<45>環境
ほん最近、建売りされた二軒の一戸建てである。建物構造は全く同じで、違うといえば中に住むご一家の人々だけである。
土曜の夕方、A家にある庭の縁側では、風呂上がりのご主人が冷えた生ビールをジョッキ片手に寛いでいる。庭の軒先に吊るされたガラス細工の風鈴がチリリ~ン! と時折り風情のある音を響かせ、寛ぎ気分を一層、助長する。ツマミは炒めた豚の青紫蘇巻きで、美味そうにフォークに刺して頬ばる。^^
平沢家と隣続きにあるもう片方のB家では、ご主人が奥さんにブツクサ小言を言われながら、苦虫を嚙み潰したような顔で缶ビール片手に庭の除草をしている。すでに体は全身汗まみれで、額から滴り落ちる汗を時折り首筋のタオルで拭いている。両家では、同じ時折りでも雲泥の差を生じている。
「ああ…」
堪りかねたB家のご主人はひと声発すると、除草作業を中止し、縁側へへたり込んだ。その頃、隣りのA家のご主人は、飲み干したジョッキ片手にクーラーで冷えた居間へ移動した。
「ああ…」
A家のご主人がひと声発した。両家では、同じひと言でも雲泥の差を生じている。
置かれた環境の違いで、寛ぎ気分は生まれたり消えたりと千変万化するようです。^^
完