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《新たな魔使具屋》

ボンゼラン魔使具協会と袂を分かったスタン。早々に代わりの店を探すがなかなか見つからない。当てにしていなかった最後の店に入ったものの、そこは客を拒否するかのようなたたずまいであった。

さて、ボンゼラン魔使具商会と袂をわかった以上、新しい魔使具屋と契約をする必要がある。一般人が使う魔使具とは違い、魔法使い用ともなれば、それぞれに合わせた調整が必要となるからだ。


一般的に考えれば、新しい店と契約をしてから、前の店と縁を切るのが普通なのだろうが、魔法使いと魔使具屋の微妙な関係から、縁切り前提とはいえ、一時期に二か所の店と係わりを持つのは忌避される慣習がある。


ボンゼラン商会が如何に悪質であったとはいえ、こちらがその不文律を破れば後々面倒な事になる可能性もあるので、慣習は守れねばならない。もっとも、情報だけは集めておいて、縁を切るのと同時に新しい店と契約する事は問題ないとされている。


という事で、今日は予め目をつけておいた幾つかの魔使具屋を廻った。都合5軒。


しかし店選びは慎重にしなければなるまい。また酷い店に当たってはたまらないからだ。ただ、今回の店選びには一つのやり方がある。


何処の業界でも横の繋がりというのはあるもので、同業者の店を全く無視するというわけには行かない。そこでボンゼラン魔使具商会と喧嘩別れに近い決裂をした事をそれとなく臭わすのだ。それを聞いた店側がどんな反応を見せるのかは、今後付き合っていく上でかなり重要な基準となる。


案の定、一軒目と二軒目の魔使具屋は、笑顔を見せるものの”やっかいな事になったら困るなぁ”という体を見せた。三軒目は良く聞いて見ると、ボクの需要とは少し違う品揃えである事が分かった。更に四軒目では露骨に嫌な顔をされたので、そこもダメ。


いや、参った。


ここまで店選びに難航するとは予想していなかった。廻る予定の店は五軒だが、最後の店は”ついで”といった位置づけで考えていたので、余り当てにはしていなかった。


しかしこうなったからには、行かぬわけにはいくまい。そこが駄目だったら、今ある魔使具で暫く凌がなくてはならない。簡単なメンテナンスは問題ないが、修理や定期的な調整は職人でなくては難しいので困った事になる。


裏通りの、いかにもといった寂れた場所にその魔使具屋はあり、看板もゾンザイにかかっている印象だ。商売する気があるのかどうかも怪しいものである。


しかしここまで来て引き返すわけにも行かないので、ダメもとでドアを開ける。店の中は棚が幾つかあるものの、商品が整理されているようには見えず、良い印象はしない。しかし魔使具を手に取ってみて、その印象は一変した。


魔法使いとして魔使具を扱ってきた者ならば、ある程度はその出来について見識が深まるものだ。この魔使具は飾り気こそないものの、質実剛健といった面持ちで、明らかに玄人を意識して作られたものとわかる。一般人には、この魔使具の真の性能を引き出す事は出来ないだろう。もしかして、これは当たりの店なのではないだろうか。


「あ、いらっしゃい。どんなものをお探しですか」


奥から若い娘が出てきて接客を始めた。


いっちょう試して見るかと思い、かなり専門的な質問をしてみる。娘は自分ではわからないので、職人に聞いて来ると言って店の奥に消えた。ほどなく五十がらみの、如何にも頑固職人といったオーラを発するオヤジが現れる。


そのオヤジの不愛想極まりない説明を聞いて、ボクは可笑しくなってしまった。こんな説明の仕方をすれば、大抵の客は帰ってしまうだろう。商売をする気があるのだろうか。しかし説明そのものは、非常に的確で無駄がない。


このオヤジは本物だ。ボクはそう確信した。


しかしそれだけで、店を決めるわけには行かない。そこで他の店と同様に、ボンゼラン商会の話をほのめかしたところ、オヤジの反応は「だから?」の一言であった。それは決して演技ではなく、本当に興味がないといった顔つきである。


これを見逃す手はない。しかし慎重をきすために、魔使具の簡易調整を申し出た。魔法使いの使う魔使具は使用者の性質に合わせるために微妙な調整が必要だ。簡易調整は、その腕を見極めるのにちょうど良い判断材料になるのである。


しかしオヤジの返答は、意外なものだった。


「俺は簡易調整はやらん。若いもんが担当だが、今は仕入れに出かけている。明日なら出来るが、どうするね?」


口ぶりからすると、このオヤジが店主兼職人といったところだろう。しかし一般的に考えれば非常に横柄な態度と言える。これでは客を逃がす可能性だって大いにあるだろう。だが、こちらを試しているという風でもない。


「お父さん! 別にいいじゃない。お父さんだって出来るでしょ?」


なるほど、この娘は頑固オヤジと父娘であったか。まるで陳腐な小説に出てくる設定みたいだが、妙に納得がいった。


「いや、かまいませんよ。今日はもう遅いし、明日また来ますのでよろしく」


スイマセン、スイマセンと何度も頭を下げる娘に軽く会釈をし、ボクは店を後にした。家路についたボクは、ニタニタとしている自分に気づく。別に娘の可愛らしさにニヤついているのではない。


「面白い、これは面白い」


こんなにワクワクするのは何年、いや十数年振りか。今考えれば、棚に雑多と置かれている商品も”見る目のある客しか相手にしない”という意思表示にも感じられる。


昨今の魔使具屋は客にあった商品を売るというよりも、自分が売りたい商品を勧める傾向が強い。だから客の購買意欲を掻き立てるような陳列の仕方をするのが定石となっている。しかるにあの店は、それに逆行するようなやり方だ。


今日は多少寝酒を増やさねば、気持ち高ぶって寝られまい。家に着いたボクは、早速、前祝にも似た祝杯を一人で挙げた。


【余談】


頑固職人と器量よしの娘、簡易調整の話。全部その場で考えました。

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