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フェンリルに転生した俺、人間に復讐を決意します  作者: アイスマシーン
歪みの生誕
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75.淡い惨状

日がでて間もないころから街には活気が溢れていた。

どこもかしこもが「勝利」の話で持ち切りだ。

「これからは平和だ!」「ああ、勇者様のお陰だな」

そんな声が至る所から聞こえてくる。

「……」

少年はそんな街の様子を見て、少し口角が上がっていた。

そんな時、少年を呼びかける声が聞こえた。

「おい!あれ勇者様じゃないか?おーい」

その声に少年は驚き、声のする方を向いた。

すると次々にこちらを振り向き、少年に声をかける。

「本当だ!あの顔、女王様に見せてもらった魔法の映像の勇者様とそっくりだ!」

「……映像?」

少年は静かにそう聞き返す。

「ああ、昨日女王様が魔法を使って勇者様の雄姿を見せてもらったよ!凄かったなあ!」



「そうだよ!30万のエルフに億しもせず、一瞬で壊滅させるなんて!」

「しかもあれって勇者様一人の魔法なんだろ?すげえなあ、かっこいいなぁ!」

次々と来る歓声に少年はたじろぐ。

「そうだ!勇者様、握手してください!」

一人がそう言うと周りからも同じ声が飛ぶ。

少年は一瞬躊躇したがその握手に応じた。



(暖かい手だな……)

少年の頭にはそんな感想が浮かんだ。

「頑張って平和を守って下さい!勇者様!」

少年はその声を背に、その場から立ち去る。

(どうしてだろう……こんなに暖かいのに)

少年の心には何故か影が差していた。



「勇者よ、街の様子はどうだ?」

女王が少年に話しかける。少年は静かに答えた。

「平和です……」

「……そうか」

少年の返答に少し間を開けながら女王はそう言った。

「覚悟は決まったか?」

女王は少年に問う。少年はその問いに少し間を開けて答えた。

「覚悟……ですか」

少年の目には曇りが見える。その曇りを振り払うように、女王は言う。

「そうだ。罪の無い、街で暮らしていたような平和を謳歌する人を、殺す覚悟だ」



「……やらないという選択肢は無いんでしょう」

少年のその言葉に女王は首を縦に振る。

「ああ、その通りだ」

そう言うと、雰囲気を変え女王は言った。

「戦う覚悟はあるか?勇者よ」

少年は静かに、しかし確かに答えた。

「……あります」

少年の目は前を向いている。だがその手は微かに震えていた。





「本当に宜しいんですね?」

近衛兵は女王に聞く。

「言葉は曲げん」

「失礼しました。しかし……」

近衛兵は何か言おうとしたが。女王はそれを見て言う。

「くどいぞ」

「……分かりました」

そう言うと、近衛兵も下がる。そこに少年がやってきた。

「準備出来ました……戦います」

少年は少し震えた声でそう言う。

「そうか、なら行け勇者よ。そして殺せ、罪なき人を」

少年は苦悶の表情を浮かべながら、拳を握り転移した。



「……さて、やるか」

王女がそう言うと、水晶魔法を発動する。

繋ぐのは勿論、エルフの王だ。

通信が繋がると同時、エルフの王は怒りの籠った声を発する。

「ようやくか、待ちわびたぞ女王」

「すまないな、遅くなったよ。お前達の降伏宣言についてだ」

王女が嘲笑うようにそう言う。



「お前達の降伏宣言は……却下する。戦争は続く、殲滅戦だ!」

「!?」

その言葉を聞いた瞬間、エルフの王の顔はみるみる青くなった。

「ッ……外道め、貴様らに人の心は無いのか」

「ああ、捨てたさ。そんな物」



「それよりいいのか、お前が今いる上空には……勇者が居るぞ」

そう女王が言い終わると同時に、轟音と共に城の一部が砕け散った。

「おま……えは……」

エルフの王は驚愕と絶望が入り混じった顔で、女王を睨みながら言う。

「ああ、やはり。平和など……無いのだな」

そう言うと、魔法は途切れた。




魔法の剣の重さなんて感じないはずなのに、この腕は重い。

そんな腕を振り上げる。

【淡い惨状】(イペタム)

一筋の剣撃が飛ぶ。その斬撃は、エルフの国に向かって放たれた。

エルフの国は繁栄と美しさを誇る地であったが、その剣撃が触れた瞬間、周囲は淡い光に包まれ、瞬く間に変わり果てた姿となった。

斬撃が通過した場所は、建物が崩れ、木々は薙ぎ払われ、それは見る影もない。

「……」

剣を振るった者の瞳には、かつての希望と絶望が交錯していた。彼の心もまた、淡い惨状に染まっていく。



そして、彼の腕は再び重くなり、次の一撃を放つために、ゆっくりと振り上げられた。

「【屍王の剣】」

振り下ろされると同時に、エルフの国の上空のいたるところに剣が現れ落下していく。

斬撃が降り注いだ場所には、エルフの国だった物は存在せず。

ただ無慈悲な雨が降り注ぐだけだった。



少年は死体の山を呆然と見ている。何を思ったのだろうか、何を感じたのだろうか。

ただ、これ以上見たくはなかったのだろう。

少年は……目を瞑った。





繁栄と栄華の象徴でもあるこの都市は今、たった一人の少年に壊されていた。

「王よ!お逃げ下さい!」

「我らが逃げて……一体どうなると言うのだ」

エルフの王は涙を流しながら嘆く。

「王よ!貴方はこの国にとって必要なお方なのです!」

近衛兵の悲痛な叫びが響く。そしてその声は轟音によりかき消された。



「……これは一体なんたることか」

エルフの王はその惨状を見て、顔を手で覆う。

その惨劇を作り出した少年は、ただ静かに立ち尽くしていた。

「王よ!応戦しましょう!せめて一矢報いて」

側近が悲痛な声を王に向ける。だが王はそれにこう返した。

「するな!意味など無い!それよりもだ、今いる兵に告げろ!民を逃がせ、種を絶やすな!我らの怒りを受け継げと!」

「っ!王よ、それは」



側近は王に何かを言おうとしたが、王の覚悟の籠った顔を見て何も言えなくなった。

「……これが最後の命令だ、兵に伝えよ!」

そして側近は王の言葉に敬礼で応えた。


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