《いざ、壁の向こう側へ》
ついに壁の向こう側へと探索の手が進む。果たして壁の向こう側には何があるのだろうか?
「それは簡単に予想がつきますね。今この広間には我々しかいませんが、その前は州付きのパーティーメンバーや役人など、それなりに人がいたはずです。そうそう、州兵の隊長さんの話では、他に開発業者や遺跡関連のNPOも出入りをしていたようですよ。
時を止める魔法でも使わない限り、そんな中で”絶対に不自然に見えない工作”をするのは不可能ですよ。たとえ犯人が内部の人間であったとしてもね。結果から言えば、止むを得ず中途半端になったというところでしょうな。
ただ、それほど精密な仕掛けをしなくても、一定以上の衝撃を与えただけで石の粉が降ってくれば、もうそれ以上の追及はしなくなるのが普通です。だから中途半端でも、十分に効果はあったわけですよ。
まぁ、インチキを仕掛けた方にしても、未来永劫バレないとは考えていないでしょうけどね。多分、何らかの目的で、一定期間有効ならそれで良かったんでしょう
本当に、人の心理を巧みに突いた合理的な奴ですよ、このインチキを仕掛けた者は」
ボクもザレドスの意見に賛成だ。この策謀を仕掛けたのは、一筋縄ではいかない奴である事は確かなようである。
「じゃぁ、まぁ話に納得がいったところで、第二の可能性について調べるって事だな」
ゲルドーシュが、身を乗り出す。
「えぇ、それをこれから解明いたしましょうか。でも、そのためには少し準備が必要です」
ザレドスが、ボクらを見回す。
「インチキの魔法を解除するのですね?」
ポピッカが、ニヤリと笑った。
「その通り!」
我が意を得たりとばかりに、ザレドスが僧侶に呼応する。
ボクたちはザレドスの指示に従い、総出でインチキ魔法の解除作業を行った。今度はゲルドーシュも、慣れない仕事に黙々といそしんでいる。依頼の残金がもらえるかどうかの瀬戸際だ。皆、必死である。
準備が整い、ザレドスが手元のスイッチを押す。鈍い電撃のような音が小さく響いたが、パッと見、何かが変わった様子はない。
「さぁ、これで偽りの現象は起こらなくなったはずです」
ザレドスが誇らしげに語る。
「で、これからどうするんだ、旦那」
「まずはゲルに、ひと働きしてもらう。魔法が解けたかどうかを確認するために、もう一度、壁にタックルしてくれないか」
ボクの依頼にゲルドーシュはヨッシャとばかり、壁から数メートル離れたところでスタンバイする。
「おおい、じゃぁ頼むよ」
ボクが合図をすると、肩に再び衝撃十倍魔法を施したゲルドーシュが渾身のタックルを壁にブチかました。しかし壁にぶつかった時の衝撃音はするものの、天井からは何も降ってこない。
「成功ですわね!」
ポピッカの嬉しそうな声が響いた。
さて、ここからが最後の詰めだ。これで全てが決するだろう。ボクはいささか緊張する。
「じゃぁ、今度はこの壁にメルトで穴をあけてみよう。インチキを仕掛けた者の意図をハッキリさせるために、ザレドスには敢えて壁に仕掛けられた魔法の全ては解除せずに一部を残してもらってるんだ」
「一部ってなんですの?」
思わせぶりな言葉に、ポピッカが反応する。
「それは見てのお楽しみという事で」
「まぁ、いじわるですのね」
ポピッカが、すねてみせる
「じゃぁ、始めるよ」
ボクは向こう側に空間があるとされる壁に向かって掌をかざし、メルトの呪文を詠唱する。ほどなく掌の先の壁石が溶け出しいくが、やはり鳴動などの異常は起こらない。
ボクはそのまま直径三十センチ程の穴を少しずつ奥へとくり抜き進めていった。
「もう、いいだろうか、ザレドス」
「そうですね。大丈夫です」
ザレドスが調査用魔使具を見ながら答える。
「で、どうなったんだ?」
ただ作業を見ているしかなかったゲルドーシュが、待ちくたびれたように尋ねた。
ボクは床に落ちていた石に、ザレドスから借りたヒモを結び付け、穴の奥に向かって思い切り投げ入れた。石が一番奥まで到達した音が聞こえる。ボクはヒモを慎重に引っ張り、たるみがなくなるように調整した。
「一体なにが始まるんですの」
ポピッカも興奮を抑えきれない様子だ。
ボクは壁際の穴から出ている部分のヒモに印をつけた後、それを全て手繰り寄せた。
「さぁて、ゲルにポピッカ。このヒモに印をつけた所から石が結び付けられている所までが、今ボクが空けた穴の深さって事になるよね。
どれくらいあるように見える?」
「う~ん、三メートルくらいかなぁ……」
「そうですわねぇ、それくらいでしょうか」
ボクが床においた石とヒモを眺めながら、二人が返事をする。
「あれ? でもそれはおかしいですわ! 確か事前に示された資料では、壁の厚さは1~1.2メートルくらいと書かれていたと思いますもの」
「ってぇ事は、ゼットツ州が俺たちに渡した資料が、間違っていたって事なのか?」
ポピッカの疑問に、ゲルドーシュがすぐさま答えを推察した。
「いえ、私が自分の魔使具で測定したところ、やっぱり資料通りの厚みが計測されています……ほらね」
ザレドスは調査用魔使具の測定結果を二人に見せる。
「旦那、ちゃんとヒモを伸ばしたのかい? ヒモが弛んでいたんで計測結果が長く出たんじゃ……」
「じゃぁ、今度はゲルが投げてみてくれよ」
ボクはヒモが結び付けられた石をゲルドーシュに渡す。今度は戦士がボクと同じ作業をし、念のため石が確実に一番奥まで達しているか、ヒモが弛んでいないかを射光機の光で確かめた。
あとは先ほどと同じように、ヒモに印をつける。だが結果は前と変わらない。
「うーん、確かに石は一番奥まで到達しているし、ヒモも弛んでいないですわね。そもそも石が穴の奥に見えるって事は、向こう側の空間に落ちていないわけですから、壁の厚さは三メートル以上はある事になりますわ」
「わけがわからねぇ。それによ、暗くて今一つはっきりしねぇが、なんか奥の方は石壁っていうよりも土っていうか岩っぽいぞ」
僧侶と戦士が首をひねる。
「じゃぁ、そろそろ種明かしをしてくれよ、ザレドス」
ボクは細工師を促した。
【余談】
ここら辺までに、推理小説によく見られる「推理→否定」を幾つか繰り返してきましたが、これは意図的なものではなく、今まで行き当たりばったりで書いてきた結果ゆえ生じた矛盾を解決する為に、不承不承行っているものです。(ヽ´ω`)




