114.悪魔は確かにほほ笑んだ:2
その言葉と共に空間の中の時が止まる。
「十秒、それだけあれば仕留められる」
【滅望】を次から次へと勇者へ飛ばしていく。
だが、何一つ効果が無かった。
「……【二代目の聖剣】か」
それは所持者に一切の傷を負う事を許さない鞘。
どうする、使われた以上この空間で攻撃に意味は無い。持ってしまった以上時間停止を解除しどこかで手放させないと。
……いや待て、卍天魔法。仕留めれてしまうのなら使えないという縛りは意味をなさない。だけど、仕留めきれなかったら?……いいや!うだうだ考えるな負けるぞ。
そうして卍天魔法で仕留めようとした瞬間、再度映像が頭に流れてきた。
戸惑い、それは致命的なミスだった。減葬死域の時間停止が解けてしまった。
(ラプラスめ)
互いに見据える、そして両者に思考が巡る。
(補助魔法の精霊、補助魔法を際限なく使えるとしたら?手札が多いなんてもんじゃないな。二代目の聖剣を破る札を持っている可能性も考えなければいけないか?)
(二代目の聖剣、卍天魔法以外で突破するとしたら、あの鞘を手から引きはがす位か?。あの鞘は無敵じゃない、それに傍に浮いているあの剣。マナを貯めてる、一撃必殺、化け物火力の魔法だな)
((ならばどうするか))
(身体の強化を突き詰めろ、どんな搦め手も後出しで対処できるようにし。マナが尽きるまで捻りつぶす)
(完全な空間魔法、そこならば魔法の顕現はできない。ただ今ある物は別、僕はあの剣と鞘をどかす事に全神経を注ぐ!)
「仕留めてやる」
「捻りつぶす」
★
両者が同時に魔法を唱えた。
「【曇天穿つ巨神の剣】」
「願い、祈り、その結果」
詠唱魔法
「【神託を待つ愚者の悔恨】」
巨大な剣と大槌が衝突し、火花が空を裂いた。
勇者が肉薄し、斬撃の雨を浴びせる。
「【雪辱】」
一瞬の内に勇者に無数の斬撃が飛ぶが、それは二代目の聖剣の効果により意味をなさない。
(やっぱり、魔法はきかないか。目で分かるとはいえ試したくなるよね)
勇者からの剣戟、それを魔法を駆使しいなしていくと同時に鞘を吹き飛ばす隙を狙う。
(先頭に成れているな、肉薄してもここまでいなされるのか、厄介だな)
そう勇者が考えていた時。砕けた大槌ごと、勇者の剣が振り下ろされた。
大地が砕け、戦場は空へ移った。
戦いは空中戦に移る。両者互角の戦いを繰り広げているように見えていた。
空中での肉弾戦。
補助魔法で身体強化しても、アリューが押し込まれる。
両腕が砕かれ、地面へ叩き落とされた。
「まだだろう」
回復魔法で再生した時には、勇者は魔剣を手にしていた。
「【殲滅を目指す魔剣の意】」
振り下ろされた剣が、更地を作った。
天には一片の雲もなく、二つの影が浮かぶ。
「本当に。なんというか、ここまで来るといっそ清々しさを感じるよ」
「……何なんだ、お前は」
「耐えれないと思ったかい?心外だね」
(賭けだった、卍天魔法使わなきゃ死んでたな。なんにせよ見えなくて良かった)
(ただ、鞘をどかすのは無理そうだな。近接戦闘でもいなすのが精一杯。でもあれどかさなきゃ攻撃通らないしな)
「いや、行こうか」
空間遮断、解除。
即座に空間創生魔法。そして
空間魔法
「【悔恨の末】」
世界が、黒に塗り潰された。
勇者の視界に――見覚えのない四人が現れる。
女性が二人、青年が一人、疲れた男が一人。
顔は影に隠れ、表情は見えない。
四人が一斉に勇者に襲い掛かった。
「【グラ――」」
(マナが……体外へ出て行かない?魔法を、使えない!)
うろたえているうちに四人が勇者に肉薄する。
勇者も瞬時に理解し対処する、体にマナを全力で流し肉弾戦を行う。
四人は勇者にダメージを負わせる事は叶わず、全員撲殺された。
「君の悔恨だよこれは。君は何も感じないかい?」
「出まかせを……何一つ、覚えが無いな」
「そっか」
アリューの狙いは変わらず勇者の持つ鞘をどかす事。
(これだけの状況なら……いや、どうせアドバンテージは僕にある)
地を蹴る音が聞こえてくると同時に次の瞬間には勇者がアリューに肉薄した。
勇者は当然アリューの狙いなど分かっている。
故に接近し、アリューに魔法を唱えさせないようにする。
黒に塗り潰された世界で、勇者が一歩、地を踏み鳴らした。
響いた音は低く重く、圧だけで全身を刺すような威圧が走る。
「……来る!」
アリューが身構えるよりも速く、勇者の拳が迫った。
結界が砕け、胸骨が折れる衝撃が走った。
吹き飛ばされる。回復魔法で体をつなぎながら、すぐに姿勢を立て直すが、すでに目の前に勇者がいた。
「空間のマナを限界密度まで常駐させ、別空間を作りそこに空間魔法を使用し漏れ出す事を阻止。なるほど、発想はいい」
「褒められたところでね」
「魔法を展開する場を奪い取る。それだけで魔法使い相手には大抵完封できるだろうな」
「よくしゃべるね」
「だが、それが私相手に機能するとは思わない方が良い。この【二代目の聖剣】がある限り無駄な時間を過ごす。マナを消費し続ければいずれお前の結界も崩れる」
勇者との距離が縮まるにつれ、緊張がじわりと肌を這う。
マナを練り上げ、次の一手を考えながらも、その刹那の余裕すら与えてくれない。
続けてくる猛攻、その隙を確かに見極め。
「よし、決めたよ」
アリューは空間から姿を消した。
「よくよく考えれば、僕は時間稼ぎをすればいいんだから。君を魔法の使えない空間魔法の中に閉じ込めれば目的達成なんだよね」
「できる事なら、そこでくたばって欲しいけど」
「いいや、そんな事はあり得ない」
轟音と共に空間の裂け目から、勇者が現れた。