<12>シャワー
夕方、汗まみれになりながら仕事から帰宅した稲穂は怒っていた。
「このクソ暑いのにシャワーが使えんとは…」
懣やるかたない気分下着を脱ぐと、稲穂は稲穂は水道の蛇口を捻り、搾ったタオルで身体を拭き始めた。これではとても寛ぎ気分になれそうになかった。
コトの発端は、国のコンプライアンス強化に起因するのだが、下々で暮らす一市民の稲穂には、どうすることも出来ない。それは稲穂にも分かっているのだが、無性に腹は立つのだった。液化ガス取締法の強化でそれまで使えてきたガス湯沸かし器が換気不備で使用基準に適合しなくなり使えなくなったのである。器具が壊れた・・という訳でもなく使えないという点が稲穂にはどう考えても納得出来なかった。
「ったくっ!! 野党は、いったい何をしてんだっ!」
稲穂の憤懣は使えなくなったシャワーから国の政治へとエスカレートしていった。しばらくブツブツ愚痴を呟きながら、稲穂は身体を拭いた。そして、拭き終えて下着を変え、衣服を着けた稲穂の脳裏に、ふと、ある思いが浮かんだ。
「そうか…与党に変わる野党がこの国にはなかったんだ…」
多くの政策集団化した現在の国政では与党に取って代わることなど出来ないと稲穂には思えたのである。一党独裁の長期政権では、いくら素晴らしくよく出来た党でも腐敗する・・と稲穂はまた巡った。
『厚労省の人件を物件と同様に考える労働者派遣法もそうだが、血圧正常基準が高130→125、低80→75になったのも分からん…』
稲穂のボヤキはさらに飛躍していった。
いい法律は多数決で通過してもいいのでしょうが、稲穂さんが言うように悪い法律(改正を含む)が通過して成立するのは国民泣かせですよね。働いたあと国民は寛ぎたいのです。^^
完