《信じられない事実》
自分たちと妨害者の他には、誰もいないはずの迷宮の奥から聞こえてきた声。それは皆が知っている人物の声であった。
「あ、あれは州兵の隊長さんの声ですよ!間違いない」
ボクは一瞬、心が希望で満ち溢れたが、すぐに大きな矛盾に気が付いた。
それは完全におかしい。地上と地下1階部分は完全に崩落しているはずだ。それはポピッカが操る魔使具人形の調査ではっきりしている。いくら何でもこんなに早く救助が来るわけがない。
「これは、また妨害者の罠ではないですの?こんなに早く救助が来るわけがありませんわ。油断して近づいたところを”グサッ”とやるつもりなのでは?」
ポピッカがボクと同じ疑問を投げかけた。ゲルドーシュも臨戦態勢を崩さない。
「ザレドス、妨害者の刺客が州兵隊長を装っているって事はないのか?」
ボクは混乱した頭で細工師に問うた。
「それは……、それは大丈夫だと思います。何度もスキャンしましたが、あの声の主は紛れもなく”人間”ですし、偽装しているフシもありません」
ザレドスが興奮気味に話す。
「いや、だけどそりゃおかしいじゃねぇか。どうしてこんなに早く、ここへ来られるんだよ? 上はかなり崩れてるっていうのに」
ゲルドーシュもさすがに不自然である事に気がづいたようだ。
「そ、それは……、全く分かりません。もちろん私も皆と同じ意見ですが、少なくともデータ上では何も問題ありません」
ザレドスも狼狽しきりのようである。
「ただ……、ただ妨害者の策略と考えるには無理がある気もする」
ボクは呟くように考えを口にした。
「妨害者はボクたちが魔使具人形を飛ばした事を知っていると思う。つまり上で崩落が起きた事実を、ボクたちは知っているという前提で行動しているだろう。実際、彼の言動はそれを分かった上で発せられていたよね。
それだと今みんなが口にしたように、現在起こっている現象は、明らかな矛盾が生じる事になる。奴の今までのしたたかさを考えた場合、そんな見え透いた手を使うだろうか。
実際にボクを含め、全員が疑問を抱いているわけだしね。奴らしくないよ」
「じゃぁ、どうすんだよ?」
僕の説明は何の解決策にもならないとばかりに、ゲルドーシュが詰め寄って来る。
「……ここはザレドスの分析を信じよう。警戒態勢は解かないままで、応答をしてみる事にする。異存は?」
ボクの問いかけに、待ったをかける者はいなかった。
「じゃぁ、ザレドス。返事をしてみてくれ。メンバーの中では、あなたが最も隊長さんと接している。データには現れない不自然さがあれば、一番気づきやすいだろう」
ボクの提案に、皆、目で納得した後、ザレドスが運命の一声をあげる。
「ここです! 私たちはここにいます!」
迷いと希望の入り混じったその声は、ダンジョンの奥まで響き渡った。
「おぉ、その声はザレドスさんか。今そっちへ行く。多分、そっちでも不思議に思う所はあるだろうから、隊列を組んでゆっくりと近づくよ。慌てて攻撃をしないでくれ」
隊長らしき声はそう返すと、引き連れているであろう州兵たちに、整列するよう促す命令を出した。
そしてザレドスが探知したように、通路の奥からは二十人はいると思われる集団の足音が、刻一刻とこちらへと近づいてくる。




