<53>煩(わずら)わしい
煩わしい雰囲気の中では寛ぎ気分に浸れない。いくら自分が寛げる環境に存在していたとしても、辺りの環境がそうでなければ寛げないのである。そういうときにはカタツムリのような辺りの環境を寄せ付けない硬い殻が必要となる。ナメクジではダメな訳だ。^^
舘花は今日こそ寛ぐぞっ! と意気込んでいた。今までどういう訳か寛ごうとすると邪魔が入って寛げなかったのである。そういう訳で、舘花ほど寛ぎを得ることの難しさを知る者はなかったことになる。実にお気の毒な人だ。^^
「舘花さん、明日からお休みでいいですね…」
町役場の退庁を知らせる放送チャイムが庁舎に鳴り響いたとき、同じ課の弘背がひと声かけた。舘花と弘背は採用が同期の職員だった。
「ははは…だと、いいんですがね」
「と、言いますと?」
「私、なかなか寛げないんですよ」
「どういうことです?」
「ははは…あなたに言っても分かってもらえないと思います」
「寛げないんですか? いろいろ,お忙しいですね…」
「いや、そういう訳じゃないんですが…」
舘花は、寛ごうとすると煩わしいコトが…と言おうとしたが、グッ! と我慢して心に留めた。
「軽く考え、楽すりゃいいんですよ、楽すりゃ! 私なんか、いつも寛ぎっぱなしです。ははは…」
「ははは…まあ、努力してみます」
笑い飛ばした舘花だったが、心のトラウマは消せそうになかった。
そして一週間が瞬く間に過ぎ去った。さて、舘花は寛げたのか? それはあなたのご想像にお任せします。ただ、出勤してきた舘花に笑顔が見られたことだけはお伝えしたい。^^
完