ。私にはよくわからないけど、でも」

 でも、

 この島では、クレイは幸せじゃないんだね・・・・・

 彼女は心の中でそう言った。

 彼女は蒼い海を見た。遠くで鳥が哭いていた。

 二人はしばらく海を見つめながら立っていた。水鳥が彼方で舞っている。それを見ながらコートニーが尋ねた。

「ねえ、クレイはどうしてこの島に来たの?」

 少し考えてから、彼は答えた。

「多分、飛行機の操縦が巧かったから。昔から何故か巧かったんだよ。それがぼくの人生を狂わせた一因だ。変に巧かったから、本来の興味とは違った道を選んでしまったんだね。気がついたらこんな所でパイロットなんかをやってる。・・・・でも、この島に来た本当の理由は、おそらくこの島に不思議な魅力を感じてるせいだ。昔からね。何故か惹かれるんだよ。ここ。初めてのはずなのに、過去に一度見たことがあるような所があったりするし・・・・・・」

「見たことがある場所?」

 コートニーは草の上に腰を下ろした。

「そう。例えばあの時計塔。島に来て、あれを見たとき思ったんだ。ぼくはかつてこれと同じ物を見たことがあるってね」

「ふうん」

 地面に咲いてた小さな白い花を摘んで、彼女はそれをくるくると回した。

「クレイの話って、不思議なことだらけだね」


 シィナは息を切らせながら博物館へ戻ってきた。もどかしそうに鍵を開け、彼女は博物館の展示室に駆け込んだ。吹き抜けになったホールのどこかから、憂いを含んだバイオリンの旋律が高く低く響いていた。

「アーベル、いるんでしょう、アーベル」

 その声は、がらんとしたホールに響きわたった。

 バイオリンの音が止んだ。

「やあ、どうしたんだい」

 上の方から声が聞こえた。吹き抜けになったホールに面した二階にある窓が開いて、少年が顔を出した。

「やけに慌ててるじゃないか。どうした、あのパイロットでも帰ってきたのかい」

 からかうような口調だった。シィナは非難するような目で彼を見上げた。

「あなた、知ってたんですね。あの人の居場所を。こっそり助けたりして・・・・・どうして隠してたんですか、どうして私に教えてくれなかったの? その代わりにあんなひどいこと言って・・・・・」

 アーベルと呼ばれた少年はシィナの勢いに気押されたように沈黙した。一瞬、悲しみの色がその顔を走り抜けた。

「ひどいわ、私がどんなに悲しかったかわからないんですか」

「———君は、最近落ちつきをなくしてるようだね」

 冷ややかにアーベルが言った。

「どうした? あのパイロットの事をやけに気にするじゃないか。まさか彼に恋したんじゃないだろうね、君?」

 アーベルが尋ねた。一瞬だけ、彼は真剣な表情をした。シィナは返答に窮したように沈黙した。

「もしそうなら、おれは君にひとつ忠告しておかないといけない」

「・・・・・・忠告?」

 訝しそうな顔をして、シィナは訊いた。二階の窓から彼女を見下ろして、アーベルは奇妙な事を言った。

「君はギリシア神話を読んだことはあるかい?」

「何のことですか、いきなり」

「一度読んでみるといい。人類の一般的性質について興味深いことがいろいろ書かれてある。君はその中でも特に『エコーとナルキッソス』の話を読むといいね」

 シィナは訝しがるようにアーベルを見上げていた。

「それと私とどんな関係があるんですか」

「・・・・・・君はあのパイロットとこれ以上接触すべきではない。彼が無事戻ったんならそれでいいじゃないか」

「あなたが何を考えてるのか分からない」

 シィナはつぶやいた。その呟きにアーベルは非情な言葉で答えた。

「早急にあきらめるんだな。君とあの人は結ばれない。絶対にね。恐ろしい悲劇が待っているだけだ」

 アーベルは、全てを見抜いているかのような確信的な口調で言った。シィナの目が見開かれる。突然の言葉に彼女は戸惑い、それからその顔に、厳しさを含んだ苦悩の色が浮かんだ。

「どうしてそんなことを。あなたに何がわかるんですか?」

「わかるさ。ぼくには全てが。過去のことも、これからのことも。こうなることもわかってたのさ。あの日からね」

 あの日、という言葉を聞くと、シィナの顔が曇った。何かを振り払うかのように、彼女は首を振った。

「過去の罪からは逃れられないと言いたいんですか」

 シィナの目から鋭さが消え、彼女は俯いて弱々しく言った。アーベルは憐れみのような表情を浮かべて彼女を見つめていた。

「君はとても哀しい人だね。どうしてよりにもよってあの人を好きになったんだい。他の人ならともかく、君とあの人とは、恋人同士になれるわけがないんだよ。いびつなつぎはぎ細工のようだ。運命の悪戯としか言いようがないね。辛いだろうが忘れたまえ。それが君のためだ」

「どうして・・・・」

 シィナの顔に絶望にも似た表情が浮かんだ。理不尽とも取れるアーベルの言葉に、何故か言い返すこともできず、それきり彼女はホールに佇んだままうつむいて、さざ波のように打ち寄せる不安感にじっと耐えていた。



 15-チューリップ


「クレイ、起きて。朝だよ」

 コートニーが、広間の長椅子で眠っていたクレイの肩をゆすった。彼女は、すっかり我が物顔で一階の居間を使っている。もともとこの家は一階と二階が別々に使えるようになっていて、二階の住人は外階段により一階を通ることなく出入りできるのだが、コートニーはいまや当たり前のように内階段で一階と二階を行き来していた。

 クレイは目を覚ました。朝日が、カーテンを開いた部屋の中に差し込んでいた。彼は眠そうな声で呻いた。昨夜はうっかり長椅子で眠ってしまったので夢見がよくなかった。彼は、靴屋を開業した早々、全長二メートルの革靴を作れと依頼される夢を見ていたのだ。だから、現実に戻るまでに少し時間がかかった。

「はい」

 いきなり目の前に湯気の立つコーヒーカップが差し出された。眠い目をこすって受け取る。淹れたてのコーヒーに、微笑むコートニーの顔が映っていた。

「あ、ありがとう」

 クレイはコーヒーをすすった。だんだん意識がはっきりしてきて現実が彼を包んでいった。部屋の中を見回す。

「あれ?」

 ひとつ、変なものが見えた。黒革の巨大な靴のようなもの。夢の名残が結晶化したようなものが部屋の中にあった。完全に目が覚めてないのかと思って目をこすったがそれは消えなかった。夢が頑固としてそこに居座っているような気がした。

 彼はしばらく唖然として、それを、すなわち部屋にうずくまるハンマーヘッドを見ていた。

「———わあ!」

 突然、彼は覚醒して大声をあげた。

「コ、コートニー!」

 クレイのそばに立っていた彼女は申し訳なさそうに彼の瞳を覗き込んだ。

「ごめんなさい。モゲラが中に入りたがってたから・・・・・」

 モゲラ、というのがこのハンマーヘッドの名前らしい。コートニーにはあまりネーミングセンスはないようだ。ハンマーヘッドは片目しかない頭を上げて、どこから出るのか分からない奇怪な音を立てた。コートニーは近づいていって、そいつの頭部を撫でた。

「でも、大丈夫だよ。ほら、おとなしいし・・・・・」

 それから、探るような、懇願するような目でクレイを見た。

「外にいたら、誰かに見つかるかもしれないし・・・・・見つかったら殺されちゃうよ・・・・・」

 家の中に入れさせて。お願い。コートニーの瞳はそう言っていた。

 クレイはハンマーヘッドの様子をじっと観察した。あの異世界でこいつがコートニーと一緒にいるのを見たときはまさに死ぬほど驚いたけど、よく見てみると妙に人なつっこく、その複眼の奧には知性の煌めきさえ感じられた。前に襲ってきた奴とは性質がかなり違うようだ。危険はなさそうだった。もともと生き物は嫌いじゃないし、コートニーには良く懐いていたから、殺す気にはとてもなれなかった。しかし———

 クレイの脳裏に、かつて一度だけ会った、黒衣の少年の面影が浮かんだ。

 何故、この生き物をあの少年が持っていたのか?

 何故、あの少年はぼくの居場所を知っていたのか?

 そして何故、ぼくを助けたのか

 クレイは何となく嫌な予感がしていた。シィナの博物館の周りにはまだ謎の霧が濃く立ちこめている。その奧に何があるのか確かめたかった。そうしなければ取り返しのつかない事が起こるような気がした。

 あの少年に会わなければ。何としても

「・・・・だめ?」

 不意に、コートニーの声が聞こえた。クレイは我に返った。

 不安そうな顔でコートニーが彼をみていた。彼は、少し困ったような顔で微笑みかけた。

「家の中に入れるのはいいけど、ここは狭すぎるよ。・・・・・ぼくに考えがある。博物館の人に相談したら何とかなるかもしれない。朝食を食べたら行ってみようか」

「うん」

 コートニーは頷いた。クレイは起き出して、ハンマーヘッドに近づいていった。彼が近づいても怒った様子も見せない。ただ、彼の動きにあわせて触角がメトロノームのようにかくかくと動いた。

「すごいな」

 クレイは感動したようにつぶやいた。明るいところでじっくり見るのは初めてだった。彼はゆっくりと膝をついてハンマーヘッドに手を伸ばし、そのざらざらした黒い表皮に触れた。手触りはやはり昆虫の外骨格に似ている。しかし昆虫と同じキチンだったらこんな巨体は支えきれないはずだ。どんな工夫がなされているんだろう?彼の心に懐かしい好奇心が芽生えた。彼はしばらく生物学者の目をして、おとなしくしているハンマーヘッドを観察した。

