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フェンリルに転生した俺、人間に復讐を決意します  作者: アイスマシーン
灰の王編
118/122

117.初心の子


卍天魔法を用いての魔法は予想以上に高度なものだった。

これまでの魔法が子供騙しに思えるほどの精密さと深淵さ。

アリューが言っていた通り卍天魔法は神経を削る。

だが今は――それすら心地よかった。

「【九天衝落:卍天】」

私は天を指し示すように指を伸ばし、宙に光の柱を召喚する。

柱は徐々に太く大きく成長し、やがて一本の巨槍へと変わっていく。

鋭く、無垢なる光の槍。



嫌な予感がしたんだろう。アクが四本の腕を構える。

その間にも槍はさらに凝縮し、光が光度を増していく。世界が震えるほどに。

全てを貫け!破壊しろ!私の怒りを!

「貫けッ!!」

叫びとともに、光槍は解き放たれる。

凄まじい爆音と衝撃を引き連れながら一直線に――アクへと落ちていく。

「――獣が……!」

アクの咆哮すら、光の奔流に呑み込まれて消える。



巨槍は容赦なくその巨体を貫き抜け、さらに背後の山脈を穿ち抉った。

轟音と衝撃波が駆け抜け、眩い尾が残響のように空を裂く。

やがて――光が消え去った後、空にはぽっかりと大穴が穿たれ、世界は凍りつくような静寂に包まれた。

アクは倒れ再び光と消えた。

「不死身……って訳では無さそうだな」

私は瓦礫の中で佇んでいた。光の余韻が漂い続ける。

またあの裂け目が現れると思っていた。



だが次の瞬間――私は背後に何かを感じ取り、振り返る。

そこに立っていたのは「人間」の姿をした老人。

けれどその右腕は黒く染まり、禍々しい力が宿っていた。

「矛盾……ではない。これこそが我々……の」

「役割なのだ、ゼンよ。完全なる権限は……果たせずとも。今を壊し作り替える……時間……が」

その言葉は途中で途切れ途切れになりながらも確かに届く。



「お前はアクか?」

端的に少年に尋ねる。

「そう……だ」

少年はゆっくりと首を振った。

「千ある魂は……貴様の攻撃で消え去った。もはや……私の思考は崩壊している……だがまだ終わっていない」

「完全なる権限は果たせずとも!初心子は生きているという物。ならば貴様はここで始末しなければならない」

こいつが何を言っているか理解はできない、さっきの頭の中に移ったゼンが抱いていた赤ん坊の事だろうか。


「【苦々螺線】」

アクが何か仕掛けてくる。

その瞬間。私は魔法を放った。

最早、見切れるわけでも防げるわけでもない。

私の光魔法から逃れる手段はアクにはなかった。

「次だ」



アリューが光と散って勇者はようやく気付く。

ゼンを見失った。さっきまで視界に移っていたのはアリューの魔法。

ここがどこか勇者には分からない。

「貴様には完敗だ」

勇者は転移魔法を使った。



「ああおやめさない、愛しき我が子」

ゼンは逆さまの状態で空を歩きながら地に堕ちる我が子を抱き続けていた。

その子はゼンを喰らっていた。抱擁するその指を腕を食いちぎり腹を満たしていた。

「何故?何故?初心子よ、どうしてなの。堕ちてしまうわ」

「貴方は希望だと言うのに、ああ……どうして」

「もう……こんなに汚れてしまって」

ゼンが嘆いている中で。初心子はゼンの肉を食らい続けた。

その時一筋の光が空を駆け巡った。

ゼンはふとそちらの方を眺めると。



「まぁ、貴方が負けるなんて……」

その視線の先でアクが光と化していた。

「世界を正すのは――もう叶わないのね」

ゼンは初心子に問いかけたが勿論返答は無い。

「ならば……貴方に託すわ。世界を導きなさい初心の子」

ゼンは初心子の顔を見る。赤黒く染まったその顔を見て。

愛しい――そう思い。海の上に落下していく。

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