<66>工夫
寛ぎ気分も工夫一つで大きく変化をする。時間には限りがあるから、工夫をする、しないでは同じ時間で寛いでも感じ方が違う訳だ。どうせ寛ぐなら満足できる寛ぎ方の方がいいに決まっている。^^
とある市役所の課長補佐になった芳本は、今日こそ寛ぐぞっ!…と意気込まなくてもいいのに意気込んでいた。寛ぎ気分を最大限得ようと、寛ぎ方に拘って意気込む男はそうざらにはいない。^^ 芳本が意気込むのには意気込むだけの理由があった。時間のゆとりはあるのだが、どういう訳か寛ぎ気分を味わえない。寛ぎ方が悪いのか? と考え、それが重なってトラウマとなり、何が何でも寛ぐぞっ!…と意固地になったという訳だ。^^
「芳本さん、今日の帰り、一杯どうです?」
「いや、申し訳ない。今日はちょっと野暮用があってね…」
「ですか。そいじゃ、また…」
係長の福川は同じ課の部下だった。福川が先に職場を去ったところで、芳本は大きく息を吸い、意気込んだ。
『よしっ! 今日こそっ!』
芳本の野暮用は寛ぎ方を最大限にして寛ぐことだった。芳本は、先に予約を入れておいたうなぎ専門店[鰻政]で一泊し、鰻料理を食い尽くすことで寛ごう…と工夫したのである。肝吸い付きの特上の鰻重、鰻肝の串焼き、鰻の骨のから揚げ、櫃まむし、鰻の白焼き、鰻茶漬け…と芳本の夢は膨らんだ。これらを全て賞味できれば最大限の寛ぎ気分になれるだろう…と目論んだのである。
芳本が意気込んで鰻政へ行くと、店は臨時休業だった。^^
意気込んで工夫しない方が寛ぎ気分になれるようです。^^
完