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ノーチラスノート  作者: 蓬莱 葵
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第2部

 4-博物館の魔術師


 その日の夕暮れ時。

 フェルドランスの整備を終えたクレイが崖の洞窟を改造した格納庫から家の一階にある管制室に入ってくると、ペンクロフトは難しい顔をしてソファに座り、テーブルの上に置かれた一枚の写真を見つめていた。窓から差し込む夕日が、彼の横顔を照らしている。その表情に疲労の色が濃いのは、実験が予定のスケジュールを消化できなかったためだけではあるまい。

「何を見てるんだ?」

 つかつかと部屋の隅まで行き、休憩用に置いてあるポットでコーヒーを煎れながら、クレイは尋ねた。

「ハリエットが写した壁画だよ」

 ペンクロフトは写真を取り上げ、クレイの方に向けて差し出した。眼鏡に夕日が反射して、妙に無機質な表情だ。

「得体の知れないものが描かれている。キャンベル教授もわからないと言ってた。おまえは何だと思う?」

 クレイは湯気をたてるコーヒーカップを手にテーブルの所まで来ると、何気なく写真を覗き込んだ。

 そして、絶句した。

 覗き込んだ途端、彼の頭脳はその絵に潜む根元的な恐怖を感知し、脳髄の辺縁系から発せられた警告が、彼の全身を戦慄となって駆け抜けた。

 何だこれは。これを、あの船の乗組員が描いたというのか?

 それは、海から現れた怪物の絵だった。

 海面とおぼしき横線の上には、長い首のようなものが、さらにその上には頭らしきものが描かれている。頭には牙や目のようなものがついていた。ただし、それは正常な人間にはとても描けそうにないほど、異様に誇張され歪んでいる。

「描いた奴はおそらく正気ではなかったんだろうな」

 クレイの心の中を読んだかのように、ペンクロフトが言った。

 この乗組員は発狂しながらも自分が見たものを描き残そうとしたのだろうか。

 そう考えるとクレイは慄然とした。

「それにしても、この、海から伸びだしてる顔のようなものは何だ?」

 ペンクロフトは、長い首のようなものの先端を指さした。

「人の顔のようにも見えるけど、そんなわけないよな。人でないとしても、こんな異様な顔をした生物なんて、この星にはいないだろう?」

「うん」クレイは頷いた。インフェリア発見から時を経ずして開始された『人工進化プロジェクト』により、この星の環境に相応しい構造と生理機能をもつ生物がいくつか実験的に創出されているが、こんなのは見たことがない。

「・・・この不気味な顔はともかく、首の長さだけでいえば、太古の地球に生息していた長頚竜のようにも見えるけど、何かな?わからない」

 クレイは写真から目をそらした。何だか自分の頭までおかしくなってきそうな気がしたのだ。

「そうか」

 ペンクロフトは写真を引っ込めて、ソファに身を投げ出す。テーブルの上に置いてあったコーヒーを飲みながら、彼は呆けたように天井を見つめて呟いた。

「それにしても、あの船の乗組員は一体何処へ行ってしまったんだろう?」

 クレイは向かいの椅子に座って、答えた。

「海の怪談によくあるやつだな。大洋のまんなかで漂っている船を見つけて、乗り込んだら、誰もいない・・・・・でも、コーヒーからは湯気が上がっているんだ。今さっきまで人がいたみたいに」

「まさか、そんなことが実際にあるわけないだろ」

 ペンクロフトは吐き捨てるように言った。クレイも頷き、窓から消えゆく夕日を眺めながら、コーヒーを口に運んだ。

「この事、保安局には連絡したのか?」

「もちろん。でも人は乗っていなかったし、船の名前も分からなかったし、何より沈んでしまったわけだから、保安局も対処の仕様がないみたいだな。この島は動いているからな。沈没地点はもうずっと後方だ。彼らには沈没地点まで戻って、4000メートルの海底を捜索する設備も余裕も無い。遭難者がいたわけじゃないから、保安局は深追いするつもりはないみたいだ。写真のことも伝えてはおいたが、保安局は動かないと思うな。おれは今回の件は、不慮の事故で乗員が船を捨てて避難したっていう事なんじゃないかと思う。インフェリアでは充分起こりうることさ・・・しかし」

 ペンクロフトは続ける。

「・・・そうじゃないかもしれない。あの怪物の絵が、やはり気になる」

「航海日誌は?ファイルの中にあっただろ」

 ペンクロフトはコーヒーの湯気のむこうから上目遣いにクレイを見て、悪戯っぽく笑った。

「そう、それだ。あの幽霊船の過去が書かれているはずの航海日誌。保安局の連中が相手にしないなら、おれが自分で読んでみようと思ってる」

「いや、さすがに保安局の人達は読むだろう?」

「どうかな、暗号化されてる」

「それは・・・パスワードが必要な類のやつか?」

「もっと複雑だ。保安局の連中が片手間でできるような代物じゃないな。たぶん読まれることもなく封印されるだろう。連中にとっては沈んでしまった未確認船よりも、この島のほうがもっともっと重大なんだ。だったらこっちで解読してみようじゃないか----あの壁画の怪物、おまえだって興味あるだろう?」

