<59>どうでもいい…
全てのことを、どうでもいい…と受け流せば、いつも寛ぎ気分で過ごすことが出来る。しかし現実の社会は受け流すことが出来ずに疲れる訳だ。^^
猪豚は疲れ果てていた。町役場の生活改善課に勤める猪豚は、イノシシでもなく、かといって豚でもないような日々を過ごしていた。分かりやすく言えば、逆らうように自分の考え方を課長に言ってお目玉を食らうということもなく、そうかといってブ~ブ~と媚び諂うこともない日々を過ごしていたのである。新採用されてから、まだ一年ということもあったのだが…。
「猪豚君! 昨日、電話があった田山さんとこの苦情話、アレ頼んだよっ!」
「課長、また僕ですかぁ~」
「まあ、そう言うな。特殊勤務手当は出るんだから…」
「ええ、それはまあ、それはそうなんですけどね…」
「君しか適任者がいないんだよ。なっ! そういうことで、頼んだよっ!」
「はあ…」
僕以外にいないのかよ…とは思った猪豚だったが、課長に指名された以上は仕方がない。新採用者の弱いところで、従う他はなかった。
猪豚は町内の田山の苦情処理を果たすべく、町役場を出た。田山の苦情処理とは、隣家、尾上のバカ息子が深夜に出す騒音処理だったのである。はっきり言って、どうでもいい…とも考えられる苦情だったが、苦情が入った以上は仕方がなかった。
「あの…息子さん、いらっしゃいますか?」
「ああ、ドラ息子かい? 昨日はいたけど、今朝は帰ってねぇ~なっ!」
「ですか…」
「実は、お隣の田山さんが深夜の騒音をなんとかしてくれって電話されたんですよ」
「ああ、うちのドラ息子、バンドやってるからね。うるさくて寝られやしないんだよっ! でね、一昨日、ドヤしつけたら、プイッ! って出てしまったんだよ…。だから今夜からは大丈夫だと思うよ」
「今夜からは?」
「ああ、会社の寮に入ったからね。ヤツが言うには、バンド練習は会社の体育館を借りたらしい」
「そうでしたか。助かりました、有難うございました」
猪豚がどうでもいい…と思った苦情処理は意外な形で早く解決した。町役場へ取って返す猪豚の胸中に、寛ぎ気分が湧き上がった。
どうでもいい…と思えることでも命じられる新採用者は寛げず、つらいですよね。^^
完