<34>スケジュール
スケジュールが詰まっていれば、寛ぎ気分には到底なれない。
「先生っ! 午後の二時からは大崎様との懇親会がございますので、そのおつもりで…」
滴り落ちる汗をタオルで拭いながら選挙カーを降りた議員候補の丸太に、事務所にいた秘書がひと声かけた。
「ああ、分かった!!」
丸太は、ひとっ風呂浴びてから言えっ! と怒れたが、そうとも言えず、ブスッとした不機嫌な顔で返した。
『ったくっ! 寛げんな…』
寛ぎ気分を削がれたそのときの丸太の心の内である。丸太はソソクサと浴室へと消えた。
シャワーで汗をぬぐい、衣類を着替えたとき、ようやくホッコリした気分が丸太の全身を覆い始めた。
『二時だったな。まだ時間はある…。よしっ! 冷えたビールと美味いオードブルで軽く一杯やるか…』
丸太がそう思ったときだった。浴室の外から、また秘書が声をかけた。
『先生っ! 言い忘れておりましたっ! 大崎様との懇親会のあと、七時からは牛鍋銀行の鋤尾様とのお食事会がございますっ!』
「ああ、分かった分かったっ!!」
丸太は分かった! を繰り返した。
『あとで言えっ! あとでっ!!』
寛ぎ気分を削がれたそのときの丸太の心の内である。丸太は事務所向かいにあるファミレスへ、ソソクサと消えた。
『あの秘書は寛げん男だ…』
その後、丸太の姿は議員席で見られなくなった。
寛ぎ気分で当選するには、スケジュールを追わない選挙スタッフを厳選する必要があるようです。^^
完