<49>予備
物品や物事は予備を整えておくことが必要だろう。そうすることで心が落ち着き、自ずと寛ぎ気分に浸れようというものである。
角宮は予備に拘るサラーリマンだ。金持ちという訳でもなく、そうかといって貧乏でもない中途半端な男だった。
「角宮さん、頼まれていた電池、買っときましたよ」
昼の外食から戻った同じ課の後輩、吉崎が角宮のデスクの上へ単四ん乾電池の電池パックを置いた。
「ああ、有難う。これで、全て揃ったな…」
角宮は言うでなくそう呟いた。その声が吉崎に聞こえた。
「…何が揃ったんです?」
「いや、別にどうってことじゃないんだ…」
角宮は思わず暈した。
「ははは…電池集めの趣味か何かですかっ?」
吉崎が揶揄い半分に角宮の顔色を窺った。
「そうじゃないんだ。予備を揃えておくと、何となく安心だろ」
「ええ、まあそうですが…」
「何かにつけ、俺はいつも予備を揃えておくことにしてるのさ」
「なるほど。それは必要ですよね…」
吉崎はそれ以上は訊ねず、自席のデスクへ戻った。角宮はホッ! とした。角宮の本心は、予備を揃えておくことで、なんとなく寛ぎ気分になれる・・というものだった。予備の充足=安心感=寛ぎ気分という等式が角宮の心中には存在していたのである。悪く言えば、ある種のトラウマだが、よくよく考えれば、それが賢明とも言えるこだわりだったのである。
電池には単一、単二、単三、単四、ボタン電池などの各種がありますが、よく切れます。突然、切れたときって、確かに困ります。アレって何とかならないもんですかねぇ~。いつも寛ぎ気分でいられる発見、発明をしていただきたいものです。^^
完