<68>刈どき
晩夏に近づけば、日中の暑さはさて置き、朝晩にも漫ろ涼しさが増してくる。ムッ! とするような暑い空気が幾らか退くからだ。この頃になると田園地帯では早稲の刈込みが始まる。中稲、晩稲の稲はまだ緑々しているのに、となる。この刈どきは稲にとっては寛げる寛げないの分岐点で、稲とすれば気が気ではない。稲が寛げず気が気ではない・・という表現も妙だが、刈どきを失すれば旨味が損なわれる。加えて台風にでも遭おうものなら、美味しく食べてもらえなくなる。^^ 人の場合だと、潮どき・・と言われる頃合いである。刈り込んでしまえばこちらのもので、雨風に晒されようと寛ぎ気分で農家の人々はいられる訳だ。
早稲と晩稲が語り合っている。
『そろそろ刈り込まれますかな、ははは…』
『さよですなぁ~。私らは晩稲ですから、もう少し涼しくならないと熟れず、ダメですが…』
『そりゃそうです。私らはちょいとお先に刈り込まれます…』
そう早稲が語った瞬間、語っていた早稲はコンバインの中へと、たちまち刈り込まれてしまった。それを遠目に見ていた晩稲は、しみじみと独りごちた。
『刈どきに刈り込まれないと、私らは人さまに美味しく食べられ、寛げないからねぇ…』
稲の皆さんが寛げるか寛げないかは別として、人は美味しく炊かれたお米[ご飯]を味わって寛ぐ訳です。^^
完