表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/100

<9>壺入り

 おそらくは蛸漁の光景から生まれた言葉なのだろう。飲み屋に入り、ズゥ~~っと店に居続けて飲み明かす客の姿を指す言葉らしい。蛸が壺に入ると、こりゃ、いい塩梅(あんばい)だ…と思うか思わないかは別として、居心地の良さにそのまま壺の中へ入り続けるという。寛ぎ気分が味わえる格好の場所に違いない。人の場合もそうで、壺入りする・・という店は寛げる居心地がいい場所と思われる。

 宇津保は常連にしている飲み屋の串九(くしきゅう)で揚げたての天麩羅串を肴に飲み明かしていた。

「いつ来ても、ここの天麩羅は安くて美味いねぇ~」

「へい、有難うございますっ!」

 世辞を軽く言った宇津保に店主が、これも言い馴れた言葉で返す。カウンター席で、まずは腹を満たし、それから畳の間で夜っぴいて飲み明かす・・というのが週休前日の宇津保の日課となっていた。開店間もなくからチューハイのレモン割りを数杯飲んだ宇津保は、ほろ酔いから本格的に出来上がっていった。こうなると畳の間である。

「宇津保さん、そろそろ上がられますか?」

「ああ、そうだな…」

 客がそろそろ来る頃だった。宇津保は店主に勧められフラフラっとカウンター席を立った。そのとき、ガラッ! と戸口が開き、一見(いちげん)客が数人、店へ入ってきた。

「おっ! 空いてるぞっ!」「だなっ!」

 この段階で、すでに宇津保は奥の畳の間へと移動していた。常連の勘である。一見客達がドタドタッとカウンター席へ座ったとき、宇津保は奥の間で大の字になり、しばらく目を閉じて寛ぎ気分を味わっていた。蛸ではなく宇津保の壺入りだった。しばらく経つたあと、店主が酔ったとき用に揚げた天麩羅とレモンサワーを運ぶ手筈が定まっていた。

 壺入りして寛ぎ気分を味わうには、長きに渡り、店へ足を運ぶ必要があるのです。^^


                  完

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