 クレイのそんな姿を、コートニーは困ったように笑いをかみ殺して見つめていた。

「ねえ、クレイ」

 まるでにらめっこするように複眼を覗き込んでいたクレイに、コートニーは尋ねた。

「なに?」

「モゲラの目、もう直らないのかな?」

 クレイは焼けこげたようになっている左の眼柄を見た。片目がなくなった事情はコートニーから聞いている。

「うーん」

 彼は眼柄の中を覗き込んだ。すると、奥の方にルビーのように赤い細胞の塊が見えた。

「———へえ、すごいな。再生が始まってるよ」

「ほんと!」

 コートニーは飛び上がらんばかりに喜んで、彼のそばへ駆け寄ってきた。

「見せて見せて」

 クレイが場所を空けると、彼女は覗き込んだ。息を殺してしばらく細胞塊を見つめていたが、いきなりハンマーヘッドの体に抱きついた。

「ああ、よかった。よかったね。直るんだね。直るんだね」

 ハンマーヘッドが驚いたように触角を震わせた。コートニーはそのごつごつした体を抱きしめ、頬をすりよせた。泣いているようにも見えた。

「ごめんね。痛かったでしょう。ほんとにごめんね」

 ハンマーヘッドはその透明な翼を広げて、抱きしめるように彼女の上に被せた。

 クレイは救われたような表情でコートニーを見ていた。彼女を助けるつもりだったのに、いつのまにかこんな状況になっている。

「・・・・・君はいい人だったんだな」

「え、何か言った?」コートニーが振り返った。

「なんでもない」

 彼は目を伏せて、テーブルのコーヒーを口に運んだ。


 観測室の中では、エリスが哨戒ラインのセンサーからの映像に目を通していた。あの生物の襲撃から三週間近く経つが、あれ以来センサーブイには特に異常なものは映っていない。一時の警戒体制も解除された。保安局はもともと人手不足だったし、観測用機器は自動化が進んでいたから、今は彼女一人が、観測機器からの情報の処理を任されていた。

 今朝も異常なし。彼女は安堵したように息を吐いた。

 もう現れないかもしれない。

 彼女の心から、緊張感が少しづつ薄れてきていた。

 その時、背後でドアが開いて、ケインが入ってきた。

「あ、主任、おはようございます」

 電源の入っていないモニターの画面に映った姿を見て、そうと分かったらしい。振り向かずに彼女は挨拶した。

「ああ」

 ケインは観測室の机の上に置いてあった手帳を開いて予定を確認しながら、エリスに話しかけた。

「君、あのことはもう聞いたか?」

 モニターを見つめながら、彼女は答えた。

「あの探査機のことですか?」

「そう。驚いたよ」

 エリスはケインの方を向いた。

「私もですよ。もうだめかと思っていたのに」

 彼女は嬉しそうだった。ケインも口元に少し笑みを浮かべたが、彼の方はどことなく釈然としない表情だった。

「しかし、どうして助かったのかな?救助活動は打ち切られたのに」

「———さあ。そのへんのことはまだ良く分からないんでしょう?パイロットのフェンネルさん自身からはまだ何も聞いてないみたいだし。ヒューベル博士の話では、彼はまだ精神が不安定で、訳の分からないことを言ったりするそうで、事情を聞くのはもう少し後にした方がいいという事になったらしいですね」

「よく知ってるね。君」

 感心したように、ケインが言った。

「ここにいると、そんな情報はよく入ってくるんですよ」

 そう言って、照れたように彼女は微笑んだ。

「あの探査機の二人組は、一種の英雄だし・・・本人達は気づいてないようですが」

「そうかもな」

 ケインはおかしそうに笑った。エリスも微笑み返して、モニターに眼を戻した。そして海岸に設置されたカメラからの映像を見た。

「・・・・・・あれ?」

「どうした?」

 一瞬のうちにケインの顔に緊張が走って、彼はエリスの見ているモニターのそばへ駆け寄った。彼女の椅子の背もたれに手をおいて覗き込む。

 モニターには、波のたつ海面と、波の間に見え隠れする黒い物体の姿が映し出されていた。

 エリスはしばらく緊張した表情でそれを見ていたが、やがてほっとしたように息を吐いた。

「・・・・あ、いえ。すみません。この黒いの何かなと思ったんですが、多分ヤシの実ですね。海に落ちて漂ってるんでしょう」

 ケインもそれがヤシだと判断したのだろう。安心したように表情をやわらげた。

「脅かすなよ。まったく」


 クレイは博物館のそばにあるシィナの家の玄関に立って、呼び鈴の紐を引いた。しばらく待っていると家の中から足音が聞こえて、真鍮製のノブが回転し、ドアが開いた。その向こう、薄暗い部屋の中にシィナが立っていた。

「・・・・・・シィナさん」

 クレイは驚いたように彼女を見た。

「ど、どうしたんですか」

 彼女は赤い目をして、ほつれた髪のまま、憔悴しきったような顔で立っていた。クレイの姿を見ると彼女はふと目をそらせて、小声で「フェンネルさん」とつぶやいた。昨日とはうってかわった彼女の姿に、クレイは困惑していた。シィナは疲れたような顔でドアを開き、弱々しい声で「どうぞ」と言った。

「何があったんですか?」

 シィナは悲しそうに彼を見た。

「ちょっと疲れちゃって・・・・」

「大丈夫ですか?風邪でもひきましたか」

 微かに、彼女は笑った。

「心配かけてすみません。大丈夫です。すぐ良くなりますから・・・・」

 クレイは家の中にはいった。彼の後ろに身を隠すようにしながら、恐る恐るコートニーも続いた。

「あ、この子は・・・・・」

「知っています。キャンベル教授の娘さんですね。あの人から聞きました」

「はじめまして」

 小声で、コートニーが言った。

 はじめまして、と少し寂しそうに笑いながら、シィナが答えた。

 クレイは小さなカフェ風の部屋を見回した。相変わらず古風な部屋だった。しかし、前来たときよりも薄暗く、生気を欠いているような気がした。部屋の真ん中辺りにある地味で古風なテーブルの上に読みかけの本がおいてあった。シィナがさっきまで読んでいたらしい。クレイはタイトルを読んだ。ギリシア神話だった。

「へえ、神話も読むんですか」

「ええ、あの人から勧められて」

「そうですか。ぼくも好きですよ。それで、あの人は?」

 クレイが尋ねると、シィナは首を振った。

「今日はいません。最近、突然いなくなるんです。申し訳ありません。私の言うことなんかもう聞いてくれなくて。昔はとってもいい人だったのに・・・・・」

 シィナは目を伏せた。彼女がこんなに憔悴しているのは彼のせいだな、とクレイは思った。悪いかなとは思ったが、彼は本題に入った。

「シィナさん。差し支えなければ教えてもらえませんか?彼は一体何者なんです?どうしてぼくの居所が分かったんですか?」

 シィナはしばらく黙っていた。今のこの人はまるで悲しみの精霊のようだ。クレイは彼女の横顔を見ながらそう思った。

 シィナは少し隅のできた目でクレイを一瞥し、それから話し始めた。

「私の父が死んだ日のこと、前に話しましたよね。その数日前に、父が彼をここへ連れてきたんです。知り合いの人の子供だと言って。その人は急用で島を離れるから、家でしばらくあずかることになったって。・・・・・その後すぐ、父が死んで、私はひとりぼっちになりました。悲嘆にくれてどうしようかと思っていたとき、彼が私をいろいろ助けてくれたんです。子供とは思えないくらいしっかりしてて、私は彼のおかげで何とかここで生きてこられたんです。そのうち、彼には不思議な力があることが分かりました。人の心を操作するというか、脳の機能を騙すというか、とにかく不思議なんです。私も少し教えてもらいましたが・・・・街の人が私のことを魔術師なんて言い出したのはそのせいかもしれませんね。・・・・それから、彼はこの島のことをいろいろ調べ始めて、そのころからです。だんだん人が変わってきたのは。私には辛く当たるし、やけに人間を嫌いだすし。私はもう、あの人が分からなくなりました。だから、フェンネルさんの居所をアーベルが、アーベルというのが彼の名前ですが、知っていた理由については分かりません。もしかしたらこっそりあの穴を探検したことがあったのかもしれませんが・・・・・」

 シィナは口をつぐんだ。クレイはそうですか、と呟いた。彼女の話からは、あの少年の正体は分からない。彼の不安は消えなかった。彼は、彼の持っている最大の疑問について尋ねようかどうか迷った。今のシィナはかなり憔悴している。これ以上ショックを与えていいかどうか彼は決めかねていた。その時、コートニーが彼の服の裾を引っ張った。彼が振り向くと、彼女は何かいいたげな瞳で彼を見ていた。

「・・・・ああ、シィナさん。この子が何か話したいそうです」

「あ、なに?」

「あ、あの、これ」

 コートニーはマントと、拳銃を差し出した。

「返します。・・・・・ありがとう」

 シィナは首を振った。

「それはあなたにあげるって、彼が言ってました。これからいろいろ起こるかもしれない。武器は手放さない方がいいって」

「いろいろ起こる?何がですか」

 クレイが尋ねた。シィナはわかりませんと答えた。やはりあの少年は何かを知っているのか?クレイは思い切って、彼の不安を口にした。

「あの、これはぼくの思い過ごしかもしれませんが、そのアーベルという人、もしかして、あの『マンディブラス』と、何か関係がある可能性はありませんか?」

「え?」

 シィナは驚いたようにクレイを見た。不意打ちを受けたような顔をしていた。

「それはどういう事ですか?」

 こんな話をするんじゃなかった、シィナの顔を見て、彼は後悔した。彼女は何も知らないに違いない。それなのに、これからぼくが言うことを聞いたら・・・彼女の反応はある程度予測できた。彼は躊躇した。徒に彼女を不安にさせるつもりは毛頭無いのに・・・・。

「話して下さい。フェンネルさん」

 懇願するように、シィナはクレイを見つめた。彼は自分が追い込まれているような気がした。

 ぼくはバカだ。彼女がこんなに疲れてるときにこんな話をするなんて————。

 しかし、シィナの目を見て、全ては遅すぎたことを知った。彼は意を決して、口を開いた。

「———彼は、ハンマーヘッドの卵を持っていたんですよ」

 シィナの目が大きく見開かれた。その言葉は彼女の心にナイフのように突き刺さったようだ。みるみるその顔が青ざめていった。彼女は否定するように首を振ったけれど、唇はわなわなと震えていた。

「・・・・そんな、嘘です・・・・・そんなこと・・・・」

 彼女の目から蝋燭の火が消えるように生気が消失した。彼女は小さな声で何かをつぶやき、そしてよろよろと後ずさって、部屋の壁にもたれかかった。そのまま彼女は呆然としたような顔で俯き、石の床を見つめている。クレイは後悔した。彼女の瞳の虚ろな光は、今にも消えてしまいそうに見えた。