「まあ、そうだけど・・・・」

 一時の沈黙。

 壁の時計の音が、書類や機器の詰まった部屋に響いた。

 暫くして、ねぐらへ還る鳥の声が響いてきた。

「壁画の怪物か・・・・」

 太陽が水平線の彼方に見えなくなったとき、クレイがつぶやいた。

 外が暗くなるにつれて、鳥の声はだんだん少なくなっていき、それが完全に途絶えた頃、ぽつりとペンクロフトが言った。

「・・・・怪物ってことなら、博物館に行けば、分かるかもしれない」

「博物館だって?この島にそんなものが?」

 思わず、クレイは椅子から身を乗りだしていた。彼は今までそんな話は聞いたことがない。来る時に買った地図にも、子供の頃に穴があくほど読んだ「ノーチラス島の謎」という書籍にも、博物館なんて載っていなかった。

「おれもキャンベルさんからの又聞きなんだが、街はずれの森の中に小さな博物館があって、どうもそこに、この星の生物に詳しい人がいるらしい。壁に描かれた怪物についても、何か知っているかもしれない。明日、おまえ暇だろ。行ってみれば?」

 ペンクロフトはそこまで言うと、コーヒーカップを弄びながら、「ただ・・・」と口ごもった。

「ただ?何だ?何か問題でもあるのか?」

「うん。ちょっとな」

 ペンクロフトは立ち上がって、部屋の隅まで行き、壁についているスイッチを押した。部屋に明かりが灯る。それからポットのところで二杯目のコーヒーを煎れた。

「実は・・・・」ソファに戻ってきたペンクロフトが、湯気のたつコーヒーを飲みながら話し始めたとき、何処からか淋しげなフルートの音が聞こえてきた。その旋律は夜の風にのって、この漂流島の草原の上を流れていく。


 翌日の朝、クレイは森の中の小道を歩いていた。

 夏の木漏れ日が、未舗装の道の上に複雑なモザイク模様を作っている。通る人も少ないのだろうか。道の上には夏草が生え始めていた。

 暫く歩くと、道が二股に分かれているところに来た。「ノーチラス島博物館」と書かれた木製の矢印が右の方を指している。

 ここで右に行けば博物館。そして左に行けば、「還らずの森」である。左側の道は、鬱蒼とした森の中へ吸い込まれていた。昼なお暗い深緑の森。この森については、クレイが昔愛読していた本に、探検隊が怪物に襲われて全滅したとか、夜な夜な恐ろしい叫び声が聞こえるとか、奧に入り込むと同じ所をぐるぐる回り続け、永遠に出られなくなるとか、古びた道の分岐点で右か左かの選択肢を間違えると怪物に襲われて死ぬ等々、少年の想像力をかきたてる事がいろいろ書かれていた。現実の森はそれほどあからさまに怪しくはないが、この奥地には明らかに奇怪なポイントがいくつかある。地面に穿たれた巨大な縦穴。植物が奇怪にネジくれて生育している湿原、ゆっくりと這うように移動を続ける巨石———。それらは現在調査中だったが、調査は遅々として進んでいなかった。

 クレイは暗い森を前にしばし佇んでいた。

 多分これから、この奥地をぼくが調べることになるのだ。あのフェルドランスで。

 そう思うと少しばかりの恐怖と、そして好奇心が沸き上がってきた。彼は昔から未知のものが好きだった。そうでなければこんな恐ろしい島には来ない。

 森の奧からザワザワと葉擦れの音が聞こえた。彼を誘うかのように。森の中へ入ってみたい気もしたが、今日のところは博物館へ向かう道へと彼は歩きだした。足どりが少し重い。博物館という存在そのものは好きなのだが、なんとなく気が進まないのだ。

 クレイの脳裏に、昨夜のペンクロフトの言葉が甦った。

「そこは魔術師の博物館と呼ばれているんだ」

 クレイは驚愕した。この科学文明の時代にそんなものが実在するのか?何かの間違いではないのか?よりによって「魔術」とは。

 しかしペンクロフトも、又聞きなのでよく分からない。行って確かめてきてくれ。などと無責任なことを言った。

 変な奴が出てきたら、どうする?とりあえず逃げるしかない。

 そんなことを考えているうちに、道がカーブしているところに来た。そこを曲がると、突然、森が開けて、蔦に覆われた石造りの建物が現れた。かなり年期のはいった洋館だった。もしかしたら、この島の初期探査期から建っているのかもしれない。クレイは周りを見回した。その建物の前は小さな庭になっており、楓の木やハーブとおぼしき草が植えられている。古いけれども何故かこぎれいな所だった。なんとなく懐かしい感じさえする。石造りの洋館の奥には、もうひとつ建物があった。こちらは白壁に木組みのアルザス風の家だ。博物館はおそらく石造りの洋館のほうだろう。アルザス風家屋は管理人の住居だろうか。

