115.美麗な月
「……はあ、どうやったのさ」
「空間の端に向かい衝撃で空間に穴をあけた。そこから私が空間創生魔法を使用すればいい」
「簡単に言うねー」
「簡単な事だからな」
互いに視線を交わす。
一方は諦観を滲ませた瞳で、もう一方は哀れみを含んだ瞳で。
「終わりだ。抵抗しないというのなら、楽に殺してやる」
「嫌だね。最後まで遊ぼうよ」
「強がりだな」
「強がりさ」
アリューは残ったわずかなマナを練り上げる。
――これが最後。自分が一番理解していた。
【美麗な月】
昼間の空に、突如として月が浮かび上がる。
銀色に煌めくその月は、見る者すべてを魅了するほど美しかった。
「これが最後、ほんとは。君に送る技じゃないはずだったんだけどね」
「……そうか」
その言葉を聞くと勇者はアリューに【二代目の聖剣】を突き出し。
目の前で消してみせた。
「こい、受けて立ってやる」
「……はは、ありがたいね」
アリューは笑い、月が黒く染まる。
そして、漆黒の月が勇者を飲み込んだ。
★
やがて月は崩れ去り、勇者の姿が再び現れる。
「かったいねー君の防御魔法」
「お前こそ、死に体でこれほどか」
アリューの体は崩壊を始めかけている。
精霊、マナ体を維持できぬほど無くなってしまえば。
無となり拡散していく。
「はぁ……終わりかあ。まあ、僕の目的は果たせたかなあ」
「君は、ゼンを倒しに行かなくてもいいのかい」
「いいや、あれよりもお前の方が危険だ。完全に消滅するまで見届けてやる」
「へぇ……まあ何でもいいけど。それじゃ最後に、これだけ見逃してくれないかな」
そう言ってアリューは最後に術式を組む、体を構成するマナを使い。
仲間に、シータに最後の言葉を残すために。
「好きにしろ」
一抹の光が天へと昇っていく。
それと同時にアリューの体に限界がきた。
マナの拡散が始まってしまう。
「最後に一つ。終わりは来るよ。きっともうすぐ」
「……そうだと良いな」
風が吹き抜けた。
勇者の言葉はアリューに届かないまま、
彼の存在は虚空へと溶けて消えていった。