「で、でもシィナさん」

 慌てて彼は言い足した。

「その卵から孵化したハンマーヘッド、その個体はこの前襲ってきた奴と形は同じなんですが、その、様子というか性質が違うんです。ぼくたちに敵意は持ってない様だし、それどころかコートニーをいろいろ助けてくれたんですよ。その理由を知りたくてあの少年に会いたかったんです」

 シィナは黙っていた。ぼくの話は彼女の耳に入ってるんだろうか、クレイは心配になったけれど、とりあえず事実を全て話した方がいいと思った。本当のことを知れば不必要な不安が消えると思ったからだ。彼はそれからコートニーがアーベルに会った経緯や、彼があの異世界への行き方を教えてくれた事、コートニーがハンマーヘッドに救われた事を話した。

「———だから、ぼくにはあのハンマーヘッドが敵だとは思えません。あの少年もそうです。ぼくは間接的に彼に救われたわけですからね。今は必要以上に心配することはないと思います。でも、あまりに不可解なことが多いから、それをはっきりさせたかったんです。・・・・わかりますか、ぼくの言いたいこと?」

 シィナは彼から視線を逸らしながらも、小さく頷いた。それから、呼吸を整えるように胸に手を当てて息を吐いた。

 数分経つと、彼女はかなり落ちついてきたように見えた。

「大丈夫ですか?」

「————ええ」

 いつもの彼女の声に戻りつつあったので、クレイは安心した。シィナは少しばつが悪そうな顔をした。取り乱しているところを彼に見られたのが恥ずかしそうだった。

「・・・・フェンネルさん」

 自分の感情をごまかすかのように、シィナが聞いた。

「そのハンマーヘッドはどうなったんですか」

「そう、そのことなんですが・・・・・」

 クレイは言いづらそうにして、コートニーと目を合わせた。

「今日うかがったのはそのこともあるんです。あのハンマーヘッドは今、ぼくの家にいるんですが。でもそこじゃ長時間は養えそうにないし、誰かに見つかってもまずいし・・・」

 それからクレイは一息ついて、意を決したように言った。

「あいつを例の地下空間に入れさせてもらってもいいでしょうか」

「————え?」

 意表を突かれたようにシィナはクレイの顔を見た。

「お願い」

 コートニーが小声でつぶやくように言った。

 シィナは呆気に取られたような顔で、交互に二人の顔を見つめた。


 その頃、海岸では異変が起こりつつあった。観測室のモニターに映っていた黒い物体は、すさまじい速度で膨張を続けていた。水面上に出ている部分の大きさはほとんど変化していなかったが、人目につかない水面下では、すでに直径5メートルを越える放射状の形態が造られつつあった。それは四方八方にヒトデのような形の仮足を伸ばしていく。足の表面からは気泡のような膨らみが生じて、この物体の重量に見合うだけの浮力を与えていた。海の生物達は突然の異変に驚き、岩陰に身を潜めて、慎重に様子を探っている。

 しかし、人類はまだ気づいていない————

 翌日の早朝、人々はそいつの存在に気づいた。しかしもう遅すぎた。


「主任!」

 観測室で、エリスが叫んだ。金切り声に近かった。

「未確認物体を捕捉、島のすぐそばです!」

「何だって!」

 モニターを見るまでもなかった。それの姿は保安局の窓から直接見ることができた。

 トリオニクス湾の中に、奇怪な物体がそびえ立っていた。

 遠くから見ると、異様に柄の長い雨傘のように見えた。海の中から柱のようなものが伸び、その上にチューリップの花を逆さにしたような、もしくはキノコの傘のようなものがついた物体だった。海面から上部構造物までの高さは優に50メートルはありそうだった。

「いつの間にあんな所に! 何故こうも易々と奴の侵入を許したんだ」

 ケインは唇を噛みしめた。物体と海岸との間の距離は200メートルもない。

「警報を発令しろ、海岸付近の住民を早急に非難させるんだ」

 それから、ケインはアッカー局長に連絡をとった。眠っていたらしい局長は、ケインの報告で飛び起き、すぐに非常警戒体制に入るよう命令した。それから、カハール博士とヒューベル博士に連絡を取るように促した。

 そして、午前6時12分。ノーチラス島の時計塔から、非常事態を知らせる鐘の音が鳴り響いた。


「うわ、何だ!」

 いきなり大音響で響いてきた鐘の音に驚き、ペンクロフトは飛び起きた。起きると同時に電話のベルがけたたましく鳴り出した。世界が戦闘状態に入ったことを知らせるファンファーレのようだった。

 島の空気が急速に緊張をはらんできた。朝の空気を切り裂いて、喧噪が広がりつつあった。その中をエリスの緊迫した声が流れていた。

「非常事態発生。海岸付近の住民は速やかに内陸部へ避難して下さい。異常物体が出現、現在トリオニクス湾内にまで侵入しています。沿岸部は非常に危険です。速やかに避難して下さい。繰り返します———」

「クレイ、大変!」

 コートニーが内階段を駆け下りて居間に飛び込んできた。その時、クレイは既に目を覚まして、窓から海面に屹立するその物体を見つめていた。

「————来た」


 海岸付近ではパニックが起こっていた。白壁の家々からはわらわらとまるでアリの巣をつついたように人々が飛び出してきた。物体が落とす陰の下を人々は我先にと内陸部へと走っていく。

 その中で一人、白衣姿の細身の人物だけが、人々の流れに逆らって、海岸へと駆けていった。素顔を無機質なマスクで隠し、しかしその奥で鋭い眼光を宿した、カハール博士だった。博士は海岸の防波堤までくると、それについている階段を上って防波堤の上に立って、朝日を背に逆光になっているその物体を見つめた。

「———素晴らしい」


 観測室にアッカー局長が駆け込んできた。顔が少し青ざめているように見えた。

「状況を教えてくれ!」

「物体に動きはありません。今朝からあの状態で沈黙しています」

 望遠カメラの映像を見ながらエリスが答えた。

「どうして探知できなかったんだ!」

「漂流物を装って接近してきたんです」

 エリスの声は、半ば叫ぶように、絶望を含んでいた。

 ケインは受話器を持っていた。ペンクロフトと話しているらしかった。

「———それで、あの人型機械は使えるんですか?・・・・ええ、お願いします。一刻を争うんです」


 博物館の中でミミズトカゲの標本瓶を磨いていたシィナは、響きわたる鐘の音に首を傾げた。

「・・・・なに?」


 海の見える草原に佇んでいた少年は、口元に微笑を浮かべた。


 クレイは観測技師の制服に着替えると、足早に部屋を出ていこうとした。

「どこ行くの?」コートニーが走りよってきた。

「ペンクロフトの所へ。フェルドランスが必要になるかもしれない。君もおいで」

 束の間の平和は去って、島には再び、緊迫した空気が漂っていた。

 慌ただしく人々が動き回る中、その混乱の張本人である異常物体は、皮肉にも海の上で微動だにしなかった。


 一時間後————

 洞窟から伸びる滑走路の上に、特殊装備に改装されたフェルドランスがレールの上を動くキャリアの上に乗せられ運び出されてきた。

 汚れた作業衣姿のペンクロフトが、洞窟内の格納庫でマニュアルを食い入るように見ているクレイに向かって叫ぶ。

「どうだ、やれそうか?」

 クレイは顔を上げた。

「多分。でもヘリは初めてだからな。一般的には飛行機より難しいし・・・・」

「おまえならできるさ。安心しろ」

 ペンクロフトは、フェルドランスを見上げた。機体の上に傘の骨のようなものが広がっている。翼が外され、代わりにヘリコプターのようなローターが取り付けられていた。ローターにはブレードが六枚取り付けられている。自重で少したわんだブレードの先端は前に突き出した胸部の先付近にまで達していた。

 短時間で組み立てたにしてはいい出来だ。ペンクロフトは満足した。フェルドランスに垂直離着陸および停空飛行を可能にさせるためのユニットだった。

 あの物体、—保安局の連中は「チューリップ」という名で呼んでいた—には未だ動きはない。相手がどういうものなのか、危険なのかそうでないのかを早急に調べる必要があった。そのために、いざというときには充分な攻撃力で対抗できるフェルドランスで接近し、様々な情報を得ようという事になったのだ。

 ペンクロフトは、湾の中にそびえているチューリップを見た。まさにチューリップのように、細く長い軸の上に巨大な半透明の塊が乗っている。保安局の話では水面下にも巨大な構造があって、それが浮きのように上部構造物を海面上に持ち上げているらしい。

 何なんだ、一体?

 彼は首を傾げた。

「クレイ、大丈夫?」

 格納庫の中で声がした。コートニーが心配そうにクレイを見つめていた。

「多分ね。相手はそんなに速く動けるようにも見えないし、こっちは武装してるしね」

 クレイはマニュアルから目を離し、コートニーを安心させるかのように微笑んだ。それから、ペンクロフトの方へ向き直って、「行こうか」と言った。

「操縦法はわかったな?」

「まあ、なんとか。ローターの回転と逆方向に生ずる回転モーメントはどう処理する?本物のヘリじゃないから・・・」

「それなら心配ない、尾部バランサーにつけた小型ローターが上手いことやってくれる」

「了解」

 クレイは機体に立てかけられた梯子を登って、コクピットの縁に足をかけた。見下ろすとコートニーと目が合った。両手を握り会わせて不安そうに見上げている。

「行ってくるよ。すぐ帰ってくるからね」

 クレイは明るい声で行った。

「あなたは前もそう言って、結局帰ってこなかったよ」

 クレイは苦笑した。

「そしたらまた迎えに来てよ、コートニー」

 彼はコクピットに乗り込み、ハッチを閉めた。

 メインスイッチON。計器に灯が点り、頭部及び胸部カメラからの映像がコクピット内に映し出された。

 前方は海。この騒ぎも意に介していないかのように茫洋と広がっている。左手にトリオニクス湾。その真ん中辺りに、問題のチューリップが見えた。

 ディスプレイ上を三角と丸の図形が移動、チューリップの上で重なって鋭い電子音が鳴った。

「チューリップ捕捉」

 彼は呟き、機体の右手を動かして、離れろ、いうジェスチャーをした。ペンクロフトがコートニーを引っ張って機体から遠ざかる。

 ———発進

 クレイはスロットルを開いた。頭部の後方についていたメインローターが回転を始め、ひゅんひゅんと音を立ててブレードが機体の上で風を切った。

 クレイはローターの回転数が離陸に充分な値に達した所で左手の操縦桿を操作した。何かに持ち上げられるような感覚と共に、フェルドランスの爪先は滑走路を離れた。そして、機体はゆっくりと上昇していった。