 クレイはとりあえず博物館の方へ行ってみた。三段ほどの石段を登り、玄関に立つ。いまにも黒衣の老人でも出てきそうな巨大なドアは、しかし、堅く閉ざされていた。クレイは軽く息を吸い込んで、ドアについている鉄の輪を掴み、ノックした。

 反応はない。

 もう一度試してみたがだめだった。

「こっちじゃないのかな?」

 彼はつぶやいて、もう一つの建物の方へ歩いていった。フランスの旧街道沿いにでも建っていそうな家だった。この家も相当古そうだが、こっちの方が人が住んでいる感じがする。窓には赤いゼラニウムを寄せ植えにした植木鉢が並べられ、玄関までの道の両側にも様々な植物が植えられていた。

 クレイはドアの前に立って、竜の飾りがついた呼び鈴をつかんだ。それから、いったいどんな奴が出てくるのかと思いながら、その紐を引いた。

「はい」

 真鍮のノブがまわってドアが開けられたとき、彼は想像もしていなかったものを見た。そこに立っていたのは白いブラウスに水色のスカート姿の少女だった。瞳はきれいな鳶色をしていて、長く伸びた亜麻色の髪が朝日に輝いている。

「あ、あの・・・」

 クレイは想像と現実のあまりのギャップに、しばし言葉を失った。そのまま呆然と佇んでいると少女は少し訝しむような表情をしながらも、

「博物館に御用ですか?」と訊いた。

「え、あ、はい。あなたが博物館の?」

「はい。管理をしている者です」

「そうですか。私は探査機の操縦士をしている者で、クレイ・フェンネルと申します」

 それを聞いたとき、少女は少し驚いたような表情をした。しかしその表情はすぐに消え、彼女は微笑んだ。

「私はシィナ・ライトです。この博物館の学芸員兼館長です。ノーチラス島博物館へようこそ。あなたは一ヶ月ぶりのお客さんです」

 シィナと名乗った、館長というには若すぎるその少女はドアからちょっと後ろに下がった。

「まだ博物館を開けてないので。これから開けますので、それまでお茶でもいかがですか?今、ちょうど煎れたところなんです」

 シィナは家の中にクレイを招き入れた。彼の背後で木のドアが音を立てて閉まり、彼を現実の世界から引き離した。かわりに、西洋の童話に出てくるような内装をした部屋が彼を迎えた。そこは幾つかのテーブルやカウンターがあり、小さなカフェのような作りだった。博物館に来た客のためのものだろう。誰もいない静かな部屋に、時計の振り子が動くカチコチという音が響いている。

 シィナが椅子を勧め、すぐに紅茶を運んできた。アンティークな雰囲気のカップに淹れられた紅茶にはミントの葉が浮かんでいる。それから、博物館の準備をしてくるから待っててくださいと言うと、童話の住人めいたその少女は石畳の道を洋館の方へ走っていった。

 窓ガラス越しにその後ろ姿を見送ると、クレイは、いきなり振る舞われた紅茶を戸惑いながら口に運び、これの代金を入館料に上乗せするべきか否か悩みながら部屋の中を見渡した。隅には暖炉、壁にかかる花飾り、漂うハーブの香り・・・。

 部屋の片隅にある机の上には、試験管やフラスコといった化学用の実験器具が並んでいる。丸底フラスコの中では、雪が降っていた。どういう仕組みなのか、何もない空間にふっと現れた雪は、フラスコの底で幻のように消える。

 これは本当に童話か魔法の世界にまぎれこんでしまったのかもしれない、と彼は思った。


 その頃、ペンクロフトは寝床から起き出して、眠い目をこすりながら着替えると、朝の空気を吸いに外へ出た。玄関のドアを開けると、海からの風が彼の髪を撫でる。そこで大きく伸びをしながら右手の方を見ると、石畳の道の向こうにクレイの家が見えた。彼の家は一風変わっている。崖の縁から少し内陸に寄ったところに小さな湖があり、家はその中に建っているのだ。湖に小島のように石の土台が作られ、その上にアルザス風の白壁黒木組の家が載せられている。緑のシダや紫のスミレに縁取られた白い石組みの上にある小さな家は、まるで湖水の城塞をうんと小さくしたようで、なかなか粋なものだった。二階建ての家の一階からは木製のベランダが湖の上にせり出している。家の玄関からは木製の橋が池の畔までかかっている。そこからは飛び石が石畳の道まで続いていた。

