<84>ノルマ
働く人々には一定量のノルマが与えられる。それは仕事量という単位で構成されている。ノルマに追われれば寛ぎの感覚を失くす。誰もがノルマのないゆったりとした環境で働きたいのだが、世間はそうさせてくれないのだ。働かないとお金は貰えないのだからノルマを達成する他はない。甘くはなく辛いのである。インスリンを注射する甘いものがダメな人には好都合だろう。^^
とある総合病院である。今日もバタバタと大勢の人が血液検査を受けている。
「牛野草夫さ~~ん」
呼ばれた牛野は女性の看護師に言われるまま、スタスタと歩いて採血室へ入っていった。
「お名前と生年月日をお願いします…」
牛野はモォ~何回も来てるんだからいいだろうが…とは思ったが、そんなことはとても言えず、看護師に従った。
「牛野草夫、昭和三十三年三月三日です…」
看護師は、あら、男性なのに雛祭りの日…とは思ったが、そうとも言えず、黙って採血した。
「二本、抜かせて戴きます…」
牛野はひと月前に二本、抜かれたんですけど、またですか? とは思ったが、そうとも言えず、看護師の言われるままの人となった。血液を抜かれながら牛野は思った。よくよく考えれば、看護師さん達は医療事故を起こさず採血することがノルマで、ノルマを達成しなければ看護師ではない訳か…と。採決の失敗は許されないから、当然ながら寛ぎ感はなく緊張感だけなのである。そこへいくと、自分の場合は抜かれるだけである。ただ、結果を聞かされるのはノルマで辛いな…と牛野は思った。
病院の医療スタッフさんも患者さんもお互いにノルマの中で生きていて寛げない訳です。^^
完