<90>済ます
物事を済ませば、自ずと寛ぎ気分になれる。済まさないと心の中にやることが残り、心底から寛げない。要は、物事を済ませてから休んだ方が得策で、旨味が増すということになる。
大相撲の本場所が間近に迫る穴熊部屋の稽古場である。土俵の中では部屋付きの力士達がぶつかり稽古で汗を流している。
「もっと、ハズに当てんかっ!!」
少し離れた框の座布団に座り、稽古の様子を見守る穴熊親方から厳しいひと声が飛ぶ。親方に言われた力士、荒鮭は今年、幕下付け出しで相撲界にデビューした元学生横綱のホープである。
「はいっ!!」
「返事は、いいっ!!」
親方に注意され、荒鮭は一瞬、委縮したが、若さゆえか性格からかは分からないが、すぐニンマリした笑顔でぶつかっていく。胸を貸すのは穴熊部屋の希望の星で新横綱の蝦蟇乃里である。しばらく熱気の稽古が続いた後、皆が待った食事となり、寛ぎのちゃんこ鍋で風呂上がりの力士達は腹を満たす。そこへ、某国営放送局の取材でアナウンサーがマイク片手にインタビューしている。
「親方、これは…」
「ははは…ご覧の通りのちゃんこですよ」
「鍋の中身がちょっと変わってますね…」
「この鍋ですか? この鍋の調理は先々代から部屋に伝わっておるものす」
「何という?」
「部屋では褞袍鍋と呼んでますが…」
「褞袍鍋ですか…」
「はい。部屋自慢の一品です」
褞袍鍋のちゃんこを新横綱の蝦蟇乃里が無心に食べ続ける。大関が食べ終えた後、見ていた幕下付け出しの荒鮭も負けまいとガッツいて食べる。相撲部屋に稽古のあとの寛ぎの時が流れている。アナウンサーも食べたくなったのか、思わず唾を飲み込む。
このように、稽古[物事]を済ますと、寛ぎ気分で美味しく戴ける訳です。^^
完