82/100
<82>アクシデント
寛いでいるときに不慮のアクシデントが生じれば、寛ぎ気分は一瞬にして立ち消える。
町役場勤めの川宮は出張から帰路に着いた。
「川宮さん、これ…」
後輩の上司である課長補佐の東雲は朝陽が昇り始めたような顔で復命書の用紙を川宮のデスクへ置いた。
「ああ、はい…」
返事はしたものの、川宮は、出張中に起きたアクシデントを書いていいものかどうか…と、迷っていた。無事戻ったのだから、ただ復命すればいいだけの話・・と考えられなくもない。
『そういや、以前にも服命書は書いたことがあったな。今度は復命書か…』
川宮は訳の分からないことをゴチャゴチャと考えながら、結局、アクシデントのことは書かないことにした。川宮は国と地方の公務員を渡り歩いた万年ヒラの男だったが、その川宮が出張中に遭遇したアクシデントとは、不慮の事故で引かれようとした老人を助け、警察から表彰状を貰ったことである。
アクシデントでいいことをしたからといって、話が大げさになることもあり、必ずしも寛げる気分になれるというものではないというお話でした。^^
完