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フェンリルに転生した俺、人間に復讐を決意します  作者: アイスマシーン
歪みの生誕
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78.いつの日かと見ているこの『夢』は

「騎士団長イシュメル・グルーバーは戦死しました」

「……は?」

少年はそれを聞いた途端頭が真っ白になった。

「誰に?どこで?昨日の今日でありえない……」

「それは知らされておりません」

呼吸が荒くなる。



「うそだ……噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ噓だ!」

少年は絶望する。

「ああ、そうか……」

「僕はもう……一人だ」

そして勇者の涙は止まることを知らない。





パルパの首都にて王室で二人の王が会話をしている。

「これで国家条約は締結された」

女王はそう、宣言した。

「以下パルパが武力的に国家が脅かされた時。勇者を動かし、武力行使を行う」

「本当に良いのか?このような条約の対価が我が軍の兵士一人で」

「ああ、ロジャー・ファブレ。この兵士一人で問題ない」

「そ、そうか……おい!さっさとロジャーとか言う兵士を連れてこい!」

パルパの王はそう怒鳴りつける。

「りょ、了解しました」



暫くして、パルパの兵士が一人の少年を連れて来る。

「よろしく、ロジャー・ファブレ」

歳は勇者と同じくらいであろうか、と女王は少年を観察する。

少年は女王に視線を向け言葉を発する。

「あんた、何を知って」

「おっと、その話はまた後でだ」

女王は少年の言葉を遮り言う。



「はぁ、別にいいけど。あんたたちの国へ行くのに一つ条件がある、俺の親父も連れてけ」

「構わないさ、一週間後迎えが来る。その時までに用意しておけ、それと敬語もな」

「考えとく」

「ああ、また会おう」

そして少年は王室から出て行った。

「パルパの王よ、私はこれで」

「あ、ああ」





そして一週間が経ち、玉座の間にて。

二人の兵士が跪いている。

「お初にお目にかかります女王陛下、ロジャーの父親。ルイーズです」

「ああ、よろしく」

女王は軽く返事をする。

「それでなぜ、我が息子を?」

ルイーズは女王に疑問をぶつける。



「知っているはずだろう、わざわざ問いかける必要もあるまい」

「ロジャー、見せてみろお前の力を」

「女王陛下、あんたやっぱり知ってたんだな」

そう言ってロジャーが女王を見上げた時、ルイーズに頭を叩かれる。

「お前な相手は国の頭だぞ。敬語を忘れるなよ」

「嫌だ、俺はどうも好きになれないあんたも……勇者も」



「……すんませんねえ。息子がこんなんで」

ルイーズは呆れてそう言うと女王がロジャーに言う。

「今は機嫌がいい。今だけは許そう」

「ありがたいねえ」

「ふん……」

ロジャーは立ち上がりそう言うと女王の方へと歩いて行く。



「あんたは俺の力を何処まで知ってる」

「そうだな……魔術の能力は分かる、ただその魔術の名と。どうしてその力を行使しないのか……それを知りたい」

「名なんて知って何になるかは知らねけど、魔術の名は【粗末な夢】(チープドリーム)

「そうか……なら何故使わない?」

「……国の勝利だとか、人類の繁栄だとか。綺麗事言って人を死なせてるあんたらに興味が無い」



「そうか……」

女王は玉座から立ち上がり、ロジャーの方を向く。

「私の望みをかなえるのに協力しろ。これは頼みではない命令だ……」

「あんたの望みって言うのは?」



「人間の永遠の栄華だ」

「それは俺に勇者と同じことをやれと言う事か……エルフと獣人の殲滅を?」

「そうだ」

二人は互いに睨み合う。

暫くしてからロジャーは口を開く。

「断る」

その一言だけ言ったロジャーは玉座の間から去っていく。

「あらら、ほんと申し訳ないねえ」



「……ほんとだぞ、子供の教育はどうなっている」

あからさまに不機嫌そうな顔で女王は言う。

「これでも頑張ったんですよ。じゃあ、まあ行きますかね」

ルイーズは苦笑い気味にそう返すと玉座の間を後にしようとする。

「待て……ロジャーに伝えろ。気が変わったら来いと」

「女王陛下も必死なこって……ま、承知いたしましたよ」

そう言い残しルイーズは玉座の間を後する。



「良いのですか、あのような無礼者に何の処罰も無くて?」

近衛兵が女王に言う。

「いいさ、もしあれ罰するとなれば勇者を動かさなければならなくなる」

「それは……」

「それに……ロジャーはきっと来るさ、必ずな」

女王はそう言って玉座にてニヤリと笑った。





ロジャーは与えられた自分の新しい住居へと足を進めている。

ただそれを見た瞬間、足を止めた。見ただけで分かった……その男が勇者だと。

ロジャーは自分に絶対的と言えるほどの自信があった、それは勇者にも劣らないと。

勝手にそう思っていた、だが実物を見れば圧倒言う間に覆った。



ロジャーはしばらくの間、足を止めたまま動けずにいた。自分が絶対的だと思っていた自信が、その瞬間に崩れ去るのを感じた。

目の前の男、勇者はただ立っているだけで圧倒的な存在感を放っていた。



しかし、それと同時にロジャーは勇者の瞳の奥にある底知れぬ悲しみと、何一つ希望の見いだせない絶望を感じ取った。

ロジャーは勇者の方へと歩いて行く。



「何があったんだ?」

「……ごめんけど誰かな?覚えて無くて」

「俺はロジャー・ファブレ……お前が勇者か?」

「……うんそうだけど知らないんだ」



「ああ知らない、だから教えてくれ。お前の絶望を俺に聞かせてくれ」

ロジャーのその言葉にきょとんとする勇者。

「はは……可笑しな人だな。でもきっと聞いてられないよ」

そう言って勇者はロジャーの横を過ぎ去っていく。



ロジャーはそれを黙って見ていることしか出来なかった。

そして勇者が見えなくなったころにルイーズがロジャーを後ろから呼ぶ。

「おーい、いたいたやっと見つけたぜロジャー」

「……」

「どうした」



「戻る……」

「戻るって何処に?」

「女王の所にだ」

「……ってはぁ?お前何があった?」

「少し心変わりした」

ロジャーはルイーズを急かして、女王のいる王室へと向かう。


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