「何とかやれそうだな」

 操縦桿とフットペダルを操作しながらクレイはつぶやいた。彼は操縦桿を前に倒した。ローターが前傾して、フェルドランスはチューリップの方へと移動を始めた。測距儀のデジタル表示では距離5キロメートル。スロットルを開けると、その数値がみるみる減っていく。海面を波立たせながら、ヘリコプターのように機体が空を滑って行く。一分余りで機体はチューリップの上空に到達した。

 クレイは機体を停止させた。チューリップの真上で、フェルドランスは停空飛行を始めた。ローターからの風が下の海面に放射状に波を広げていく。しかしチューリップは微動だにしない。

「ペンクロフト、聞こえるか?」

「感度良好」管制室から返事が返ってきた。

「現在、チューリップの上空15メートル。これからハリエットを降ろす。受信モニターの準備はどうだ?」

「できてる。それから、この回線は保安局観測室にもつなげてある。以後はそっちの指示に従ってくれ」

「了解」

 クレイは下部を映しているモニターを見た。チューリップの上部が見えた。上から見るといびつな5角形をしている。バクテリオファージを上から見るとこんなんだろうか、とクレイは思った。

 その時、観測室から通信が入った。

「こちら観測室、フェルドランス、聞こえますか?」

 いつかのオペレーターだった。知っている声だったので彼は安心した。

「聞こえます。感度は良好です。よろしくお願いします」

「こちらこそ。モニター回線接続終了しました。いつでもどうぞ」

「了解。———ハリエット降下」

 カチリ、とロックが外れて、フェルドランスの右腕部が肘の所から外れ、ワイヤーで吊られた状態で下へと降りていった。同時に腕にしがみつく形でとりついていた自走式観測ユニット、SPPT-2「ハリエット」が起動し、腕部から起きあがった。メインカメラ作動。フェルドランスのコクピット、ペンクロフトの管制室、保安局観測室のモニターに同じ映像が映った。

 停空飛行を続けるフェルドランスから、アームアンカーとなった腕部とハリエットがするすると降りていく。チューリップの真横まで来たところでクレイはアームアンカーのワイヤーを止めた。これからはハリエットの仕事だ。

「ハリエット、よろしく」

 ハリエットは全センサーを解放した。それぞれの部署のモニターに半透明のチューリップの表面構造が映り、電磁気、大気振動、温度等の計測値が記録され始めた。

 その値に、エリスは素早く目を走らせた。

「光学反応なし、音源反応なし、赤外線軽微、反射熱の範囲内です———」

 半透明の樹脂のような構造からは、生命活動を示唆する値は計測できない。

「組織のサンプルを採った方がいいでしょう」

 後ろで見ていたカハール博士が言った。

「パイロットのフェンネル君に外皮の一部を採るように伝えてください。ついでに、先日は生還おめでとう、ともね」

 了解、と答えて、エリスはクレイに、ハリエットに組織のサンプルを採らせるようにと伝え、こう言い足した。

「それから、カハール博士が生還おめでとう、と」

「ありがとうございます。博士」とクレイが答える。

「直接お話ししたいと常々思っているのですが、近頃事件が多くて時間が取れず、残念に思っています」

 それを聞くと、何を思ったか、カハール博士がふっ、と吹き出すように笑った。

「ああ。この件が片付いたら私の研究室に遊びにきたまえ」

 その博士の様子を、アッカー局長は、不思議な動物を見るような様子で見つめていた。

「あの先生が笑うところを初めて見たよ」

 局長はケインに、ささやくように言った。

 そのとき、ハリエットのマニピュレータが動いて、先端から小型のボーリング装置が出てきた。クレイはフェルドランスを少しだけ前進させて、チューリップとハリエットとの距離を縮めた。ハリエットはマニピュレータを伸ばし、そして直径一センチ位の針をぶすりとチューリップに差し込んだ。

 何も起こらない———かに見えた。

 びくっ、とチューリップ全体が震えた。その途端、ハリエットについていた超小型SQUID、超伝導磁気計測装置の電子針が振り切れた。チューリップ内部で磁気が、つまり電気が発生したのだ。神経及び筋肉が活動した証拠だった。

 採取終了、ハリエットは針を引き抜いた。

 その途端、チューリップの表皮の一部が膨張した。そして丸いコブができた。それはみるみる形を整え、あっと言う間にワニの顎のような形を作った。

「なにあれ!」

 エリスが叫んだ。クレイもそれを見た。

「危ない!」

 一瞬の判断で、彼はワイヤーを巻き上げた。ハリエットが上昇、次の瞬間、顎の後部がカメレオンの舌のように伸びて、さっきまでハリエットがいた空間を大顎が噛み裂いた。

「すごい。素晴らしい形態変化だ」カハール博士がつぶやいた。

 半透明の綱のようなものでチューリップ本体とつながっている大顎は、空中でくるりと向きを変え、再びハリエットに襲いかかった。間一髪でフェルドランスが離れ、顎は再び空をきる。しかし一気に綱が伸びて顎は執拗に追ってきた。フェルドランスはアームアンカーを収納して加速。だが顎は追ってくる。本体から100メートル以上離れても、大顎は追いかけてきた。速い。目も口もない、顎だけの物体が、フェルドランスの後ろで大きく上下に開いた。

「クレイ!」

 管制室でコートニーが叫んだ。

「ち!」

 後部モニター一杯に不気味な口が見えた。速い。速度はフェルドランスより上だった。逃げられない、クレイは機体を反転させた。

 彼の真ん前で、博物館の恐竜くらいある顎が開いていた。歯もついている。クレイは左腕についていた電磁投射砲「LRC」を構えた。

 彼は唇を噛んだ。一瞬、撃つな、と生物学徒の彼が叫んだ。

 ————うるさい、黙れ、おまえはもう死んだくせに!

 パイロットとしての彼が引き金を引いた。

 轟音、青い火球が飛んだ。

 爆発が起きた。弾体は一瞬のうちに大顎を粉砕していた。

 爆炎の中で、顎と本体を結んでいた綱のようなものがのたうちながら引き戻されていった。クレイはチューリップを見た。再び顎が造られる気配はない。

「クレイ、帰還しろ。ハリエットのデータから次の作戦を考えるんだ」

 ペンクロフトの声がした。

 了解、と彼は呟いた。額に汗をかいているのに気づいた。チューリップを一瞥して、クレイは機体を翻した。

「いや、今のを見ましたか、全く、驚かされますね」

 観測室のカハール博士はマスク越しの嗄れた声で、興奮を押し隠すように言った。

「おそらくあの綱の中には先端の顎を支える筋肉と、顎を動かす神経の束が入ってるんでしょう。送電ケーブルですよ。全く大した奴じゃないですか、一種のリモコンですよ、あれは」

 アッカー局長は無愛想な顔で彼をみた。

「でも我々は奴を退治しないとならんのですよ。感心するのもいいが、いい対処法をまず考えて下さい」

「いや失礼。失礼」

 カハール博士は興奮冷めやらぬ顔で言った。

「あ、あの私思うんですけど」

 二人の会話を聞いていたエリスが割り込んできた。

「さっきの様子ではチューリップの表面はそんなに堅くなさそうだし、チューリップ自身はあそこから動けそうにないから、遠くからさっきの武器で狙撃したらどうでしょう?」

「でもそんなことしたらあの生物の生理機能は解明できないぞ。とくに制御中枢は無傷で入手しなければ、人類にとって大いなる損失となる」

 カハール博士は不機嫌そうに言った。

「いやこの際それは問題ではない。問題なのは危険な生物が街の真ん前に鎮座していることだ。さっきの彼女の考えは名案だと思う。私も狙撃すべきだと思うね」

 アッカー局長の言葉に、ケインも頷いた。無愛想な顔でカハール博士は観測室内を見渡した。しかしそこにいる保安局員達は皆局長の意見に賛成らしかった。天才科学者は嘆くように溜息をついた。


 二時間後、ローターを外され、再び元の翼に換装されたフェルドランスは、崖の上、クレイとペンクロフトの家の間にある草原に立っていた。機体の各部には戦闘用に様々な武装が施され、探査機と言うより重装備の騎士のように見えた。

「用意はいいか?」

 機体を見上げていたペンクロフトが尋ねた。

「ああ」

 ハッチを開けたままのコクピットでクレイが答えた。それから彼は機体の左にある「LRC」を操作した。騎士の長槍のような砲身が動き、5キロメートル程先にあるチューリップにぴたりと砲口をあわせる。

「準備完了、観測室に伝えてくれ」

 ペンクロフトは手元の小型無線機で、保安局の人々に準備完了の旨を伝えた。彼の横で、コートニーが不安そうにフェルドランスを見上げていた。

「ねえ、あれで大丈夫なの?」

「心配ないさ。120ミリの炸薬弾体だからね。あんなチューリップごとき、木っ端微塵になっちゃうよ」

 自信たっぷりに、ペンクロフトは答えた。コートニーは安心できないようだった。機体に立てかけてある梯子を半分ほど登って、コクピットを覗き込んだ。

「クレイ・・・・」

「心配ないよ、コートニー。もし外してさっきみたいなのが襲ってきても、この完全装備ならなんとかなるさ。さっさと終わらせてまたベランダで星を見よう」

 クレイは微笑んだ。コートニーは、ここにいていい?と尋ねた。

 彼は頷いた。機体の下のペンクロフトは無線機に向かって了解、と言った。

「保安局から砲撃許可がでた。やってくれ、クレイ」

「———了解」

 クレイはトリガースイッチに指をかけた。照準はチューリップの花、つまり半透明の部分にあわせてある。この距離なら絶対に外さない。ペンクロフトの折り紙付きだ。彼は息を整え、チューリップを見据えた。

 ————行け!

