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フェンリルに転生した俺、人間に復讐を決意します  作者: アイスマシーン
楽園編
29/122

29. カゲロウの見た雪

 デルはエラーズの目を見ていた。


「【闘気錬成:代一無閣】」


【閣屋】から取り出したのは一振りの太刀。

 その太刀を握り両者の目が合う。


 そしてすぐにデルはエラーズに肉薄し太刀を振り下ろす。

 だがエラーズの磁性流体の鎧に阻まれ太刀が弾かれる。

 だがエラーズにはその隙を反撃に活かせなかった。

 刃のように変形した腕の磁性流体を振り下ろしたがそれはオレンジ色の何かに阻まれたからだ。


「【闘気錬成:空壁】」


 この太刀にはある力が備わっている。

 それは【闘気錬成】

【闘気錬成】とは自身のマナか闘気を実体化させ物体にする。

 そしてデルは壁を作りエラーズと自身の間に割り込ませたのだ。エラーズは壁を回り込むようにしてデルに攻撃するがそれもまた阻まれる。


「【闘気錬成:闘虎】」


 デルは虎を形作り、その虎はエラーズを襲い腕に嚙みついた。

 それを磁性流体の鎧で防ぎその鎧から棘が伸びる。その棘によって闘虎はボロボロと崩れていく。

 そして今度はエラーズがデルに肉薄しその拳を振るう。

 それをデルは【空壁】で防ぐがエラーズは磁性流体の鎧を腕に纏い腕を振るった一撃は【空壁】を破壊した。


「まだまだこれからだぞ!デル!」


「どんと来やがれ!エラーズ!」


 デルが太刀を振るう、エラーズは磁性流体の鎧で防ぐ。

エラーズが磁性流体の拳をデルに振るう。それを躱し、エラーズの攻撃を躱しながら斬撃を放つ。

エラーズはそれに後ろに下がりながら避ける。


「やっぱ切れねえか、しょうがねえな」


「泣き言かな?デル」


「まさか、逆だ逆。泣き言なんて言わねえよ私は。やっと楽しくなってきたとこだからな」

 そう言ってデルは【閣屋】から【天逆之矛矛】を取り出した。


「痛てぇからあんま使いたくは無かったんだがな、ちょっと無理しねえと負けそうだしな」


 そう言ってデルは自分の左手首を【天逆之矛矛】で切った。

「【天逆之矛矛】は所有者である私の自切に反応しその効力を発揮する」


「その効力は【閣屋】に内蔵されている武器全てに反映する」


「効力は生物以外の絶対切断と絶対貫通」


 デルはこう説明したが効果はそれだけではない、それは自切の苦痛つまり痛みを何倍にして使用者に与える。


 生物は痛みをで誤魔化せる手段を持っている、だがそれは【天逆之矛矛】には通用しない。

 デルには常に激痛が走るそんな状態だ。


「飛ばすぞ!」

 デルは顔を顰めながらそう言い放つ。


「ああ!」

 エラーズもまたそう答えデルに向かって疾走した。


 デルに近づいてと同時、磁性流体を弾丸のように撃ち出す。

(見たんだろ、見せてやるよ)


 デルは瞬時に【天逆之矛矛】に持ち替え磁性流体を叩き切った。

「確かに」


 エラーズはデルに肉薄する。腕を刃に変形させて。


 振り下ろされる腕をすんで避け。デルはその腕に向かって【天逆之矛矛】を振るう。

 エラーズは腕を引き、後ろに下がる。

 だが、もう既に手遅れだった。磁性流体の刃は手首ごと切断される。


 そのままデルはエラーズに肉薄する。エラーズは磁性流体の盾を展開し、防御態勢を取る。

 だがエラーズはここで間違いに気付く。そう、デルにとってそれは壁にならない。

 デルは【天逆之矛矛】を盾に向かって振るった。


 エラーズは自身に迫る危機に気付くがもう遅い、デルの武器と磁性流体の盾が衝突する。

 盾は豆腐のように切り裂かれエラーズの身体に迫る。


 エラーズの足元から迫る磁性流体を切り刻みエラーズの心臓に【天逆之矛矛】を突き刺そうとする。


(ああ、デル。強いよ君は、だから)

「真っ向からじゃ、勝てなかった」


 そう呟くエラーズの手元には【玉】が握られていた。

【玉】が発動する、デルの刃が弾かれる。パリン、と音を立て【玉】は割れ消える。


 これがエラーズの最後のチャンス。全ての磁性流体を集め一本の矢を作る。

【磁鉄箭】(じてつせん)

 矢はデルに向かって放たれる、弾かれた体勢では躱せない。


「まあ、よくやったよお前は」

 そうデルが呟いた、デルは笑っている、嘲笑でもなく、楽しさの笑いでもなく。

 ただただ満足そうな笑みを浮かべている。エラーズはそう感じた。


(ああ、やっぱり君は強いな)


 デルの後方から迫る弾丸、それは【砕銃】。その弾丸は正確にエラーズの心臓を穿った。

 その瞬間【磁鉄箭】が崩れエラーズは後ろに倒れた。

 かすれた声でエラーズは何かを呟く。


「デル、君にこんな事を聞くのは……おかしいかもしれないん、だけど」

「雪って……綺麗なのかな、虹は本当に……かかるのかな。僕は見た事ないんだ、だから」

「見に……行きたかったな」


 そう言いエラーズはそのまま目を閉じようとする。

 その時顔に冷たい何かが触れる。

「エラーズ」


 目を開けるとデルがしゃがみこみエラーズを見ていた。

 その目はどこか寂しそうで悲しそうで、でも優しさがあるそんな目だった。

「しっかり見ろよ。雪は綺麗だ」


 エラーズは最後に目を開き、口を動かす。声は出ないが言いたい事はデルに伝わった。

「虹は……まあでも、あの世が本当にあるなら。きっと、虹がかかってるさ」

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