<31>趣味
人とは妙なもので、趣味に時間を費やしている間、寛ぎ気分を味える・・という性質を持つ。それが、傍目からは変に思えようと、本人にとってその趣味で寛げるのだから、他人がどうこう言う筋合いの話ではないのだが…。^^
鳥目の趣味は好きな者同士の縁を纏めることだった。目ぼしい二人を見つけると、仲人をすぐ買って出て縁組させる・・というものだ。カップルが目出度く結婚へゴルインすれば、鳥目は寛ぎ気分を味わえたのである。この鳥目の趣味は町役場の誰もに知れ渡っていた。
「くっ付けの鳥目さんが来たわよっ!」
「こりゃ危ういっ! ガムテープを張るようにくっ付けられちまったら大ごとだっ! 退散、退散っ! おお、クワバラ、クワバラ!!」
商業観光課へ近づく鳥目を見て、課員達は楚々と席を立ち、姿を暗ませた。入れ違えに鳥目は課内へ入ると、応接セットの長椅子へドッカ! と腰を下ろした。
「何だ…誰もいないじゃないか…」
課員が鳥目から緊急退避したことを知らない鳥目は、呑気そうに課内のアチコチを見回した。そこへ運悪く、課長の皺川が入ってきた。皺川は応接セットの長椅子に座る鳥目に気づいたが、時すでに遅し・・で、鳥目に気づかれた。
「やあ、皺川さん、お久しぶりです」
「ああ、鳥目さんじゃないですか。何か御用で?」
環境保全課と商業観光課は、一見して関係ない部署のように思えたが、しばらく前、街の活性化を目的としたプロジェクトが開始され、担当課長が一堂に会したのである。そのとき顔見知りになった二人だった。皺川の趣味は山登りだったから、鳥目が調えたカップルを皺川が山岳ガイドとして山へ誘う・・という筋立てが出来ていた。二人の課長は、こうすることで寛ぎ気分になれたのである。
世間は広く、いろいろな人がいますから、他人が寛げる変に思える趣味を、とやかく言わない方がいいようですね。^^
完