 彼は歯を食いしばって、引き金をひいた。

 轟音、空薬莢と爆煙が吹き出した。そして、青い火球が一直線に飛んだ。

 その時異変が起きた。チューリップが膨張したように見えた。

 しかし火球は狙い違わず、チューリップのど真ん中に激突した。

 爆発!

 チューリップの花があったところで爆炎が上がった。破片が飛び散った。

「着弾確認!」エリスが叫ぶ。全ての人が勝利を確信した。

 しかし————

「何だ、あれは」誰かが呟いた。

 煙が晴れたとき、そこには依然としてチューリップが佇んでいた。傷一つない。まるで魔法のようだった。

「そんなバカな・・・・」

 アッカー局長が呟いた。その時、カハール博士が感動したように叫んだ。

「やりますね。外皮ですよ、外皮を装甲として使ったんです。内部に新しい組織を作っておき、弾丸が命中する瞬間に古い外皮を押し広げ、それをリアクティブ・アーマーとして使ったんですよ」

「何だって・・・・」

 クレイ達も呆然としてチューリップを見つめていた。海から伸びる一種前衛的とも言える物体が底知れぬ能力を秘めていることを彼らは知った。

「反撃してくる・・・・・」

 クレイが呟いた。コートニーは怯えたような顔をしてクレイの手を握った。

 チューリップの輪郭がおぼろに歪んだように見えた。そして、全く意外なやり方で、チューリップは恐るべき反撃を開始した。

 チューリップから、奇怪な音が大音量で迸った。何か金切り声のような、悲鳴のような、比較になるものがなにもない、それは異様な音だった。

「きゃあああ!」

 クレイの横で、コートニーが耳を押さえて絶叫した。その声が彼の耳の奧でいびつに反響した。そして————

 耳の奧で何かがぶつりと弾けた。そして、ラジオのスイッチがいきなり切れたように、全ての音が途絶えた。

 チューリップは一瞬のうちに、全ての人の聴覚機能を破壊したのだった。



 16-沈黙の世界


 クレイの世界から音が消えた。物は見えるし、感触もしっかり伝わって来るのに、音だけが完全に抜け落ちていた。

 ———コートニー、大丈夫か

 訊いたつもりなのに、自分の声すら聞こえない。口を動かしている感覚はあるけれど、なにを言っているのか、口からどんな音が出たのかわからない。

 隣で、コートニーが口を開けていた。何かを叫んでいるようだった。しかしクレイには聞こえなかった。

 観測室では、エリスが耳を押さえ、呆然と周りの様子を見つめていた。保安局員は皆きょろきょろと周りを見回し、口をぱくぱく動かしている。

 何も聞こえない。滑稽な無声映画を見ているようだ。誰かが肩に手をおいた。振り返るとケインが何かをわめくように口を動かしていた。エリスは首を振った。

 ———わかりません

 観測室の機能は事実上、停止していた。

 街はパニックに陥っていた。突然世界から全ての音が消失した。服ずれも、階段を下りる音も、道を駆ける靴音も、ドアの軋みも消えた。世界は不安感と深い喪失感に包まれた。そして恐怖が襲ってきた。人々は知った。人間は危険の接近を音によって認識することを。ドアの向こうに不気味な気配を感じたとき、人は耳をそばだてる。背後からの音に、人は恐怖して振り返る。「気配」とは聴覚によって認識されるものだ。様々な警報装置は音によって危険を知らせる。人間の警戒行動は、視覚よりも聴覚によって担われているのだ。そして、危険を感じたとき、身近にいる仲間との連絡には「声」という音を使う。それと気づかぬうちに、生存のキーポイントとなるところに、音というものがあった事を人々は知った。失った物の大きさに人々は驚き、そして恐怖した。街の至る所で、聞かれることのない悲鳴が響きわたる。

 街外れの病院に人が殺到したが、医師自身何も聞こえなかったので対処の仕様がなかった。街のあちこちで騒ぎが起こり始め、狂気が少しずつ芽生えようとしていた。

 海にはチューリップ。音の消えた世界に佇んでいる。それは悪夢の象徴だった。音のない悪夢の。

 シィナは博物館の庭にうずくまって、耳を押さえて震えていた。そばには水やり用の漏斗が転がっている。木々のざわめきも、鳥の声も途絶えた世界で彼女は怯えていた。

 彼女の後ろからアーベルが近づいてきた。

「やれやれ、まさかこんな事になるとはね」

 彼の声だけが、はっきりと周りに響いた。彼だけは聴覚が損なわれてないようだった。

「みんな内耳が麻痺したんだね。君たちの細胞が持ってる、びっくり箱みたいなレセプターじゃあれには耐えられないだろうな。まあでもそれほど心配することはない。一過性のものだから、すぐに回復するよ。安心したまえ・・・・と言ったって、聞こえないからどうしようもないか・・・・・」

 彼は、震えているシィナを見下ろした。

「他の奴等がどうなろうと知った事じゃないが、君だけは見殺しにすると後味が悪そうだからね・・・・・」

 少し寂しそうにつぶやくと、彼はシィナを起きあがらせて、博物館の方へと連れていった。

 クレイはコクピットから下を見下ろした。ペンクロフトの口がぱくぱく動いている。何か叫んでいるようだ。

 わ・か・ら・な・い

 クレイは口を大きく開けて、しっかり発音するように動かした。

 き・た・い・を・う・ち・へ・は・や・く

 ペンクロフトも口を大きく開けて答えた。逃げろ、と言いたいらしい。クレイはチューリップを見た。半透明な花の部分が動いていた。いつのまにか、コブのようなものがたくさんできていた。さっきのリモコン生物をいっぱい作るつもりか、クレイは戦慄した。彼はコートニーの手を引っ張ってコクピットに乗せると、フェルドランスを発進させた。音が聞こえないから正常に作動しているか不安だ。しかし、何とか機体は動いてくれた。彼はハッチを開けたまま機体を走らせて、ペンクロフトの家の横につけた。

 だ・い・じ・ょ・う・ぶ・?

 クレイはコートニーに尋ねた。彼女の青い目は怯えの色に染まっていた。

 こ・わ・い

 彼女の口はそう動いた。

 クレイはコートニーの手を握った。彼女の手は震えていた。彼は機体から降りた。ペンクロフトも追いついて、三人は家の中へ避難した。

 ど・う・す・る・?

 観測室の中で、クレイが尋ねた。ペンクロフトはその口の動きを見て、「何時だ?」と言われてると思った。彼は時計を見せた。クレイは訝しそうな顔をした。

 な・ん・じ・だ・っ・て・い・い・だ・ろ

 ペンクロフトはそう口を動かした。クレイはしばらく考え込んで、おもむろに机の引き出しから胃腸薬のビンを取り出して見せた。ペンクロフトは首を振った。だめだ、これじゃ話にならない。彼は机の上に置いてあった計算用紙と鉛筆を取って、それに何かを書き、クレイに差し出した。

 これは一体どういうことだ、と書かれていた。クレイも鉛筆を取ってその下に書いた。

 わからない

 どこがやられたんだ?

 多分、聴覚神経系の末梢に近い所じゃないかと思う。中枢側だと他の感覚にも異常が出るはずだからね

 なおるのか?

 わからない。でも痛みはないし、一時的なものかもしれない

 ペンクロフトは舌打ちするように口を動かして、窓から外を見た。途端にぎょっとしたような表情になり、クレイを手招きして、外を指さした。

 クレイは見た。チューリップから無数の触手のようなものが伸び、空中を動き回っている。触手の先端はそれぞれ異なった形態をしていた。あるものはさっきの顎のようであり、またあるものは昆虫のような形で飛翔している。また別のものはシダの葉のような形で空中を漂っていた。

 チューリップが正体を現した———

 クレイの心を戦慄が駆け抜けた。街の人も皆耳が聞こえないに違いない。そんな状態で奴に襲われたら・・・・・

 沈黙の世界の中で襲ってくる怪物。それはまさに悪夢だった。

 コートニーがクレイの袖を引っ張った。見ると、瞳に恐怖の色を浮かべて、彼女はじっとクレイを見つめていた。

 し・ぬ・の・?

 クレイは首を振った。計算用紙に、すぐに直るよ、とでまかせを書いてコートニーに差し出した。

 ペンクロフトは管制室のモニターを見た。保安局との回線は?彼はコンピュータに駆け寄って、管制室との連絡を調べた。まだ繋がっている。彼はキーボードを叩いて、こちら迎撃機管制室、と打って送信した。

 返事はない。向こうで呼び出し音は響いているだろうけど、彼らには聞こえない。向こうが混乱してて画面を見ていないとどうしようもない。人間のコミュニケーションの大部分は音を用いたものなのだ。これだけメディアが進んでいても感覚を一つ奪われるだけでどうしようもなくなってしまう。人類のもろさに彼は気づいた。

 だ・め・だ、とペンクロフトは口を動かした。

 どうする、と書いた紙をクレイが差し出した。

 対策を考えよう、とペンクロフトは返事を書いた。

 その時、いきなり窓の外を奇怪な物体が横切った。音もなく巨大なものが通り過ぎたので、まるでお化け屋敷の仕掛けに引っかかった様に部屋の三人の心臓が収縮した。

 窓の外をリモコン生物が漂っていた。さっきの奴とは少し違う、鳥のような翼と嘴を持った卵形の物体だった。羽ばたいている。その後部からは細いけど強靭なケーブルがのびている。その先はチューリップに繋がっているはずだった。しかしここからチューリップまでは優に五キロはあるのに————

 こんな所まで届くのか!

 ペンクロフトは戦慄した。彼は恐る恐る窓に近づいて、街の方を見た。

 ———うわ!

