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フェンリルに転生した俺、人間に復讐を決意します  作者: アイスマシーン
灰の王編
123/123

122.夜明けはすぐそこに

精神的な疲労、倒れた理由はそれだ。

肉体的な疲労はいくらでもどうにか出来るが、精神的な疲労はどうにもできない。

そしてようやく、眼を覚ました。

隣にはあの獣人の女。シータだったか。

殺しておくべきかを悩んだ。こいつは明らかに脅威だ、人間の敵だろう。

マナもう戦えるくらいには回復している。

【聖なる光を放つ聖剣の意】光の剣を手に取りその首に近づける。

しかし、女の寝顔を見た時にそれは止まった。

今こいつを殺す事はできる。ここで殺せるのならば殺すべきだ。しかし。



「……」

敵の前だとに、警戒心は感じられない。

いまなら簡単に殺せる。

そうすべき理由もある。

合理的な判断なら、ここで排除するのが正しい。

……だができない。

殺したら後悔するなどという甘い理由ではない。

もっと直感的で、もっと正体のわからない——拒絶感が、胸の奥に刺さ

「……はぁ」

ため息をつき、剣を消す。

「殺しに来るなら来い、変えれるものなら変えてみろ」

「終わりにしたいのは私も同じだ」




「……」

目覚めた時、晴天の下には私しかいなかった。

勇者はどこかへ去った。殺せたはずの私を、放っておいて。

私は立ち上がり、深呼吸をする。

生温かい風が肌を撫で、土の匂いが鼻を刺した。

「情けか……それとも」

どっちでもいい、私は私の目的を果たすだけだ。

そう言い残して拠点へと転移した。





「ねえ、ミザール。これで終わりらしいわよ」

悦楽の天使クエンは、倒れたミザールを足蹴にしながら言った。

「もうクリスタルも残ってない。……私たちは二度と蘇れない」

「そうか……」

ミザールは静かに目を閉じる。その声音には、諦観とどこかの安堵が混じっていた。

「貴様がこんなに必死になるとはな」

「それを言うならあなたもよ? 目的なんて無さそうだったじゃない」

「ああ……そうかもな」

その言葉を最後に、クエンの刃がミザールの首を落とした。



「……つまんない」

クエンは血飛沫すら興味なさそうに払い捨てる。

「もっと面白い男だと思ってたのに」


退屈そうに呟き、空を見上げる。


「この世界……どうなるのかしらねえ」




そのまま転移魔法で拠点へ戻ると、

皆がいっせいにこちらを見た。安堵ではなく──痛いほどの不安を宿した目で。

世界は元に戻った。

なのに、空気はどこか妙に冷たかった。

「シータ……」

エヴィが名を呼ぶ。

その声音に、胸の奥がざわりと震えた。嫌な予感が、背筋を撫でる。

皆の視線が向けられた先に──見覚えのある人影があった。

「……アリュー」

まるで眠っているように、そこに座っていた。

だが、すぐにわかった。これは生きている姿じゃない。

「……皆、そろったみたいだね」



静かに目を開けたアリューは、いつもと変わらぬ穏やかな笑みを向けてきた。

その様子が、逆に恐ろしいほどに現実味を帯びる。

死にかけだ。……いや、もう死んでいる。

「嘘だ……嘘だよね、アリュー」

「本当さ。これは意識を残しただけ。すぐ……崩れる」

淡々と告げながらも、どこか申し訳なさそうな声だった。

「泣いてる時間は無いかな。言うべきことだけ言うよ」

アリューは視線を皆に巡らせる。

「皆、仕掛けよう。勝算は生まれた。……そうだよね、シータ」

「……うん」

ただ、それしか言えなかった。



「長い冬だったね。もうすぐ終わる」

そう言って、アリューはまっすぐ私に向き直る。

「君なら成し遂げられるよ。僕は……信じてるよ」

その声はあまりにも優しくて、あまりにも遠かった。

私は、こらえきれずに頷いた。

「もう行くね。ごめんね」

アリューの身体が、限界に近づいているのがわかった。

「ありがとう、皆」

そして最後に──

「愛してるよ、シータ」



その言葉を遺して、アリューは静かに塵となった。

風に溶けるように、世界からこぼれ落ちていった。

涙は止まらない。止めようとも思わない。

また……家族が死んだ。

小さい頃からずっと一緒だった、大切な人が。

生きる術も、心の持ち方も、全部教えてくれたのに──

私は家族の死の理由さえ知らず、

ただ、見送ることしかできなかった。

あの時も。

この時も。

何一つ、守れなかった。

なのに──アリューの最後の声だけが、頭から離れない。

「君なら成し遂げられるよ」

「………………いやだよ。アリューがいなきゃ……」

それでも。

――それでも、やるしかないんだ。

その言葉だけが、今の私を辛うじて立たせていた。

「……皆、勝とう。世界を変えよう」

私が宣言すると、皆の目がかすかに光った。



「私たちは必ず勝てる」

「そうね、勝ちましょう」

「今こそ反撃のときです」

「もう逃げる時間じゃねえだろ」

「世界が変わる時が来たの」

「やるぞ、オレ達の未来のために!」

「アタシも全力で支えるよ」

「シータ、共に行こう」

その言葉のひとつひとつが、乾いた心に染み渡っていく。

でも私はまだ泣く。

家族が死んだんだ。悲しくないわけがない。

「アリュー……なんでなの」

その声は届かない。それでも問わずにはいられなかった。



「しっかりしろ、大将」

「導いてくれなきゃ私達は迷うばかりだ」

デルが、そして皆が、私の肩を叩いた。

「私たちもアリューを大切に思ってる。一緒に悲しもう」

「でも、涙は今だけにして。もう待ってくれないよ」

私は涙を拭った。

「わかってる。始めよう。革命を」

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