<38>欲
寛ぎ気分で心身が満たされると、ついつい欲が出てくる。食欲、色欲、自己顕示欲、金欲、名誉欲・・etc.様々な欲が沸き起こる訳だ。まあ、これには個人差があり、ほとんど起こらない大した人もいるから全てとは言えないが…。私は不出来ですから時折、起こります。^^
長舟は周りの人々から、あの人は大したものだ…と、尊敬[リスペクト]されていた。本人もそれが薄々分かってか、少なからず意識をしていた。
「あっ! 長舟さんだ…。寛ぐのはいいけど、あんなところに座って暑くないのかねぇ~」
「手前に喫茶店があるんだから、中で涼めばいいのにねぇ~」
「私らでは、とても無理だから、入りましょ!」
「ええ、そうしますか。それにしても、落ち着き払って流石だな、長舟さん…」
「ですね…」
二人が遠目で自分を見ながら話しているのを長舟は分かっていた。二人が喫茶店へ姿を消すと、長舟は堪りかねたのか、ハンカチでビッショリ出た汗を拭った。するとそこへ、また別の二人が通りかかった。長舟は、すぐに落ち着き払って品を作った。だが、内心は、ぅぅぅ…暑いっ! だ。^^
「長舟さんだ…。石の上に座って休んでるよる暑くないのかねぇ~」
「そりゃ長舟さんだから、俺達とは違うだろ」
「まあな…」
「俺達ではとても無理だ。店へ入ろう」
「ああ…」
長舟の体熱は、すでに限界に達していた。二人が姿を消すと、長舟は、居たたまれず、体温を下げようと前の川へ飛び込んだ。
『人によく見せようなどと欲は持たないことだな…』
川からびしょ濡れで上がった背広服姿の長舟の心境である。ただ、長舟の心は寛いだ気分で満たされていた。
欲から解き放たれれば、人は寛ぎ気分になれるのです。^^
完