<64>恐怖
人とは妙なもので、寛ぎ感を得る手段として恐怖を求める傾向がある。ホラー、スリラー、怪談などがその類で、怖さを求めて寛げるという変な生き物だ。^^
今年も暑い夏がやってきた。竹川は夏の恒例にしている幽霊屋敷へ来ていた。毎年のことで、幽霊屋敷の中の内容は頭に入っているから、通路を通っていく上で、次は何が出てくるか…は、おおよそ分かっていた。
『つぎは左奥から人魂だな…』
そう思いながら竹川が進んでいくと、人魂がフワフワと蒼白い光を揺らめかして浮かび始めた。そら、そうだろ…と竹川は納得した。当然、恐怖心は全く起こらず、竹川は冷静そのものだった。そのときである。例年ならスウ~っと左側から現れて右へ消える人魂が場内の中央で忽然と消えたのである。そんなことは初めてだったから、竹川はゾクッ! と恐怖を覚えた。スタッフの操作ミスで電気スイッチを間違えたことが分かったのは出口でスタッフの一人に謝られたからだった。しかしそのとき、竹川の心に今までにはなかった寛ぎ感が湧いていた。
「どうも、すいませんでした…」
「いや、楽しみましたから…」
恐怖を楽しむという言葉も変だな…と竹川は館内を出て歩きながらニンマリと哂った。
人は、そんなことはない…と分かっているから恐怖を楽しみ感覚で寛げるのです。^^
完