《方針会議》
今後の方針を話し合う面々。安全地帯に留まるべきか、探索を続けるべきか。スタンはポピッカの思いが気になっている。彼女は何故、この依頼を受けたのか……。
仕切り直しのお茶を飲み終えたところで、いよいよこれからの方針を話し合う段取りとなった。
「さて、じゃあ今後どうするかを話し合いましょう。まずは、大きな道筋から決めたいですね。私が考えるに、とりあえず二通りあると思います。救助が来るまで、各階にある安全地帯を利用して大人しく待つか、予定通りこのまま探索を続けるか……」
ボクは皆に提案を促す。
「難しいところですな。ポピッカさんの透視で分かった崩落状態と安全地帯の食料を含む生活物資の事を考えれば、救助までの日数は十二分に生活できると思います。
無駄に体力を使う事もないので、仮に敵が襲ってきても撃退できる可能性は高い。単に生き延びる事だけを考えるのならば、これが一番です。
しかしその場合、もちろん依頼の残金は諦めなくてはなりません」
まずは、ザレドスが口火を切った。
「確かに物理的に考えれば、その通りですわ。しかし救出されるまでには、恐らく何週間もかかるでしょう。その間、せまい安全地帯でただじっと待つという事が、私たちに出来るでしょうか。
”妨害者”の意図が分からず、残金も支払われない。そんなネガティブな要素しかない状況では、精神的に追い詰められていく可能性が高いと思いますの」
「では、ポピッカさんは探索を続けた方が良いという事ですか」
ボクは僧侶の見解を確認する。
「様子を見ながらという事ではありますが、そういう事です」
ポピッカの言い分を聞きながら、ボクは迷っていた。今までの様子から、彼女は明らかに残金を必要としている。その事が、まるで足の裏に刺さった小さなトゲのように気にかかった。
「まず、こういった状況で長い時間救助を待つという事、これはポピッカさんが言う通り、かなりの危険性をはらんでいます。実をいうと、私はかつて同じような経験をしているんですよ。ダンジョンではないのですが、敵の罠にはまって洞窟にパーティーごと閉じ込められてしまったんです」
「へぇ~!初耳だぜ」
ゲルドーシュが茶々を入れる。
「キミが生まれる前の話だからね。で、その時も長時間穴ぐらに押し込められた結果、明かりや食料は問題なかったんだけど、結構まずい……はっきり言えば殺し合い寸前まで行ってしまったんだよ」
「まぁ!」
ポピッカが調子っぱずれの声をあげた。
「その時は、メンバーの性格や場の状況も今とはかなり違いました。でも精神的ダメージというのは、知らない内に蓄積するばかりでなく、回復させるのが非常に難しい事をそのとき思い知らされたんです」
「で、旦那はどうやって助かったんだい?殺し合いの中でさ」
ゲルドーシュの奴、妙に食いついてくるなぁ……。
「その時の話はあとでな。ボクが言いたいのは、精神的ダメージを甘く見ちゃいけないって事だよ。
だからボクもポピッカさんの意見に魅かれるんだけど、ポピッカさんに是非聞きたい事があるんです。普通だったら聞く筋合いのない事ですから、こんな状況にならなければお尋ねはしません。でも後々の事を考えると、やはり聞いておかなければなりません。
無礼は重々承知の上です。それは……」
「私が依頼の残金を、どうしても欲しがっているという事の理由ですわね……」
ボクが聞こうとしていた命題を、彼女はあっさりと暴露した。
「ポピッカ、おめぇ、金目当てだったのか」
驚いた様子のゲルドーシュが、目をぱちくりさせている。
「……えぇ、そうですわ。まぁ、あなたの言い方は物凄く人聞きが悪いですけどね」
ポピッカが戦士をじろりと睨む。
「いや、神父っていうのは教会とかでいつもふんぞり返っているし、お付きの者も結構いるだろ? てっきり儲かる商売だと思っていたんだがな」
「もう、本当に下品ですわね。そもそも神父は商売でやるものではありませんの!神父というのは……」
ポピッカが抗弁しようとしたので、ボクは慌てて彼女を止めた。
「はい、そこまで! ゲルドーシュも余計な事を言わないの!」
「あ、すいません。つい……。リンシードさんは、私が残金欲しさに、最深部行きを無理矢理主張しているのかどうかを心配なさっているのですよね」
彼女の洞察力に、ボクはドキリとする。
もしそうであるならば、個人の事情を優先するために他のメンバーを危険にさらす事になるわけだから、それは絶対に確認しなければいけない。でもボクにはポピッカがそういう人物だとは、どうしても思えないのである。
「いえ、そうではありません。あなたはそんな自分勝手な事をする人ではないと確信しています。ただ探索を続ける場合、危険が迫った時の引き際の目安にしたいんですよ。どれだけ強い思いなのかによって、それは変わって来ますからね」
「わかりました。お話しますわ。実は……」
「ちょっと待って。その前に……」
ポピッカが話し始めようとするのをボクは止める。
「ザレドスさん、ゲルドーシュ。ボクが二人から聞いた話。もちろん心にしまっておくつもりだったけれど、こうなってしまったからには、話しても良いだろうか。ポピッカさんだけに喋らすのはフェアじゃない」
ボクは細工師と戦士に”秘密の暴露”の許可を求めた。
「そうですね。もっとも私の話は隠すような事でもないですし。全く構いません」
ザレドスが快諾する。
「ちょっと! アレ話すのかい!? なんか、こっぱずかしぃなぁ…。
だが正々堂々、正面勝負が俺の心情だ。フェアじゃないと言われちゃぁ、応じないわけには行かないよな!よっしゃ、受けて立つぜ」
ゲルドーシュの決意は何か微妙にずれているような気もするけれど、この際、細かい事は考えないようにする。
【余談】
この段になっても、何故ポピッカがお金を必要としているのか、全く考えていませんでした……。