 彼は見た。チューリップから無数の触手のようにリモコン生物群が伸びて、アルケロン市上空を舞っていた。いくつかは地面の上に降りて街を蹂躙し始めているようだった。街の人々は・・・・ペンクロフトの脳裏に、音無しの世界から襲ってくる怪物に怯える人々の姿が浮かんだ。

 その時、クレイが彼の肩をつついた。振り向くとクレイは悲痛な表情で、文字の書かれた計算用紙を差し出していた。

 ————ぼくが行くよ

 そう書かれていた。

 ばかな、こんな状態で飛ぶ気か!ペンクロフトは聞こえないのを判っているのに思わず叫んでいた。

 クレイは更に紙に何事か書いた。

 ———あの機体は、基本的には計器飛行だから、操縦はできる

 ペンクロフトは計算用紙をひったくって、荒々しく書き殴った。

 ———それでもエンジン音やセンサーの警告音を聞きながら動かしてるんだろ、それに通常の飛行ならともかく、空中戦なんかできると思っているのか

 クレイはしかし意を決したように、窓まで歩いていって、街の方を指さし、悲しそうな顔で口を動かした。

 街が

 そう言っているようだった。更に彼は紙を取って、さらさらと何かを書いてペンクロフトに手渡した。

 ぼくだって、不利なのはわかってる。それに怖い。とても怖いよ。でも今何とかしなければ。これから夜になると取り返しのつかないことになる

 ———夜

 ペンクロフトは気づいた。夜になると更に視覚まで奪われてしまう。電気なんかいつ供給路が破壊されるか判らない。停電なんかになると、もうチューリップの襲撃を逃れる方法はない。音のない闇の中で死ぬのを待つだけになるのだ。

 クレイは黙り込んだペンクロフトを見ていた。自分が行かねばならないことは判っていた。これは宿命だったんだ。生物学を棄てたときから決まっていたことだったんだ、そう考えて納得しようとした。それに———

 それに、シィナさんに約束したじゃないか。ぼくが何とかすると・・・・・

 彼は最後に、手元にあった計算用紙に、彼の最後の願いを書いた。

 ———ぼくにもしもの事があったら、コートニーの事をよろしくお願いする

 彼はその紙を二つに畳んで、ペンクロフトに渡した。それから、彼の後ろにいたコートニーに向き直った。

 い・っ・て・く・る

 コートニーは目を見開いた。

 それから、いきなり彼の服にしがみつき、何かを訴えるように口を動かした。何度も何度も。同じ言葉を繰り返しているようだった。クレイはその唇を読んだ。

 いかないで

 彼女はそう言っていた。クレイは悲しそうに首を振った。そして彼女の小さな肩に手を置いた。コートニーの目から涙が溢れていた。クレイは服の袖でそれを拭った。

 ぼくは君に会えて良かったと思ってるよ。本当に。いい思い出をありがとう、コートニー・・・・・君はきっと素敵な人になるね

 彼の言葉は彼女には伝わらないだろう。しかし彼はペンクロフトを見て、彼が小さく頷くのを確認すると少しほっとしたような表情をした。そして踵を返し、管制室を出ていった。ドアが閉まった。コートニーは後を追おうとした。しかし彼女をペンクロフトが遮った。彼を押しのけてコートニーは行こうとしたけれど、ペンクロフトは行かせなかった。悲痛な顔で、彼女を押し止めて首を振った。

 コートニーは両膝を床について両手で顔を覆って泣き出した。

 クレイは家の外に出て、フェルドランスに乗り込んだ。ハッチを閉めて電源を入れた。コクピット内に明かりが点り、計器類が浮かび上がった。エンジン始動。しかしエンジン音は聞こえない。だが計器の目盛りとシートの背部から伝わってくる振動で、機体の状態は何とか知ることができた。

 なんとかやれるか

 クレイは聴覚系と共に平衡覚系までやられなかったことに少し安堵した。聴覚と平衡覚は、同じ第8脳神経としてまとまって中枢に入る。平衡覚と聴覚が重なるところが壊れたら終わりだった。平衡感覚がなくなったら、操縦はおろか立つことすらできなくなってしまう。そうならなかったことは僥倖かもしれない、彼は前向きに考えて、恐怖を押さえようとした。

 主翼展開、尾翼伸張———

 彼は機体を垂直離着陸(VTOL)モードにした。ディスプレイの表示が切り替わる。背部エンジンの出力が上がっていく。フェルドランスの主翼が少し下にさがり、脚部の補助エンジンも始動した。

 いよいよだ

 クレイはコクピットで唇を噛みしめた。機体の四カ所から青い光芒があがり、機体は地面の屑を吹き飛ばしながらゆっくりと上昇した。周りの草きれが舞い上がる。地上5メートル。ハンマーヘッドに壊された家の屋根を越えた。地上十メートル。クレイは前方にチューリップを捕捉した。

 悪趣味な前衛芸術のようだった。海上50メートルにある半透明の本体から無数の線が延びている。いくつかは街に突き刺さり、街の一部からは煙が上がっていた。

 さて、どうする?その姿を見ながら、クレイは先ほどから考えていた作戦を反芻した。さっきみたいに外皮を反応装甲として使われたら厄介だ。まず奴に至近距離まで接近、電気魚雷を撃ち込んで本体を一時的に麻痺させ、その隙に「LRC」で攻撃、破壊する———

 できるか?

 クレイは武装を確認した。航空機銃は問題ない。電気魚雷は3本装填されている。だが、「LRC」は弾体が2発と、それを射出するための高電圧カートリッジが予備も入れて3本しかない。ぎりぎりか。彼は燃料計を見た。通常の飛行であればあと30分。しかし空中戦をするとそんなには保つまい。せいぜい15分といったところか

 15分あれば、何とかなるさ

 クレイは覚悟を決めた。スロットル全開、フェルドランスは全速でチューリップへ向けて飛んだ。


 チューリップは迫り来る物体を感知した。一瞬のうちに触手がフェルドランスの方を向き、様々な形をしたリモコン生物群が一斉にフェルドランスに襲いかかった。

 空戦が始まった。

 クレイの眼前で、鳥のような嘴がくわっと開いた。鳴き声が出てるかもしれないが聞こえない。それはフェルドランスに食いつこうとした。クレイはコクピット下の航空機銃の発射ボタンを押した。沈黙の世界の中で赤い火線がリモコン生物に吸い込まれていく。映画のシーンの様だ。一瞬、利かないか、という懸念が浮かぶ。しかし鳥型物体は火線を浴びてのけぞり、破片を散らして落ちていった。

 やった!

 しかしほっとしている余裕はなかった。機体の周りに次から次へ奇怪な半透明の物体が迫ってきた。

 操縦桿を引く。上昇、青い光芒が閃いて、機体はリモコン生物の群を抜けた。眼下で絡み合うようにのたうつケーブルの群が見えた。フェルドランスを追って上昇してくる。蔓草の群に追いかけられているような気がした。昆虫型のものが最も速いらしく、急加速してあっと言う間にフェルドランスの後方に来た。クレイはブレーキを踏みざま、機体をひねる。減速して背面飛行になった機体の上を昆虫型が勢い余って追い越していった。機銃掃射、赤い火線がケーブルを切断した。次の瞬間、モニターの隅に何かが見えた。鳥型だ。とっさに回避。真横で巨大な嘴が閉じる。

 まずい!

 エンジン全開にして、フェルドランスは下降した。鳥型が追ってきた。その時、右横に衝撃を感じた。コクピットが振動した。昆虫型に体当たりを食らったのだ。警告音が聞こえないせいで気づかなかった。

 フェルドランスがバランスを崩した。ディスプレイの水平ラインが傾く。海が斜め上に見えた。続けて衝撃。今度は後ろだ。頭が一瞬真っ白になる。まずい、クレイは背部バーニアを全開にした。熱の塊が放出され、襲ってきた昆虫型を四散させた。

 フェルドランスは頭部を下にして海へ向けて加速、リモコン生物群を振り切った。後方モニターに、追ってくるケーブルの束が見える。頭部が回転、天を仰ぐ。それに連れて左腕が動き、フェルドランスは「LRC」を構えた。

 ———発射!

 海上から天空へ青い火球が飛んで、10本ほどのケーブルを瞬時に切断した。ばらばらと先端の物体が散った。

 海面が迫る。ぎりぎりで、クレイは機体を水平にした。衝撃波で巨大な水柱が吹きあがった。

 海面で体勢を立て直し、クレイはチューリップの位置を確認した。5.1キロメートル。さっきからほとんど変わっていない。リモコン生物がしつこくて接近できない。クレイの心に焦燥感が広がった。眼前に崖。フェルドランスは上昇した。ペンクロフトの家が見えた。中の様子は見えない。中にいる人に未来を残すために、何としてもあいつを———

 クレイは機首をチューリップに向けた。四方からリモコン生物が襲ってきた。急加速。フェルドランスはケーブルの間をすり抜けた。機体の後ろでリモコン生物同士が衝突した。

 衝突の衝撃で昆虫型の一つが潰れ、鳥型の一つが後ろへはねとばされた。後ろにはペンクロフトの管制室があった。

 鳥型は管制室の窓に激突し、勢い余って部屋の中へ飛び込んできた。

 ガラス片を散らしながら、部屋の床で巨大な半透明の塊が羽ばたき、ケーブルがのたうった。

 コートニーが悲鳴をあげた。彼女自身には聞こえなかったけれど、鳥型には聞こえたようだった。鳥型はがばっと起きあがり、コートニーの方を向いた。羽と口しかないくせに、そいつには彼女の位置が判るらしい。いきなり飛びかかってきた。コートニーの瞳に巨大な口が映り、彼女の体がすくみ上がった。その時横から椅子が飛んできて鳥型にぶつかった。鳥型がバランスを崩す。ペンクロフトだった。彼は必死の形相でもう一つ椅子を持ち上げ投げつけた。しかし今度は通用せず、鳥型は翼で椅子を叩き落とした。

 衝撃で床が砕けた。鳥型はペンクロフトの方を向き、口を開けた。上顎は天井まで届いている。威嚇の声を出しているのかも知れないが、彼には聞こえなかった。次の瞬間、巨大な嘴が彼を襲った。とっさに彼は横に飛ぶ。さっきまで彼がいた空間で嘴が閉じた。ペンクロフトは手近にあったカップを投げつけた。カップが嘴に当たって砕け散る。鳥型が再び口を開き、部屋の中で翼を振った。翼の先がコートニーに当たり、彼女はぼろ切れのように部屋の隅まで飛ばされた。壁に背中をぶつけて、コートニーは悲鳴をあげた。

 くるりと鳥型が彼女の方を向いた。彼女の前で嘴が開いた。音のない彼女の世界で視界一杯に巨大な口が襲ってきた。

 コートニーは絶叫した。

 その時、彼女の背後の窓が砕けて、黒い物体が部屋に飛び込んできた。それはコートニーの前に着地し、彼女をかばうように鳥型の前に立ちふさがった。

 刺だらけの脚をもった隻眼の巨虫———

 ———ハンマーヘッド!

