<51>計算
ああして、こうして…と計算しては寛ぎ気分にはなれない。^^ 要するに、寛ぎ気分とは予期しないところから湧くように生まれる感情なのである。勤務が終わり、この店で串カツを濃厚なタレに浸けて飲んで…などと計算して店まで行けば、臨時休業の紙が貼られていた・・なんて場合がそうだ。寛ぎ気分相場か、なんてこったい! …などと計算と気落ちするのが関の山だ。^^
豚崎克也は、気落ちしていた。アノ店で寛ごう…と計算していたがコトは思うに任せず、アノ店は臨時休業だったのである。なんてこったい! …と気落ちしながら地下鉄階段を降りようとした矢先だった。
「豚崎じゃないかっ!」
階段前の通路で豚崎は後方から突然、声をかけられた。思わず振り返ると、そこには高校時代の旧友、村吉が笑顔で立っていた。
「おっ! 村吉か…。ははは…久しぶりだぁ~」
「何年ぶりかねぇ~。急ぎじゃなければどうだい? これから一杯!」
「ああ、いいねぇ~、付き合おう! アレから五十年以上か…」
感慨深げに豚崎は当時を思い浮かべた。二人は地下鉄階段を降りず、薄闇の街路をゆったりと歩き始めた。
「私の行きつけの店がこの近くにあってね…」
「ああ、そうか…。いいよ、そこで…」
豚崎にすれば気落ちしていた矢先だったから渡りに舟である。どこでもよかった。
しばらく街路を歩き、細道に入ったところに店はあった。豚崎は、こんなところに…と、知らなかった店に驚いた。
店前には屋台風の暖簾がかかり、薄暗い提灯が吊るされていた。地味で目立たない店だな…と豚崎はジュ~シィ~に思った。店は臨時休業していた豚崎の行きつけの店と同じ串カツ屋だった。二人はその後、想い出話に話を咲かせながら、串カツを濃厚なタレに浸け、ジョッキで美味い生ビールを飲んだ。
このように、ああして、こうして…と計算しないところから寛ぎ気分は生まれるのです。^^
完