 この家もペンクロフトの家と同じく、島に住む研究者の為につくられた居住棟だが、変なところで凝っている。この島の住宅を設計した人物はかなり変わり者だったに違いない。

 蒼い湖では睡蓮の上を藍色の羽根のトンボがいくつか舞っていた。家は閑散としている。人がいる気配はない。もう出かけたのかな、と彼は思った。

「今頃は魔術師と会ってるかな?」

 ペンクロフトはもちろん魔術など信じていなかったので、魔術師などという話を聞いても、どこかの変人が仮装でもしてるんだろうと思っていた。長い髭でも生やして、節くれだった木の杖をもった黒ずくめの男と対峙しているクレイの姿を想像して、ペンクロフトはにやにや笑っていた。今頃奴はどうしているだろう?帰ってくるのが楽しみである。

 ペンクロフトは背伸びをしながら周りを見た。草原が広がっている。所々に夏の野草が咲いていた。彼はぶらぶらと歩き出した。古くなって石畳の間に草が生え始めた道を歩き、彼は湖の畔に立った。彼はこの景色が好きだった。緑の草原の中で、湖は青水晶のように輝いている。水面上をすいすいと舞うトンボの羽根が時折きらりと輝いた。しばらく眺めていると、ふと、湖のほとりに人がいるのが見えた。子供のようだ。ペンクロフトは何気なくそっちの方へ歩いていった。白いブラウスに茜色のスカート姿の少女は近づいてくる彼には気づかずに、しゃがみ込んで水の中を見つめている。見覚えのある子だった。昨日ちらっと見た、キャンベル教授の娘さんだ。

「おはよう」

 少女の後ろまで来ると、ペンクロフトは声をかけた。

 とたんにびくっとして少女は振り返った。黒い前髪に青い瞳が印象的な可憐な少女だった。

「何をみてるんだい?」

 優しく言ったつもりなのに、少女は瞳に脅えの色を浮かべて立ち上がった。警戒するように少しずつ後ずさる。二、三歩下がるといきなり少女は背を向けて、全速力で駆け出した。

 一人取り残されたペンクロフトは、草原の中を逃げていく少女を呆気にとられて眺めていた。

 少女の姿はだんだん小さくなり、それが彼方の森へ見えなくなったとき、遠く鐘の音が聞こえてきた。荘厳だけれどどこか郷愁を誘う鐘の音。その響きは朝日の中を流れ、人々に新しい一日の到来を告げた。



 5-第一次接触


 ノーチラス島を巨大な船にたとえるなら、その右舷、舳先のやや後ろにあたる場所に、この島唯一の街、アルケロン市が開けていた。トリオニクス湾と名付けられた小さな湾に面した小さな街で、パステルカラーの壁と木組みが特徴のアルザス風家屋の間を古風な石畳の道が走り、路地に立つとまるでヨーロッパの旧街道にでも迷い込んだような気がする。街の目抜き通りには店舗が並び、ガラスのショーウィンドウ越しに色々な品が煌びやかに飾られていた。町の中央には広場があって、石造りの噴水と菩提樹の並木が人々の憩いの場所となっている。広場の一方の端には石造りの大きな時計塔が立っていて、その下にこれだけはやけに近代的な電子掲示板があり、ノーチラス島の現在地や天候などのデータを人々に伝えていた。もう一方の端には保安局の建物がある。インフェリアの発見以来、その所有を巡っては未だに国家間のゴタゴタが続いていた。ただし、この島にはいかなる国の軍隊も駐留することが禁じられている。今のところ、この島には領有権を強硬に主張するに足る資源も見つかっておらず、むしろ此処は割に合わないほど危険な場所であったため、この島に好きこのんで肩入れする国はない。だから、この島の治安維持及び災害対策は、独自に組織された保安局が一手に担っていた。この組織は、この島に探検隊を送り込んでくる国の基金で組織・運営されている。資金は潤沢とは言えないが、自衛のための機器や装備はひととおり揃っていた。

 今、街のあらゆる場所に、時計塔から時を告げる鐘の音が響いていた。

「何なの、これ」

 ノーチラス島保安局の中、鐘の音が聞こえる観測室で、モニターを見ながら、観測技官のエリス・フォローズは呟いた。モニターにはさっきから不可解な光点が映っている。島の周囲に設置してあるセンサーブイからの情報だった。

「どうかしたか?」

 上官のケイン・アッカード主任観測員が訊いた。

「はい。一時間ぐらい前から、第三センサーブイのパッシブソナーに反応があります。何かがこの島へ向かってきているようです」

「魚か何かじゃないのか」

「魚にしては動きがおかしいんです。海流に逆らって、ほぼ一直線にこの島を目指しています。念のため、島の近海を航行する船舶のデータも調べてみたんですが、該当するものはありません」