 ルビー色の目がコートニーを一瞥し、次の瞬間、ハンマーヘッドは鳥型に向けて両脚を広げ、針の塊を撃ちだした。

 鳥型にざくざくと針が突き刺さり、その姿が剣山と化した。

 とっさにコートニーは床に伏せた。ハンマーヘッドの行動を見たペンクロフトも瞬間的に伏せていた。ハンマーヘッドはコートニーの上に覆い被さって彼女を護った。

 そして、管制室が爆発した。

 クレイは機銃を撃ちながらチューリップ本体に接近した。四方八方からリモコン生物が襲ってくる。しかしさっきより数が減ってきたようだった。一度壊されると補充するのに時間がかかるのかもしれない。クレイは既に50近い数を落としていた。彼は必死だった。狂気に憑かれた様な目をしていた。耳が聞こえないことでかえって集中力が増しているような気さえした。彼は自分の中にもう一人の自分、過去を悔やんで無気力に生きる自分ではなく、聴力を奪われた状態でも決してあきらめず戦闘を続ける自分の姿を見た。自分を信じるんだ、彼は思った。ぼくの中のもう一人の自分を信じるんだ。逆境にも決してくじけないもう一人の自分を、信じるんだ————

 彼の前にぬうっ、とワニのような顎が迫った。フェルドランスは機体を斜めにして回避。機体の横で顎が閉じる。更に別の奴が襲ってきた。アームアンカー射出、ワイヤーの尾を引いて、右腕が飛んでいった。マニピュレータ操作、アームアンカーがそいつのケーブルをつかんだ。すかさずワイヤーを引き戻す。ケーブルは空中で引きちぎられた。  

 蝶のように舞いながら、フェルドランスは徐々にチューリップに接近していった。

 近づくにつれ、リモコン生物の種類が変わることにクレイは気づいた。顎型や植物型が多い。単に先端が尖っただけのものもある。おそらくケーブルの強度の問題で、遠くに送るためには補助動力として翼や羽根が必要なのだろう。だから、遠隔地にいるのは鳥型か昆虫型なのだ。

 植物型が横から襲ってきた。そしてフェルドランスをはたいた。それぐらいでは機体の装甲はびくともしない。リモコン生物の中には役に立たないものも混ざっているらしい。

 クレイは更に襲ってきた槍型を回避した。チューリップまであと500メートル。電気魚雷の空中有効射程は600メートル、しかし迎撃される可能性がある。もっと近づいて撃ちたかった。せめて200メートルまで———。

 四方八方から顎型の群が襲ってきた。フェルドランスは回転しながら機銃斉射、回転花火のように火線が飛び、顎型を薙ぎ払った。

 あと400メートル———

 チューリップから数十本の槍が飛んできた。クレイは呻いて機体を翻した。しかしそれは罠だった。翻した先にわずかにタイミングを遅らせて射出された顎型が飛んできた。

 やられた!

 顎型はフェルドランスの左腕、「LRC」にかみついた。そしてそれごとフェルドランスを振り回した。強烈なGがかかって、クレイは呻いた。側面のモニターに「LRC」にかみついた顎型が大写しになっていた。クレイは必死で操縦桿を操作、機体が高速でバレルロール、強烈な張力と遠心力で顎型のケーブルは引きちぎられた。

 あと300メートル———

 左腕にぶらんと顎型をぶら下げたまま、フェルドランスは加速した。機体の振動が伝わってくる。無理をしたせいでかなりダメージを被っているらしかった。もう少し、もう少しだから保ってくれ!クレイはスロットルペダルを踏んだ。チューリップが接近。クレイはディスプレイの真ん中にそいつの姿を入れた。

 あと200メートル———今だ!

 ロックオン、機体のAIが目標を認識した。クレイは電気魚雷の発射スイッチを押した。右脚部についていた魚雷発射管から白煙と共に電気魚雷が射出された。魚雷といってもロケットアシスト推進により短距離なら空中迎撃が可能だ。電気魚雷は白煙の尾を引いて飛んでいった。チューリップの中心に向かって。迎撃用リモコン生物が魚雷に接近する。させるものか、クレイは機銃を撃った。魚雷を落とそうとした槍型は全て粉砕された。

 青空の中、白い軌跡が一直線に伸びた。そして、狙いは違わず、電気魚雷はチューリップの花を射止めた。

 接触の瞬間、すさまじい火花が散った。高電圧がチューリップ内を走り抜ける。

 全てのリモコン生物が一瞬、興奮したように四方に散った。次の瞬間、神経筋ケーブルは力を失って、ロープが張力を失ったように海に落ちていった。

 ———いまだ!

 クレイは「LRC」を構えた。弾体は残り一発。ディスプレイ上を十字の照準レティクルが移動、チューリップに重なった。目標捕捉———

 クレイはトリガーを引いた。

 音は聞こえないけれど、長い砲身の先端から青い火球が迸るのは見えた。至近距離から撃ち出された弾体は大気を焦がしてチューリップの花に吸い込まれていった。

 そして、爆発!チューリップは四散した。半透明の破片はきらきら光りながら青空の中を舞った。まるで極地に散るダイヤモンドダストのように・・・・・。


 観測室では、その光景を全ての人々が見つめていた。彼らの前にあるモニターはさながらファンタジー映画のラストシーンのようだった。ガラスのような破片が輝きながら天空に舞っていた。

 —————きれい

 エリスの口がそう動くのをケインは見た。彼はさっきまでチューリップと死闘を演じていたフェルドランスを見つめていた。

 カハール博士も呆然としたような顔でモニターを見つめていた。そして、顔を覆うマスクの奥で博士の口がかすかに動いた。

 —————やってくれるじゃないか

 そうつぶやいたように見えた。

 全ては終わったかに見えた。

 その時、水柱が上がった。続いて海面が盛り上がり、緑色をした巨大な塊が海面に出た。

 ———あれは!

 アッカー局長の目が驚愕に見開かれた。

 海面下の奴だ!

 海上と水中とは別々の生物だったのか

 それは巨大な物体だった。水面上に出ている部分だけでも、優に30メートルはあった。

 そいつはいきなりヒトデのような腕足を伸ばして、低空飛行していたフェルドランスをはたいた。


 機体にすさまじい衝撃が走った。いきなり左側のモニターが緑一色になり、次の瞬間に機体は跳ね飛ばされていた。コクピット内の金具が飛んで、クレイに当たった。額の左側が切れて赤い血がモニター上に散った。

 クレイは呻いていた。何が起こったのかわからない。彼は周りを見た。左のモニターに破壊された「LRC」が映っていた。何かにやられたんだ。彼は計器を見た。

 下面警戒レーダーからの情報を示すパネルに、巨大な影が映っていた。あわてて彼は海面を見た。

 緑色をしたヒトデのような物体が見えた。大部分は水中でゆらめいて見える。さっきのチューリップの土台だった。

 下がまだ生きてたのか!

 クレイは戦慄した。彼は機体の体勢を立て直そうとした。しかし今の衝撃でエンジンの一つがやられたらしく、思うように制御が利かない。そのうちに更にもう一つ、エンジンが停止した。さっきの空中戦で無茶をやりすぎたんだ。フェルドランスは飛行不能状態寸前だった。このままだと落ちる。しかし下には巨大ヒトデ—————

 しかしどうしようもなかった。降りるしかない。探査機としての性質上、フェルドランスは水中も行動できる設計になっていた。移動は両足部のカーボン製スクリューで行う。設計上の限界深度も、水深800メートルまでなら大丈夫なはずだった。しかしあの激戦のあとだ。気密機構が上手く働くだろうか? 

 しかしどうしようもない。クレイは一瞬迷ったあと、機首を海面に向けた。フェルドランスのAIが状況を認識し機体を潜水モードに替える。

 気密機構作動。飛行用エンジンが封鎖された。頭部が胸部内に収納され、代わりに潜望鏡が起き上がる。手足の関節部分が上下で連結された。翼が畳まれ、駆動系が潜水用電気モーターへ切り替わり、スクリューが回転を始めた。そしてフェルドランスはダイビングするように水中に落ちた。

 海面では爆発したような水柱があがり、海は怪物の待つ懐の中へ機体を迎え入れた。水中で気泡の衣をまとって、フェルドランスは沈降した。

 機体が10メートル程潜ったところで下降が止まった。周りは透明に近い青の世界だった。機体の横を気泡が上がっていく。コクピットのクレイは機体をチェックした。今のところ浸水はしていない。アクティブソナーのスイッチを入れた。

 反応はすぐに返ってきた。モニター画面に赤い点が映った。

 ———機体の前方、200メートルのところに敵がいた。

 潜望鏡に取り付けられた水中用オプティックセンサーがスキャニング。怪物の輪郭をモニターに映し出した。ヒトデのような形をした、それは幅100メートルはある巨大な物体だった。

 こんな奴がいたとは・・・・・クレイの額から汗が流れた。汗は傷口に入り、激痛が走った。

 巨大なヒトデ様生物が動いた。フェルドランスに向かってきた。速い。クレイはスロットルを踏んで機体を下降させた。水中でも基本操作は同じだ。この間テストはすませていた。やっておいて良かったと彼は思った。フェルドランスは沈降していった。機体の左側に、垂直に立つ岩の壁が見えた。ノーチラス島の水面下の部分だった。彼はその壁に沿って機体を沈めた。ソナーをチェック。後方から巨大ヒトデが追ってきた。目らしいものは見えないのに正確に追ってくる。側線があるのか、それとも音か?

 ———魚雷は?

 クレイは発射管をチェック。第二、第三魚雷は発射可能だ。やるか。彼は決意した。取り舵180度。フェルドランスは反転した。

 攻撃準備。クレイはコクピット上部に畳まれていた攻撃用潜望鏡を引き下ろした。スコープを覗く。水深が深いので不気味な青の世界だ。目盛りの刻まれた十字の向こうから巨大な黒い物体が揺らめきながら近づいてくる。

 照準線、射角、方位角設定—————

 雷撃運動盤を操作。AIのサポートでスコープ内の数値が調整される。それにつれて発射管が標的の方を向いた。

 ロック解除。発射管開口。

 管制盤に準備完了のランプが点る。クレイは唇を噛みしめた。

 ———魚雷発射!

