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《二日目の朝》

何やら意味深な夢を見るスタン。一方、ゲルドーシュが女性の名まえをポロリと漏らす。

ボクは橋のとば口に立っている。遠くから見た時は脆弱に見えたけど、近くに寄ってみると大変立派な橋になっていた。ボクは安心して橋を渡りはじめる。


”そう? 本当にそう?”


何処かで誰かがささやく。


え? 本当にって? いったい何の事さ……。


ガクン!


その時、突然足が沈み込んでいく。


”おい、何だこりゃ。沈んでいく、落ちていく! 誰か、誰か助けてくれぇ!!”


ボクは音もなく下の川に落ち、もがく事さえ叶わずドンドンその深淵に飲み込まれて行った。だが不思議と苦しくはないし恐れもない。こんなものかな、という漠然とした気分である。


深みの底に一筋の光が見え始め、それが少しずつ大きくなっていく。気が付くと、そこは昨晩宿泊したダンジョンの安全地帯だった。


夢か……。


なんか意味深な感じもしたけれど、朝の身支度を整えている内に、夢を見たという記憶さえ朧気になってくる。


「さ、早く召し上がって下さいまし。グズグズしていると片付きませんわ」


朝食を用意を一人でしていたポピッカが、まるで寮母のように皆を促す。


「すいません、一人で用意をさせてしまって……」


ボクが謝る。リーダーだからって一番に起床しなければならないワケじゃないけれど、やはり何かバツが悪い。


「お気になさらないで、いつもの事ですから」


ポピッカが平然とこたえる。そして、すぐにハッと気が付いたような顔をして、気まずそうにきびすを返した。


やはり”いつも”こういう事をしているんだ……。当たり前の事だが、フォラシム教における司祭格の彼女が、いつも朝食の準備をする事など通常はあり得ない。彼女も不審を抱かせる内容を口走った事に気付き、先ほどの様な態度になったのだろう。


恐らくザレドスも、この不自然さには気づいている。だが、そんな事はおくびにも出してはいない。ゲルドーシュは……、そもそもフォラシム教自体に興味があるまい。ここはボクも黙っている方が賢明だ。彼女の事情を知ったところで、探索にプラスに働くとは思えない。


食卓代わりの簡易テーブルにつくと、そこには夕べのメニューとは打って変わって、シンプルながら消化の良さと栄養に重きをおいた料理が並んでいた。


「それでは、いただきましょうか」


すっかりベースキャンプの寮母となったポピッカが、朝食のスタートを宣言する。


今日からはダンジョンの中層部へと入る事になる。今までのようには上手く行かないかも知れない。そんな思いが皆にあるからか、昨晩とは違い静かな食事となった。もっともゲルドーシュは朝が弱く、まだ目が覚めていないという事もあるのだろうが。


食事が終わり、今日はボクとザレドスが後片付けをする事になった。手伝いの申し出をたびたび断るのもどうかと思ったので、今回は有り難くお願いする。


「いや~、やっぱり朝おきるとテーブルに朝飯が並んでるってぇのは、いいもんだねぇ。テュラフィーもこうやって……」


女性の名が出たところで、ゲルドーシュが慌てて口に手を当てる。テュラフィーというのは、おそらく彼が孕ませた女の名前だろう。


「へぇ~、あなたにも朝食を作って下さるような女性がおいでになるって事なんですの? 世の中には変わった趣味の方もいるものですわね。もっとも、女が朝食を作るって決めつけているのも、どうかとは思いますけれど」


まぁ、意外、と言わんばかりの口調でからかうポピッカ。


「えっ? えっと、そりゃ、まぁ、どうでもいいだろうがよ、そんな事。…っていうか、そもそも女のお前が、いま朝飯を作ってるじゃねぇか」


つい知られたくない事を、ポロっと漏らしてしまったゲルドーシュはバツが悪そうだ。


「女も男も分け隔てなく作らなきゃダメって事ですわ!」


ゲルドーシュの弱点を見つけたとばかりに、ポピッカが攻勢をかける。


「はーい、ケンカはやめ! 朝ごはんの消化が悪くなるよ!」


ボクは根拠のない理由をつけて、二人の言い争いを止める。覚悟していた事とはいえ、この二人にはホント世話が焼けるよなぁ。


次に使う人の事を考えて、結界で守られた安全地帯内の片づけをし、二日目の探索準備も万端となる。


「じゃ、そろそろ行きますか」


昨日のように気負う事もなく、ボクはおだやかに号令をかけた。ザレドスが昨夜に続いて結界に出入り用のゲートを作り、記念すべき一夜の宿を後にする。


二日目の探索も昨日と大して変わらないものとなった。最初の頃はこれだけ容易に事が進むのは、むしろ罠ではないかとの思いが皆の胸中にあったものの、それは取り越し苦労に過ぎなかったと信じ始めるようになっていた。ゲルドーシュはもちろんの事、ザレドスもポピッカも、そしてこのボクでさえも。


地下3階に続き、地下4階も制覇。安全地帯は地上階以外の全ての階に設けられているので、そこで昼食となった。


小一時間の内に、簡単ではあるが、ボリュームに加えて栄養バランス万全の食事をとる。もちろんポピッカの采配だ。またポピッカと僕は殆ど魔法を使っていないが、ザレドスは探査用魔使具を酷使している関係上、ここに設置されているタンクからマジックエッセンスを補充する。


「しかし、ちょっと当てが外れちまったなぁ。敵が出ないのはつまらねぇ……。いや、それはいいとして、となると連中から奪い取るはずだった戦利品が手に入らねぇ。半分は俺たちが貰える契約だったろう? 売ればそれなりになると踏んでいたんだが、それはもう期待できねぇなぁ」


ゲルドーシュが口惜しそうに嘆く。


「そうなると、ますます最深部の謎を解いて、残金を受け取らなければなりませんね」


ザレドスも同感のようだ。


ポピッカは何も言わないが、その顔には暗い影がさしているようにも見える。やはり、少しでも多くの報酬を必要としているようだ。


昼休憩も終わり、地上へ連絡するための使い魔を放ったあと、ボクたちは地下4階を後にした。


地下5階の探索もこれまでと同様、遺漏なく進んでいく。ただ、遠くの方で響く獣の鳴き声はかなり多くなってきたように感じる。また時々、魔物が話しでもしているかのような声も聞こえてくる。まるでボクたちの行動を陰から見張っていて、それを伝え合っているようにも思えてしまう。


「へっ、いつでも来やがれってんだ」


ゲルドーシュが、武者震いをする。


しかし彼の餌食になる敵対者が現れる事はなかった。


【余談】

実はこの段階でも最深部の謎は殆ど考えておらす、時間稼ぎの意味もあって安全地帯での描写が長くなっています。

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