<60>イザコザ
イザコザとは人と人との間で生まれるトラブルのことだが、起きれば当然、寛ぎ気分などは吹っ飛んでしまう。出来ればイザコザは避けたいものだ。^^
地方の高級温泉宿で寛いでいた鳥谷は、露天風呂に浸かりながら眼の前に広がる紅葉を愛でていた。時折り盆の上に乗せた酒を飲みながら、宿の逸品の肴を摘まむ。ようやく冷んやりととしかけた季節で、外気が澄み渡り、心地よい。
「あの…お食事の準備が整いましてございます…」
「ああ、そうかい…、いつも、済まんね」
「いえ、鳥谷様にはいつもお世話になっておりますから…」
この温泉宿は鳥谷グループの出資で賄われていたから、会長の鳥谷がそう言われるのも当然と言えば当然の話だった。
「それはそうと、この前、弱っていたお猿さん、どうなったの?」
「はい、お蔭様で回復し、今は退院が近いやに聞き及んでおります…」
「ほう! それはよかった…」
「見て見ぬ振りは出来ないから、お願いした訳だが…」
鳥谷は温泉宿の近くの自然を散策していたとき、偶然見つけた倒れていた猿を助けたのである。携帯でグループに属する動物病院へ通報し、搬送は温泉宿にしてもらったのである。
「すべて、鳥谷様のお蔭でございます…」
「いやいや、私は見つけただけですから…」
「何をおっしゃいますやら…。では…」
しばらくして露天風呂から出た鳥谷は、美味い地方の料理に寛ぎ気分で舌鼓を打った。
いいことをすればイザコザは起きず、寛ぎ気分が生まれるようですね。生まれなくても最低限、悪いことは起きないようです。^^
完