<2>労働基準法
社会で働く人々には労働基準法という強い味方がある。働かせる側の人々を一定の時間制限を課せる法律で取り締まっているのである。それ以上、働かせてはダメですよっ! という訳だ。
この中年男、鴨山も日々の会社勤めに齷齪していた。思うのは寛ぎのひと時を短い日々の暮らしの中に如何に見出すか…ということだけであった。会社の業績を上げたことで部長の鰐淵に見込まれたまではよかったが、そのあとがいけなかった。何かにつけ、小難しい商談を纏めるお鉢が鴨山に回ってきたのである。これでは、とてもユッタリした寛ぎの時など持てるはずもなかった。そのことは、鴨山自身にも他の課員達にも口にこそ出さなかったが分かっていた。
「どうだね、坂下君。進み具合は…」
「はあ、まあ…」
部長室に呼ばれた鴨山は鰐淵に訊ねられたとき、そう返すのが関の山だった。このとき、鴨山の残業時間は優に労働基準法の制限を超えていた。だが見込まれていた鴨山には、少し休暇を…などと口が裂けても言えなかった。いつの間にか鴨山は、期待を裏切らない美味しい鍋料理の具にされていたのである。^^
「あの…トイレ行ってもいいでしょうか?」
「ああ、いいよ…? どうしたんだ、腹でも下したか?」
「はあ、まあ…」
鴨山には、私、労働基準法の枠を超えて働いてますっ! とは思っていても言えなかった。そのことが腹具合を悪くしていたのである。
働くのはいいですが、労働基準法の枠内で健康に留意して寛ぎましょう。^^
完