<29>焦(あせ)る
一刻も早く寛ぎ気分に浸ろうと焦るのは返って寛げず、寛ぎ気分を台無しにする。
とある酷暑の夕方、道岡は勤めを終えると美味い生ビールのジョッキを頭に描きながら、ビアホールへと急いでいた。汗が流れて、下着はすでにビッショリと濡れている。にもかかわらず、美味い生ビール飲みたい一心の道岡はビアホールへと急いだ。そんなに焦る必要もないのに、である。結果、生ビールを飲めることは飲めたが、鼻水が出て道岡は夏風邪を引いてしまったのである。
『しまった…。焦らず、ワンクッション置くんだった…』
次の日の朝、会社に病休願いの電話をし、ベッドの上に横たわり悪寒と戦いながら道岡は反省した。幸い、行きつけの医院の薬が効いたのか、熱は夕方には下がり、道岡はホッと安堵の息を漏らした。課長から次長へ上がれるかどうかの大切な時期のにいた道岡としては、病休などしている場合ではなかった。同期の界田はすでに部長へ昇格し、次期常務の呼び声も高かったから道岡は焦っていた・・という事情もある。
『寛ぐのは、やめよう…』
道岡は、ようやく熱が下がった体で出社する地下鉄の中で、深く心に誓うのだった。
焦るのは寛げないばかりか、いろいろと生活に影響するようです。^^
完