<13>慌(あわ)てる
慌てれば寛ぎ気分は失せる。なぜ慌てるか? は、個人個人の対応や、そのときの状況で違いがあるだろうが、その瞬間、困ることに変わりはないだろう。
の誰からも緻密で抜かりがない人物・・と囁かれている黒川は充分な下準備と先読みでその日もヒアリングに臨んでいた。折衝相手は財政課の白山である。
『前年度は予算残額を出したのがいけなかったな…。恐らく、不用額扱いで白山さんは減額査定するだろうな…』
黒川はそこまで考えたとき、こんなローテンションでは同額の調停は無理だぞ…と自らを戒め、考えないことにした。
『え~~いっ!! なろうと、ままよっ!』
とある意味、開き直ったのである。一方の白山は、減額する側である。手薬煉引いて黒川を待ち構えていた。コーヒーカップを片手に、『どう、減らしてやろうか…』と啜る寛ぎ気分で、である。ところが、黒川は白山の性格を知っていたから、前もって情報を入手し、白山の弱点を研究し尽くしていた。
『白山さんのことだからアア言やコウ言うだろう。そこでソウ言えば、慌てるだろう…。それ以上、減額するとは言えんはずだ…』
案の定、黒川の読みは的を得ていた。寛ぎ気分で予算折衝に臨んでいた白山は、黒川にソウ言われて慌て、白山はそれ以上、黒川を攻められなくなったのである。当然、黒川を甚振ろうと目論んでいた寛ぎ気分は失せ、前年度並みに調停せざるを得なくなったのである。逆に、前年度並みの調定額を勝ち取った黒川は、したり顔で寛ぎ気分に浸っていた。
慌てれば寛ぎ気分が消えることを知っている人は強いのです。^^
完