 ケインは腕を組んで唸った。モニター上の光点を見つめる。

「魚でも船でもないとすると、一体何なんだ?」

「おかしいですよね」

 エリスは、移動物体の軌跡を指でなぞった。それはまっすぐに島を目指している。速度も観測するたびに上がっているようだった。

「現海域の透明度は20メートルですから、この速度だと、あと三分もすればセンサーブイの光学センサーで捉えることができるはずです」

「そうか」

 二人の目はモニターに表示される、センサーブイと物体との距離に釘づけになった。測距儀の数値が見る見るうちに減っていく。

「信じられません。」エリスが呟いた。

「物体の速度は40ノットを越えています」

 彼女の瞳の中で、不気味な光点が瞬いた。

「目視できる距離まであと30秒」

 ケインはソナーの横にある画面を見た。そこにはブイについている光学センサーから送られてきた映像が映し出されている。深度5メートル。今は青一色の世界。時折、センサーの前を小さな青い魚が横切った。

「主任・・・・」

 エリスが不安そうにケインを見上げた。物体が50メートルにまで接近していた。ケインは無言で画面を見つめている。

「来ます・・・」

 青い世界の中に、ぽつんと、真っ黒い影が現れた。

 それは信じられない速度で接近してくる。物体の後方はかきまわされた水で白く泡立っていた。最初は影のように見えた物体は、モニター画面のなかでみるみる大きくなった。

「主任!このままだと衝突します!」

 異様な物体は画面いっぱいになり、エリスの目が驚愕に見開かれた。ひっ、という悲鳴にも似た声が彼女の口から漏れた。一瞬、ケインにもそいつの姿が見えた。

 それは、奇怪な昆虫のような顔をしていた。

 次の瞬間、画面はデジタルノイズと共にぷっつりと消えた。定期的に響いていたソナーの音も途絶える。

 観測室に沈黙が流れた。

 エリスは硬直したように、暫く身動きもできずにノイズの走るモニターを見つめていた。暫くしてからようやく、

「第三センサーブイからの応答消失」

 消え入りそうな声で言った。

「・・・見たか?」ケインの手は観測器の上で握りしめられていた。エリスが見上げると、蒼白になった彼の顔があった。

「君、いまのを見たか?」


「どうぞ」

 シィナが開けてくれた扉をくぐって、クレイは博物館の中へ入った。石造りの博物館は、乾いた木の香りと、なんとなく懐かしい空気で彼を迎えた。最初の部屋は奥行き5メートル位の比較的小さな部屋で、四隅に陳列棚が並べられており、中には地球の生物の骨格標本や、鉱物標本が置かれていた。

「ここは地球の自然を紹介する部屋です」

 後からついてきたシィナが説明する。

「そんなに数は多くないですけど、動物の化石や、植物の種子なんかも置いてます」

 クレイは部屋の中を見渡した。小さな博物館だから大したことないだろうと思っていたが、予想に反して、なかなか興味深いものが置いてある。彼は、部屋の中央に置かれている、恐竜の骨格標本を見上げた。

「ああそれは・・・」

「知ってます。アルバートサウルスですね」

 シィナは意外そうな顔をした。

「よくご存じですね。大抵の人はティラノサウルスだって言うんですが」

「ティラノサウルスはもっと頬骨が外側に出っ張ってますからね。それにこれは骨格全体も華奢だし・・・」

「お詳しいですね」

 シィナはクレイの隣まで来て、恐竜の骨格を見上げた。

「操縦士とお聞きしましたが、生物学も学ばれたのですか?」

「いえ、まあ」

 クレイは少しうつむき加減にシィナを見た。

「ほんとは生物学者になりたかったんです。今まで半分忘れていたのに。此処にいると何だか子供の頃の気持ちが甦ってくるようです。素晴らしいですよね。こんな生物が本当に地上を徘徊していたなんて。こんな巨大な脊椎動物が・・・・」

 アルバートサウルスを見上げながら、いつしかクレイの心は一億年の昔に飛んでいた。

 彼の口から次々に言葉が溢れ出した。この恐竜の眼窩に納められた網膜に映る世界。地響きをたてて北米大陸を渡る角竜の群れ。草原で鳴くパラサウロロフス。水辺に潜む巨大なワニ。空を翔る巨大な翼竜———。

 その時、屋根の上で鳥が啼いて、骨格を見上げながら憑かれたように喋っていたクレイは、はっと我に返った。

 しまった。またやってしまった。

 クレイは生物のことを話し始めると自制が効かなくなる悪い癖があった。他人の前でついつい押しつけがましいほどに語ってしまい、大抵いつも呆れたような、うんざりしたような視線が返ってくるのだ。特に女性の場合はそうだった。彼はきまり悪そうに、恐る恐るシィナを見た。しかし彼女は、何故か少し怪訝そうな表情をしていて、クレイと目が合うと少し微笑んだ。

