<25>愚痴
趣味は人の気分を休め、寛ぎを与えるものの一つである。ただ、何があろうと趣味をやる場合、愚痴ってはいけない・・という条件が付く。その条件を守らないと寛ぎ気分は消え、ご破算になるから注意が必要だ。^^
小寺はようやく会社から許された数日の休日を日長一日、趣味に興じていた。小寺に寛ぎを与える趣味は百人一首の坊主捲りである。絵札百枚を妻と一枚一枚交互に捲るのである。姫の絵札が出ればもう一枚捲れ、坊主の絵札が出れば捲って貯めた絵札を相手に手渡すのである。坊主と姫以外の人物はその絵札のみを獲得できる・・というルールだった。ただ、小寺の相手をする妻にしてみればいい迷惑で、呼ばれれば、あ~あ、また…と愚痴の一つも出ようというものである。一方の小寺は勝っても負けても寛ぎ気分になれる時間だった。
その日も小寺は妻を呼んだ。ところが、その日の妻は連合婦人会の役員会があり、連合婦人会の会長をしている役員会には一時間しかなかった。開催場所の公民館までは10分弱の近距離だったが、妻としては着替えや化粧に30分は欲しいところだった。
「お~~いっ!! お前の番だぞぉ~~!」
『取っておいて下さらな~~いっ!』
「困ったやつだ…」
『聞こえてるわよぉ~~!』
小寺は愚痴っぽく小声で言ったが、生憎その声は化粧している妻の部屋へ届いていた。妻にすれば、困ったやつは小寺の方だった。仕方なく化粧ソコソコに妻は小寺がいる居間へ向かった。
中途半端に化粧した妻のオカメ顔を見た途端、小寺は思わず笑ってしまった。これがいけなかった。妻は機嫌を損ね、趣味の坊主捲りは中止されたのである。小寺の寛ぎ気分は、たちまち消え去った。
寛ぎ気分を維持するには愚痴らない方がいいようです。^^
完