 残っていた第二、第三電気魚雷を、フェルドランスは射出した。白い航跡を曳きながら魚雷は泳走していった。

 当たってくれ!

 クレイは祈った。照準十字線の真ん中、黒い影へと魚雷の航跡が伸びる。第二魚雷が接近、そして———

 ひょい、とヒトデは腕足で魚雷をつかみ取っていた。信管部分には触れていない。電気魚雷は作動しなかった。ヒトデは腕足を振って魚雷を投げ捨てた。

 しかし、その隙に第三魚雷は真っ直ぐヒトデに向かっていた。潜望鏡の視界の中、白い航跡がヒトデに吸い込まれ、次の瞬間、青白い電気火花が炸裂した。

 命中した———

 ヒトデがのたうったように見えた。しかし、クレイは見た。ヒトデは魚雷が当たった腕足を切り放していた。着弾の瞬間、自切したのだ。

 ———なんて奴!

 その時潜望鏡のなかでヒトデが膨張した。加速したのだ。見る見るうちにフェルドランスに追いつき、広げた腕足で機体を包み込んだ。そしてそのまますさまじい力で機体を締め付けた。

 機体の各部で軋み音が上がった。

「———うわ!」

 クレイは叫んだ。叫んで、一瞬、文字どおり耳を疑った。自分の声が聞こえているのに気づいた。そして機体の悲鳴も。

 聞こえなくなったときと同様、一瞬のうちに聴力は回復していた。音が聞こえる!直ったのか、彼は耳を澄ませた。しかし、聞こえるのは恐ろしい音ばかりだった。クレイの周りは不気味な音に満ちていた。機体の軋み、狂ったように鳴り続ける警報———

 戦慄が走った。聞こえてきたのは死へ通づる壮大な序曲だった。

 ここまでか、ぼくは死ぬのか・・・・・

 機体が軋んだ。機体が傾き、彼はシートに頭をぶつけた。意識が遠のいたとき、ふと、彼の脳裏に懐かしい情景が浮かんだ。

 夏の木漏れ日、トンボの舞う空、揺れる木の葉

 夏、学校の帰り道。湖の畔でクリスがぼくを待っている———

 フェンネル君、今度はトンボの脳を採りに行こうよ・・・・

 針葉樹の森を走り抜ける風、太陽のにおい、水面を舞うホタルのむれ

 これから行くよ、きみのところへ・・・・・

 寂しげに響くユーモレスクを聞きながら、クレイは歩き出した。

 クリスはでも何故か哀しそうだった。

 草いきれの中を彼は歩いていった。何処かで鐘が鳴った。

 ふと、背後で足音がした。彼は振り返った。

 だめ、クレイ、行っちゃだめだよ

 コートニーだった。走ってきたのか、はあはあと荒い息をして彼女が立っていた。

 コートニー、どうして君がここに

 迎えに来たんだよ、わたし、あなたを・・・・

 こっちにきて、とコートニーは言った。クレイは振り返った。クリスが哀しそうに彼を見つめている。

 そよ風の囁き、陽炎のゆれる路面、青空に響く蝉時雨、そして夕陽に輝く草原・・・・

 懐かしい子供時代の情景。過ぎ去った遠い夏の日———

 クレイはクリスのもとに歩いていこうとした。

 だめ!

 コートニーが叫んだ。その悲痛な叫びが彼の足を止めた。彼はコートニーを振り返り、そして再びクリスを見た。彼女は哀しそうにクレイを見つめた。その口もとが動くのを彼は見た。

 さ・よ・な・ら

 そしてクリスは消えた。

「—————ぐ!」

 機体にかかる衝撃で、クレイは我に返った。警報が鳴り響いていた。気密装置損傷、浸水開始———

 足元から冷たい水が噴き出した。クレイはとっさに深度計を見た。深度900メートル、安全圏はとうに越えていた。

 だめ!

 さっきのコートニーの声がクレイの心の中に響いていた。彼はほとんど無意識に右の操縦桿を操作して、マニピュレータを使って「LRC」用の予備の高電圧カートリッジをつかんでいた。モニターには巨大ヒトデの腕足が映っている。まだ機体を締め上げていた。このまま潰すつもりだろう。

 いかないで!

 少女の悲痛な叫びが聞こえた気がして、クレイは何か声にならない叫びをあげた。顔に血をこびりつかせ、悪鬼のような表情で、彼はスロットルを床まで踏み込んだ。機関全速、残されていた最後の力でフェルドランスはヒトデの腕から脱出した。反転、正面にヒトデ、そいつは腕を一杯に広げた。その中心、本物のヒトデなら口があるところに円形の開口部があった。

 放射相称を基本形とする生物なら———

 クレイは高電圧の塊を抱えた右腕をヒトデの中心に向けて構えた。

 その中心に神経系の中枢があるはずだ

 それはかつて脳好きの友人から教えられたことだった。しかしこの怪物にそんな常識は通用しないかもしれない。でもこれが最後のチャンスだった。

 クレイは操縦桿のスイッチを押した。アームアンカーが打ち出された。

 それはヒトデの中心にめり込み、爆発した。


 白い光。そして静まり返った空気————

 シィナは地下空間に佇んでいた。一時間程前にアーベルに連れてこられたのだ。耳はしばらくすると直る、そう書きすてて、彼はどこかへ行ってしまった。

 確かにそうだ。さっきいきなり聞こえるようになった。

 一体どうしたのだろう、上では何が起こっているのだろう

 彼女は地上に出ようとした。

 その時、海の方から——海と言っても地下空間に開いていて海に通じている直径20メートルくらいの穴池なのだが——地響きのような音がした。彼女は振り返った。いつもは鏡のように静粛な水面に波紋がいくつもできていた。水中から何かが浮上してくるような感じだった。

「なに・・・・」

 シィナは地下空間の海辺に歩いていき、澄んだ水を覗き込んだ。

「————あ」

 水の奥深くから、何か機械のようなものが浮上してきた。気泡がぶくぶくと上がってくる。それは淡緑色をした機械だった。水面近くまで来て、彼女はそれが何であるかを知った。驚きの色が浮かんだ。

「フェンネルさん!」

 シィナは叫んだ。海の底からフェルドランスが浮上してきた。関節は砕け、装甲は歪み、左右の腕を失い、ゴミ屑のように大破した機体が。

「ああ」

 シィナは口に手を当てた。顔が蒼白になった。

 フェルドランスは水しぶきをあげて浮上し、水面で浮いたり沈んだりをしばらく繰り返した。それから、機体の一部を岸に引っかけた形で止まった。

 機体のあちこちから水が噴き出していた。

「フェンネルさん!」

 シィナは叫んだ。しかし返事はなかった。

 彼女は意を決したように機体によじ登った。コクピットの位置に見当をつけ、その上を彼女はがんがんと叩いた。

「フェンネルさん、フェンネルさん、聞こえますか?!」

 返事はない。彼女は何か考えていたが、さっと機体から降りて岸辺にある白い建物に駆け込んだ。そしてそこから金属製のバールのようなものを運んできた。彼女は再び機体によじ登り、ハッチの隙間にバールを入れて力任せに引っ張った。

 ばん、と音がしてハッチが開いた。中にはクレイが倒れていた。気を失っている。額からは血が流れていた。

「フェンネルさん!」

 シィナは悲鳴のような声を上げた。彼女はコクピットに体を入れて、クレイを引き起こした。呼吸は?シィナはクレイの胸に耳を当てた。心臓は動いている。息もしている。単に気を失っているだけらしい。シィナは安心したように溜息をついた。それから苦労して彼を陸に降ろした。草地に横たえたとき、クレイは苦しげに、うう、と呻いた。

「フェンネルさん?」

 シィナは彼の横に跪いて彼の頬を軽く叩いた。うっすらと彼は目を開けた。しかし、その瞳の奧は虚ろだった。シィナの姿も見えていないようだった。

「フェンネルさん?・・・・・大丈夫ですか?」

 クレイにいつもとは違う雰囲気を感じたのか、シィナは不安そうに言った。

「ここは・・・・どこだ・・・・・」

 クレイは妙に低い声で呟いた。そして、むくっと幽鬼のように立ち上がった。

「い、いけません!」クレイがいきなり立ち上がるとは思っていなかったらしく、シィナが慌てて言った。

「立ってはいけません」

 クレイは血にまみれた顔で周囲を見回した。地底空間の草原を見て、上にある採光パネルを見て、そして、フェルドランスが座礁している穴状の海をみた。

「ここは、知っているぞ」

 クレイは囁くように言った。

「ど、どうしたんですか?」

「知っているぞ」

 クレイはまるで別人のような目をしていた。その鋭い視線が周囲を睥睨し、シィナの上でピタリと止まる。彼はしばらくシィナの顔をじっと見て、やがて絞り出すような声で言った。

「君は、君か?」

「え?」

「君は、あのときの、君か?」

「な、何を言ってるんですか?」

 シィナは狼狽していた。

「君は、あのときぼくに、呪いをかけた、魔女だ」

「な、なにを、言って」。

 当惑したようにシィナは答えた。

 クレイは鋭い眼差しでシィナを見据えながら、続けた。

「何故韜晦する?君が望んだことだ、ぼくは君の願いを叶えよう、君の呪いを解き放とう。ぼくは世界でたった一人の、君だけの騎士だ」

「フェンネルさん!」

 シィナはほぼ反射的にクレイに飛びつき、彼の後頭部をひっつかんだ。そしてもう片方の目で彼の目をさっと塞いだ。

 がくん、とクレイの膝が折れ、彼はその場に倒れた。

 シィナの手が震えていた。彼女もその場に膝をつき、困惑したようにクレイを見た。

 シィナの施した魔法で、クレイは眠っていた。しばらくすると荒かった呼吸が安らかな寝息に変わっていった。シィナは彼の頭を膝に乗せて、やがて静かな声で歌いはじめた。

 子供の頃に聞いた子守唄を。

 

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