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《調査開始》

ダンジョン最深部。先に行きたくても行けない壁の前に一同がうちそろう。本格的探査の幕が上がった。

あらためて周囲を見回してみる。


少し長い通路の突き当りが、今、ボクたちがいる広間である。ダンジョンの最深部という特別な意味合いを利用したイベント会場という印象だ。まぁ、宗教儀式か何かを行うにはもってこいの環境といえる。


ただ、比較的新しい時代のダンジョンであると分かっているので、本当に恐ろしい邪教集団の巣窟だったという事はないだろう。そんな連中は、もう疾うの昔に滅び去っている。むしろ、もしそうであったなら、行きつく事が出来ないという壁の向こう側に、恐ろしい秘密があっても不思議はないとは思うが。


「ザレドスは、水を得た魚のように生き生きとしていますわね」


ポピッカの言うとおり、魔法電信の装置が壊されている事に一時は落ち込んでいた細工師も、本来の任務を思い出し精力的に調査を始めている。わからない事を解明する悦び。それがザレドスの原動力なのだろう。


それに引きかえ、ゲルドーシュは何とも手持無沙汰といった面持ちだ。まぁ、戦う事が仕事の戦士であるわけだから、調査がメインの今となっては仕方あるまい。


「おおい、ゲル。あんまり気を抜かないでくれよ。いつ敵が襲って来るかわからないんだからさ」


「あぁ~、わかってるよ旦那~」


ボクが注意をしても、戦士からは何とも頼りない生返事が返って来るばかりである。


とは言っても広間に通じる通路は一本しかなく、そこさえ見張っていれば敵の急襲を受ける事はまずないだろう。そういう事もあって、実を言うとボクとポピッカもこれといっての仕事はなく、ただチョコマカと動き回るザレドスを目で追う時間に飽きが来ている状態であった。


「皆さん、ちょっと来てください。あらましは、ざっとわかりました」


退屈な時間という気だるい泡を突き破るかのように、丹念な調査を続けていた細工師の声が響く。


「どう、何かわかったかい?」


待ちに待ったとばかりに、ボクと僧侶と戦士はザレドスの返答に期待する。


「そうですね。まずは今の状況からお話します。


事前にゼットツ州や州兵の隊長さんから渡された資料と実際の様子を突き合わせてみたのですが、調査は過不足なく行われていたようです。手抜きなどがあったわけではないですね。


その上で奥に通路と思われるスペースがあるという場所、ちょうど今、私たちがいるこの場所の壁なんですが、調査用魔使具で調べたところ、やはり何らかの空間が壁の向こうにあるように思えます」


「ってぇ事は、今のところ手がかりゼロって事なのか」


倦怠みなぎる欝々とした霧の中から、やっと抜け出せると期待していたゲルドーシュは、あからさまに不満を表した。


「ちょっとゲル。慌ててはいけませんわ。州が総力を挙げて調べてもわからなかったんですのよ。すぐに謎が解けるわけないじゃありませんの」


「そりゃ、そうだけどよぉ……」


ポピッカの正論にも、やはり不満顔のゲルドーシュ。


ただ、ボクは先ほどザレドスが発した言葉に、少し違和感を覚えていた。


「ザレドス、さっき”何らかの空間が壁の向こうにあるように思えます”って言ったよね。それは、どういった意味なんだい?」


ボクの質問にポピッカとゲルドーシュは顔を見合わせ、ザレドスは我が意を得たりと満足げな顔をする。


「ちょっと、それはどういう事ですの?今回の依頼、壁の向こう側にあるスペースに行きつく事が出来ないので、どうにかしてくれというのが、主旨となるわけですわよね」


いたたまれずに、ポピッカが問いただす。


「う~ん、説明が難しいのですが……。まず先ほど言ったように、ゼットツ州の調査に何か手抜かりがあったとは思えません。実際に、ここに残されている測定器具を使って調べなおしてみたのですが、報告書と同じ結果になりました。


しかしですね……」


ザレドスの次の言葉を待つボクの心中は、期待と不安がない交ぜになっている。


「私が自分の魔使具で調べてみると、数値に微妙な差が現れるんですよ。単純に魔使具の精度などではなく、異質な何かが干渉しているような、ノイズとでもいいましょうかね」


「それは、州からもらった報告書には書いてありませんの?」


ポピッカは落ち着かない様子で、奇異な事を言い出す細工師に疑問を投げかける。


「えぇ、書いてありません。むしろ完璧なくらいの報告書です」


ザレドスが、少し難しい顔をする。


「あぁ、めんどくせぇ! だったら壁をぶち破ってみれば、それでいい話じゃねぇのか!? 」


一向に進まぬ話に業を煮やし、ゲルドーシュは小走りに壁から数メートル離れた場所へ下がり始めた。


「おい!ゲル!何を!」


ボクがそう言い終わる間もないうちに、ゲルドーシュは目の前の壁に猛突進していった。


【余談】

ホントに最深部の秘密は何にも考えないで書いてきたので、どういう真相にするか、それをどう暴かせるかにかなり苦労しました。

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