《ダンジョン最深部へ》
遂にダンジョン最深部へと踏み入るパーティー。そこにはどんな敵が潜んでいるのだろうか。
「それにもう一つ腑に落ちない点があります。もし妨害者が我々を邪魔したいのであれば、上の階を崩落させるのではなく、下の階を壊した方が良かったのではないでしょうかね。
そうすれば我々は最深部へ物理的に到達できないでしょうから、妨害者からすればむしろ都合が良いのでは……」
ザレドスが、思いもよらない可能性を示してきた。
なるほど、言われてみればその通りだ。なんで今まで思いつかなかったのだろうか。ボクは自分の迂闊さに嫌気がさす。
「そうですわね……。これはもちろん可能性の一つに過ぎないのですが…」
珍しく僧侶が謎の解明に口を出してきた。
「一般的に考えれば、ダンジョンの上と下を比べた場合、何もなければ上の方が安定していると思いますの。下の階は上の階を支えているわけですしね。
もし最下階に近いところで爆発を起こしてしまったら、連鎖反応でその上の階、更にまたその上の階とドンドン崩落が起こってしまい、ダンジョンそのものが埋まってしまう危険性がありますわ。
実際、妨害者は地下1階を崩落させたわけですが、恐らくはその上の地上階まで被害が及んでしまっている可能性が高いわけですから。
これだと最下層に近いところで崩落を起こしてしまったら、妨害者自身が生き埋めになるかも知れませんわよね。それを避けるためではありませんの?
ただわからないのは、時限式の魔法や魔使具を使いさえすれば、自分が外へ出た後で安全に起動できるって事ですわ。なぜそうはしなかったのか…」
ふむふむ。確かに道理である。しかしボクは何か違う気がした。
「ポピッカの言う事は筋が通っていると思う。だけどボクには何か引っかかるものがあるんだ。突拍子もない思いつきだし、明確な根拠も示せないけど、こういう可能性はないだろうか」
ボクの発言に皆が注目する。
「そもそも妨害者は、ボクたちがダンジョンへ入る前から密かに侵入していたと思われる。だからダンジョンを潰してでも最深部を調べられたくないのなら、ポピッカの言う通り時限機能のある魔法や魔使具を迷宮内に設置して、まだ警備が手薄な何日か前に脱出する事も出来たろう。
しかし、それをしなかった。
つまり妨害者はボクたちに最深部へ行って欲しくはないけれど、ダンジョン自体を潰す事は避けたいと考えているんじゃないかな」
「それは何故?」
ザレドスが鋭く切り返す。
「それはわからない。でも、こういうだろ? ”可能性がないものを消去していって、その結果、最後に残ったものは、それがどんなに突拍子もない事であっても真実だ”って」
「あ、何か聞いた事あるぜ、それ。たしかシャーとかホーとか…っていう、有名な吟遊詩人の詩に出てくるセリフだよな」
「シャーロゼム・ホメイロスですわ」
吟遊詩人などとは縁がなさそうな戦士の言葉に、ポピッカを含め皆がちょっと驚いた。
「なんだよ、その目は。俺だって吟遊詩人の詩くらい聞くぜ。まぁ、テュラフィーに勧められてからの話だがな」
なるほど、ザレドスの婚約者は、この厳つい戦士を着々と教育しているようだ。
「まぁ、それも最深部へ行ってみれば、はっきりするかも知れませんわね」
「えぇ、その通り」
僧侶と細工師の、息の合ったコンビネーションである。
地下8階へと向かう道すがら、その道程と近くにある未踏破部分の調査を終え、ボクたちはついに最下階へ通じる階段に到達した。
「さて、みんな。準備はいいかい?」
ボクは皆に確認をする。
「はい、準備万端です」
「おぉ、いつでも来いや」
「えぇ、問題ないですわ」
一蓮托生となった心強い仲間の言葉を追い風にして、ボクたちは最深部へと足を踏み入れた。
地下8階の入り口に立ち、辺りを見回す。予め確認しておいた見取り図と寸分変わらない。当たり前の話なのだが、少し安心した、というよりも拍子抜けをした感がある。
この最下階へ立ち入った瞬間、凄まじい数の敵が襲い掛かって来るやもしれぬと、僅かながらにも心配をしていたからだ。
しかし油断はならない。妨害者は今も確実にボクたちの行動を把握しているだろうし、そう簡単に最深部へは近づけさせまい。
一行は見取り図に従って目的地へと歩を進め、ほどなくこの階の安全地帯へと到った。ここで軽く昼食を取り、いよいよ最奥部へと進行する段取りである。
小一時間ほどで探索を開始する事になったが、ボクはザレドスと共に安全地帯に”とある処置”を行った。杞憂だと思われるかも知れないが、やはり心の奥底にある懸念を払しょくする事が出来ない。
どこで妨害者が聞いているかわからないので、仕掛けはボクとザレドスの二人だけで行った。申し訳ないが、ゲルドーシュとポピッカは蚊帳の外である。ポピッカは少しいぶかったものの、ゲルドーシュは気にも留めていない様子だ。
”敵を騙すためにはまず味方から”ではないが、秘密を守るためにはしょうがない。
人が聞けばマジックエッセンスと魔使具の無駄遣いと言われるだろう。だが心配性のボクとしては、是非とも行わなければならない仕掛けであった。
探索再開後、しばらく進んだところでザレドスの足を止める。
「ここから5メートル先、何かがあるようです。僅かですが魔力の歪みがあります」
しかし言われた場所を見てみるも、特に変わった様子はない。細工師が注意喚起しなければそのまま進んでいるところだ。
「ちょっと待って下さいね」
ザレドスは、バッグの中をまさぐり始める。そして直径3センチほどの球体を幾つか取り出した。
「ほう、そりゃ何だい」
「我々の身代わりですよ」
中衛から前衛の横に進み出た細工師は、珍しがる戦士を見てニヤリと笑った。
【余談】
妨害者の意図が話し合われますが、このあたり、作者的には辻褄合わせに必死になっています。




