<26>心配ごと
心配ごとがあれば、とても寛ぎ気分にはなれない。当然と言えば当然の話である。^^
熊川鮭男は、心配ごとで悩んでいた。突然湧いて出たその心配ごとはとある日の朝から始まった。いつものように起きた熊川は、着替えると洗面台で顔を洗って軽く顎髭を剃った。そのあと顔をタオルで拭くと歯ブラシにチューブ歯磨き[粘性の湿潤剤]を付着させ、歯を磨き始めた。そのとき熊川は、ふと鏡に映った自分の頭を見てしまった。毛が無い…と一瞬、熊川はアタフタとした。だが、よ~く見れば、無くもない程度に毛は生えていた。熊川は一応、安心した。一応、安心した熊川は歯を磨き終えると口を漱いで歯ブラシを洗った。そしてもう一度、鏡に映った自分の顔を右に左にと首を動かしながらシゲシゲと見つめた。頭の方へ視線を辿れば、やはり残り少ない頭髪が目についた。熊川は櫛で残り少ない頭の毛を撫でつけ、整え始めた。そのとき、熊川の頭に浮かばなくてもいい心配ごとが、ふと浮かんだのである。
『全部抜けてしまう、なんてことはないよな。ははは…』
熊川の脳裏を丸禿になった自分の姿が一瞬、駆け巡った。熊川はその日以降、ベッドに入っても、風呂の湯舟に浸かっても、美味いものを食べても、寛げない日々が続いている。
寛ぎ気分を阻害するようなつまらない心配ごとは、突然起こりますから、皆さん、呉々もご油断なきように…。^^
完