<30>疲労
疲労は寛ぎ気分を阻害する。身体の疲れが心の疲れとなって阻害する訳だ。ということは、寛ごうとするなら、まず疲れを取ってリラックスする必要がある・・ということになる。寛ぎたくても疲れていれば、十分に寛げないのである。
伊崎は疲労が蓄積し、ここ数日、体調が今一だった。ドコソコが悪いという訳ではなく、アレコレと治療を要する・・というほど悪くもなかった。ただ、寛ごうとしても寛ぎ気分は高まらず、そうしたことが次第に積もりに積もって伊崎はトラウマになりつつあった。
『伊崎部長、専務がお呼びです…』
秘書室長の雲村からの内線が伊崎のデスクに入った。
「ああ、はい…。10分後にと言っておいて下さい」
『分かりました…』
内線が切れたあと、伊崎は深いため息を一つ吐いた。すぐに席を立てないのは、溜まりに溜まった疲労によるものだった。腕を見れば、もう昼タイムに近かった。疲労のため食欲もなく、伊崎は出勤前にコンビニで買い求めた菓子パンと牛乳で昼食を軽めにし、残りの時間は眠ろう…と決めていたのだ。それが専務の呼び出しでオジャンになつてしまったのである。伊崎は専務を恨めしく思った。まあ、化けて出てやる…とまでは思わなかったのだが…。^^
雲村に伝言した10分は瞬く間に過ぎ去った。ウトウトしている間に昼タイムの半分近い25分が経過していたのである。伊崎は慌てて席を立つと専務室へ急行した。
「遅かったな、伊崎君…」
「どうも、すいません。あの…なんでしたでしょうか?」
「んっ? いや、もういい。私の勘違いだった。引き取ってもいいよ」
「そうですか。では…」
伊崎は、なんだ…と思いながら専務室をあとにした。専務は伊崎を次期常務に推挙しようと伊崎を呼んだのである。25分の呼び出し遅延が伊崎の出世をダメにしたのだった。
疲労は寛ぎ気分を損なうだけでなく、出世をもダメにしてしまうのです。中年のサラリーマン諸氏、体調管理にご留意を。^^
完