「そうですね。他にもいろいろ教えてくれますよ、ほら」

 シィナはクレイを恐竜の後ろ足の方へ案内した。

「大腿骨の上の方にキズがあるでしょう?同種の歯形です。ということはあれは多分繁殖期の闘争のときにできたものでしょうね。それからほら、こっちの腓骨は一度折れたのが繋がって治癒した痕があります。これくらいの骨折なら自力で回復できたんでしょうね」

 シィナは嬉しそうに話していた。まるで不思議の世界に生きている子供のように、その瞳が輝いていた。クレイも彼女のその晴れやかな姿に、知り合ったばかりだということも忘れてしまった。二人はしばらく恐竜の周囲を巡りながら、中生代の世界に生きた生命について語り合っていた。

 しばらくして、シィナは次の部屋の入り口へクレイを連れていった。

「このドアの向こうは大広間になってます。この博物館のメインテーマになってるものが展示してあるんです」

 シィナは謎めいた笑みを浮かべた。

 クレイはふと、なんとなく哀しそうな笑みだな、と思った。

 ドアが開けられ、クレイは部屋の中へ入った。


「移動物体は、なおもノーチラス島へ向けて進行中」

 緊張にうわずったエリスの声が、保安局の観測室に響いた。

 現在、第二哨戒ラインのソナーが物体を捉えていた。探信音が響くたびに、モニターに光点が映る。それはいささかも速度をゆるめずに、真っ直ぐ島へ近づいてきた。

 ケインの脳裏に、さっき一瞬だけ見えた物体の姿が浮かんだ。

 まるで黙示録に語られる悪魔のイナゴめいた異様な姿。

「あれはどうみても生物だ」ケインは呟いた。

 しかし、あの速度と破壊力、生物にあんなことが可能なのか?

「あと一時間でノーチラス島に到達します」

 エリスが不安そうに振り返ってケインを見る。

「どうします?」

「海にでている全ての船舶を呼び戻せ。警報発令。警報の種類は・・・・」

 まさか怪獣警報でもあるまい。ケインは苦笑いした。

「特殊災害警報でいく、便利だな、『特殊』って」

「了解」

 エリスがコンピュータのキーを叩き始めると、ケインは主任机の上の電話をとった。非常回線のボタンを押す。接続先は局長室だ。

「こちら観測室。現在未確認物体が急速に接近中。データはこれから送ります。至急対策を・・・」

「待って下さい!」

 エリスの声が響いた。

「ソナーからの反応消失!」

「何だって!」

 ケインはエリスの方へ向き直った。彼女も狐につままれたような顔をしている。さっきまで赤い光点を映していたモニターには何も映っていなかった。

 二人が顔を見合わせた次の瞬間、

 けたたましく警報が鳴った。

 その甲高い音のせいでエリスは一瞬我を失った。

 どうなってるの、何が鳴って・・・、

 彼女は混乱した表情で周りを見回す。

 警報はエリスの右の警戒モニターからだった。

「・・・哨戒システムの破綻を警告しています」エリスが独り言のように呟いた。

「第二哨戒ラインのソナーも破壊されたんです」


 そして、その奇怪な物体は人々の前から姿を消した。


 怪生物目撃の情報はすぐに保安局の上層部に伝えられた。

 局長のミシェル・アッカーはケインからの報告を受け、直ちに緊急対策会議を招集した。しかしながら、センサーを破壊して姿をくらました生物について、目撃情報のみではその実質的な危機の程度を推し量ることは困難であり、有効な対策はなかなか見いだせなかった。かなり攻撃的な未知の生物とはいえ、クジラ程度のサイズの物体に対して大げさに騒ぎすぎだ、という意見も出た。そもそもそれはクジラを見間違えたんじゃないか、とも。しかし、画像解析によりそいつの映像が確認されたとき、そのような楽観論は消えた。そこに映し出されていたのは、これまで見たこともないような不気味なものだったのだ。ある者はそれを見て松の木に群れる毛虫の頭部を連想し、あるものは人間の体内で無数の触手を広げる寄生虫を連想した。人間の心理の奥深くにある闇の中から出現したようなそれに人々は戦き、それが自分たちのすぐ近くに潜んでいることに耐え難い恐怖を感じた。何としても発見し、対処すべきという方針はすぐに決まったが、具体的な方策はなかなかまとまらなかった。

 そのような状況下で、ケインが口を開いた。

「我々が保有している探索機器の性能では、あれを再び補足することは困難と思われます。しかし、試験中の特殊探査機があったはずだ。あれが使えるかもしれない。至急、開発主任のペンクロフト・ヒューベル博士に連絡を取ってください」 


