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フェンリルに転生した俺、人間に復讐を決意します  作者: アイスマシーン
灰の王編
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116.悪魔の産声

見たいものを見られる眼――武人は【極地の祝眼】をそう表現した。

ならば、なぜ私にはマナの核がこうも霞んで見える? なぜ輪郭が掴めない?

答えは単純明快。

この眼を、私はまだ使いこなせていない。


「果てることなく抗い続けるか――だが無情にも、結果は出る」


アクが再び動き出す。


【幾数千ノ言ノ葉】(イクセンノコトノハ)

その言葉を合図に、四本の腕が漆黒の塊を握り潰すように圧縮していく。

胸を抉るような、世の嫌悪そのものを形にしたかのような塊だった。


(放たせてはいけない――!)


直感が全身を突き刺す。

私は光を集束し、渾身の一撃を放つ。

「【天喰羅威】」


閃光が大気を裂いた瞬間、アクの動きが変わる。

黒き塊を私へ向けるのをやめ、四本の腕で掴んだそれを霧のように撒き散らした。


「獣よ、よくぞまあ命一つでその力を得たものだ」

黒霧が大地を覆い尽くす。

呼吸を塞ぐような重苦しさ。

「言ノ葉は語る――光を通さぬ」


確かに、霧は私の光を阻もうとする。

だが、次の瞬間――風が奔り、霧が裂け、空が晴れ渡った。

【天喰羅威】の光束はそのままアクの胸を貫き、全てを削ぎ落とすように広がり、そして消滅させた。

私は息をつき、口の端を吊り上げる。

「【現実改変】……でも、どうせ死なない」

焼き尽くされた空間のただ中に、またあの黒い裂け目が生まれた。

裂け目を広げるのは漆黒の剣。その隙間から、あの異形の影が這い出してくる。


「忌々しい力よ……神の行いまでも変えてしまうとはな」


「驕るなよ――私に倒される程度の奴が神な訳ないだろ」


「まだ立って居るぞ?」

その言葉を皮切りにアクは今までとは比べ物にならない速度でその巨体を動かしてきた。「貴様には質より量の方が効きそうだな」

瞬時に四本の腕の内三本に黒剣を持ち、天秤を持つ手は天秤を傾けた。

「【罪罰ヲ君ヘ】」


天秤が傾いた瞬間、私はアクのその剣戟の線状に転移した。

多分私以外なら回避できない即死攻撃だ、

天秤が傾いた瞬間、黒剣が弾丸のように走った。

三本の斬撃が交差し、世界そのものを断ち割る。


「――ッ!」


私は即座に転移し、その線から抜け出す。

けれども一歩遅れていたら……いや、辺りの空間でも触れれば、きっと即死だった。

(危なかった……! けど、これじゃただ逃げるだけだ)

振り返った瞬間、視界の端に赤黒い輝きが揺らめく。

まただ――あの「核」。

しかし今度は、先ほどよりも輪郭が濃い。

まるで焦点が合いかけているかのように、はっきりと脈打って見えた。


「……見える……!」

喉の奥から声が洩れる。

今なら――掴めるかもしれない。

アクが動いた。

残る腕が天を突き、さらに無数の剣を呼び出す。


「抗い、苦悩し。そして塵と果てろ」

「【秩序啼ク此黒剣】」

九つの黒剣が弧を描き、同時に振り下ろされる。

世界そのものに亀裂が走り、崩壊の波が押し寄せた。

「くっ……!」


私は結界を展開しようとしたが――次の瞬間、結界が吸収される。

卍天魔法に防御は通じない。判断を間違えた!周りから段々と収縮してくる亀裂。

【現実改変】のストックはもう無い。

直撃すれば、確実に終わり。

(……なら、もう賭けるしかない)


全身の意識をあの斑点に集中させる。

見たいものが見える――武人の言葉が脳裏をよぎる。

「……応えろ、私の眼!」

瞬間、視界が反転した。

世界中のマナが砕け、核だけが鮮烈に浮かび上がる。

ぼやけていた斑点が、ついに――「輪郭」を得た。

瞬時にそれを掴む、そして発動するその魔法を。


卍天魔法

「【結界魔法】」


それは吸収されることなく、アクの破壊を真正面から受け止め、阻んでみせた。


「———やっと掴めたよ、卍天魔法。こうやってるんだな」

アクの魔法を退けた結界は、確かに揺らぎすらしない。

破壊できない――私の結界を。

そうだ、生半可な攻撃じゃもう届かない。

今の私なら、魔法の練度で確実に上回れる。

ああ、ようやく理解した。

これから始まるのは――神の断罪ではない。


「聞けよ、神様。……悪魔の産声を」

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