「これは・・・」

 その部屋に入るなり、クレイは感嘆の声をあげた。その声は広いホールの中で鐘のように反響した。

 そこはメインホールだった。二階まで吹き抜けになった空間に、所狭しと様々なものが並んでいる。多くは生物標本のようだった。部屋の右側に並んだ棚の中には、固定液の瓶にはいった標本が隙間なく並べられ、左側の低い棚の上には、剥製やDNAの模型がある。部屋の中央には大小さまざまの骨格標本が立っていた。その中には天井に届くほど巨大なものもある。窓から入る日光がそれらを照らしだし、一種荘厳な雰囲気がそこに漂っていた。

 クレイの足音がホールに木霊した。彼は標本棚に駆け寄って、ガラスに張り付くようにして、その中の生物を観察した。しばらく食い入るように全ての標本をみて、部屋の向かいの棚へ走っていく。そこの剥製もひとつひとつ丹念に観察して、最後に、彼は天井に達するほど巨大な骨格を見上げた。彼の瞳は驚きの色に染まり、心臓は早鐘のように鳴って、言葉もろくに出ないようだった。しばらく荒い息が続いた後、ようやく彼の口から言葉が漏れた。

「・・・・信じられない。ぼくが知ってる生物がひとつもない」

 それまでホールのドアのそばで、クレイをじっと見つめていたシィナが、こつこつと小さな足音を響かせて、彼のそばまで歩いてきた。

「フェンネルさんが知らないのも無理はありません。ここに展示している生き物たちは、全てこの島で創られたものなのです」

 クレイのすぐ後ろで、シィナの澄んだ声が響いた。

 創っただって?

 クレイは骨格標本を見上げていた。数十個におよぶ頸椎によってしなやかに伸びた頚、後眼窩骨のあたりから後ろ向きに生えた角をもつ頭骨、肩甲骨らしきものの上にはコウモリの前腕のようなひとそろいの骨がある。傘のように広がる細長い骨は指骨のように見え、その広がりはまるで被翼がそこに張られていたようにも見えるではないか。

 そんな。こんな生き物たちを。人間業じゃない

 彼は、昨夜聞いたペンクロフトの言葉を思い出した。

 ———そこは魔術師の博物館と呼ばれているんだ

 クレイはさっきまで楽しく話していた少女が、急に遠い国からの異邦人のような気がした。

「人工進化プロジェクトというものをご存じですか?」

 クレイは振り向いた。シィナが巨大な骨格を見上げている。その鳶色の瞳はなぜだか哀しみの色を浮かべていた。

 人工進化? 

 それなら聞いたことがある。しかし、それは・・・・

 クレイは困惑した声で答えた。

「もともと生物のいなかったこの星に、うまく適応できる生物を人工的に創ろうとする計画でしたね。将来的に生物資源として使おうという試みだった。いくつかはうまくいって、この星に放されたそうですが。この島でもその実験を行っていたんですか?いやそれより、そもそも人工進化プロジェクトで創ることができたのは、既存の生物の形態を僅かに変更したものだけだったと聞いています。生物が持つ基本発生プログラムを改変するような進化は不可能だった、人類の技術では進化の過程で定められた発生拘束を破ることはできなかったと聞いています。しかし、いまここにあるのはそんなものじゃない。こいつらは、逸脱している。脊椎動物の基本形態を完全に無視している。たとえば脊椎動物の形態には法則性があります。基本的に付属肢は二対、顎は鰓の派生物で、頭部は体軸の前端に形成されるはずだ。しかしここの生き物たちは・・・・これらを分類するには新しい生物界が必要になりますよ。いったいどういうことなんですか?」

 クレイの勢いに圧倒されたように身を後ろに反らしながら、シィナは両手を前にだして、なだめるような仕草をした。

「お詳しいですね。まあ、そんなにいっぺんにいろいろ聞かないでください。あちらの椅子へどうぞ。説明いたします」

 シィナに勧められて、クレイは窓際のテーブルに、彼女と向かい合って座った。

「まず、なぜこの島が人工進化の実験に使われたのかについてお話ししましょう」

 シィナはテーブルの上で指を重ねて、記憶をたどるように窓の外を見上げた。日の光が当たって、彼女の体の輪郭が淡く輝いている。

「そう、ご存じのように、このノーチラス島は漂流島です。この島はいくつかの海流を乗り換えながら、ちょうど一年の周期で浮動しています。その理由やメカニズムは未だ謎ですが、とにかくこの島の上にいればこのインフェリアという惑星のほぼすべての気候帯を回ることができるのです。この星で生存可能な生物の為の環境データを得るためには最適の環境なのです。それに、機密保持の観点からは、地球を遠く離れたこの島は最良です。私の父が率いていた研究グループはこの事を利用し、この島を新たな生命進化の実験場に選びました」

 ここまで話すと、シィナは自分の話がうまく伝わっているかを確認するような眼差しでクレイを見た。クレイが頷くと、彼女は話を続けた。

「ここで行われたプロジェクトの基本概念は、他所で行われたものと同じです。すなわち、分子生物学とコンピュータ科学を融合した方法で進められました。ご存じのように、生物のからだは、遺伝物質であるDNAをもとに作られます。20世紀の終わりから21世紀にかけて、この分野の研究は飛躍的に進歩し、生物の形態形成に関わる遺伝子は全て同定されました。つまり、DNAの配列を見れば、それからどんな生物ができてくるか予測する事が可能になったのです。そこで、生物を造るのに最低限必要な配列をもったモデルゲノムをデザインして、コンピュータのなかで疑似生物を創りました。その上で環境をいろいろシミュレートし、人工的に淘汰圧を加えて、コンピュータ内の世界で、DNA配列を、つまり生物をどんどん進化させていったのです。つまり、スーパーコンピュータにインフェリアの環境データをインプットして、この星の環境にあった生物をつくるDNA配列を作り上げたのです。このようにして得られたDNA配列を実際に化学合成して、必要なマターナルエフェクターを持つ卵に注入し、発生させて、生きた新生物を造り上げたわけです。それらのいくつかはこのインフェリアに放され、現在も僅かではありますが生息が確認されています。それが第一期の計画の概要です」

 シィナはここで口をとじて、周りにある様々な生き物を見渡した。彼女の長い話に聞き入っていたクレイも、姿勢をかえて彼女の視線を追いかけた。

「・・・・ここにある生物たちは?」

「ここに展示している生物は、西暦2051年から2057年にかけて進められた第二期の実験により創られたものです。ごらんのように、第一期とは比べものにならないほど多様な生物が創られています。研究は大成功でした・・・・」

「すごいですね」クレイは感嘆したが、同時に疑問が芽生えた。

「しかし、そんな成果があったとは知りませんでした。有名なジャーナルには目を通していたはずなのに・・・・・」

 シィナの表情が翳った。

「・・・・・地球の人は誰も知らないはずです。ある事件が起きて、プロジェクトは中止、研究チームも解体されたので」

「ある事件ってなんですか?」

 シィナは沈黙した。すこし俯き、テーブルの上のキズを見つめている。言うべきかどうか悩んでいるようだった。その端正な顔に苦悩の色がかすかに浮かんでいた。

 暫くそうしていてから、

「そうですね、フェンネルさんなら・・・・」

 と呟いた。それから、真っ直ぐにクレイの瞳を見つめて、

「聞いて下さい」

 彼女がそう言ったその時、唐突にホールのドアが開いた。

 シィナがはっとして、ドアの方を見た。ドアのところに、黒い衣装を着た小柄な人影が立っていた。少年のように見えたが、フードを深く被っているので顔はよくわからない。黒ずくめの人物はつかつかとホールの中へ入ってくると、

「クレイ・フェンネルという方、いますか」

 よく通る声で言った。声は少年のようだった。目の前にいる少女の弟かなと思いながら、クレイは椅子から立ち上がった。

「ぼくがそうですが?」

「ペンクロフト・ヒューベルという方から連絡がありました。すぐ帰ってくるようにとのことです」

 それだけ言うと、少年は音もたてずに去っていった。

 ペンクロフトが?何だろう?

 クレイは訝しげに首を傾けた。暫く何か考えていたが、シィナに向き直って、

「すみません。何かあったようです。これから帰ります。お話聞けなくて残念ですが・・・・」

「いえ、いいんです」シィナは呟いた。何故か怯えたような口調だった。クレイは少しひっかかったが、何も尋ねなかった。

「では、これで」

「またいらして下さい」

 そう言って、シィナは微笑んだ。クレイは部屋から立ち去りかけて、ふと、自分が今日ここに来た目的を思い出した。

「ああ、そうだ、忘れるところでした」

 彼は慌ててかけ戻って、少し不思議そうにしているシィナに、白い封筒を渡した。

「実は今日はこれを見てもらおうと思って来たんです。船に描かれていた絵なんですが。なにか気づいたことがあったら、いつでもいいですから教えてください」

 そして、急ぎ足で去っていった。

 シィナはその後ろ姿を見送っていた。暫く考え事をするかのように、その姿勢のまま動かなかった。やがてクレイが残していった封筒をテーブルのところに持っていって、引き出しからペーパーナイフを取り出して封を切った。

 中には一枚の写真が入っていた。

 何気なくそれを見たシィナの目が、次の瞬間、凍り付いた。みるみる顔から血の気が引いていった。彼女は写真を持つ自分の右手が震えているのに気づいた。止めようとして左手を動かしたとき、ペーパナイフが床に落ちて、澄んだ音ががらんとしたホールに響きわたった。


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