109.性善性悪
原勇の国ノアール。
今この国にはかつてない程の応援要請が届いていた。
その全てがゼンとアクの進路上にいる国から「勇者を差し向けろ」という類の要請だった。
しかし、それに対するノアール側の回答は沈黙であった。
「陛下何故です?私が行かなければ誰があの怪物を殺せるのですか?」
「……先ほど、連絡があった。あのアクに近づいた兵士の半分が『私は善人だ』といい暴走した」
「そしてゼンに近づいた兵士の中でも『私は悪人だ』だと叫び、他の兵士を攻撃し始めアクの進行を手助けしたと」
国王は苦虫を噛み潰したような顔で勇者に答える。
「分かる事は……善人か悪人かが判断されアクなら善人がゼンなら悪人が意識を乗っ取られ暴走する。という事だ」
「……お前はどちらだ?」
何万人も、人を殺してきた。大多数の望んだ未来のために、罪の無い人を殺してきた。
そんな、自分は果たしてどちらだろうか。
「私に効くとは思いませんが……私は……悪人です」
「例え、お前がそう思っても。もし効いたら?もし善人だったら?決めるのは奴らの基準だ、もしお前が、勇者が操られてみろ。その時はもはやゼンとアクの問題ではない。世界が滅ぶ」
「私は人間を……傷つけれません」
「それは、お前が自分でかけた呪いだろう。いざとなったら自分で解呪できるんだろう!今は出来なくとも操られていたらできるかもしれない」
「お前を行かせる選択肢は存在しない!」
勇者は拳を握りしめながら歯を食いしばった。
「……承知いたしました」
★
「始まったか。さあ№2、操り人形の糸は切れたかな?」
オリジナルは不敵に笑う。
「世界には変革者が必要だ」
「シータ=スコール君はそれになれるのに何時までも導線に火がつかない」
「今回こそ解放しよう【天喰羅威】を」
★
拠点に帰ると、一斉に皆が駆け寄ってきた。
「シータ!」
「どうやら始まったみたいだね」
アリューが深刻な表情で言う。
「止められなかった……オリジナルは何処?話をしたい」
「僕はここさ……それで何が聞きたいの?」
部屋の奥から現れるオリジナル。
「知っていること全部」
「……別にあの時から大して情報に更新は無いよ」
オリジナルは呆れるように言う。
「前に話した通りさ、神を殺せばこの現状は解決される」
そう言うとオリジナルは振り向き、拠点の出口へと歩いてゆく。
「何処にいくのかな?」
アリューが呼び止めるとオリジナルは答える。
「決まってるだろう、彼女もいい加減僕との決着をつけたいはずだからね。僕は元凶と決着を付けに行くよ」
「元凶……お前のクローンか?」
「ああ、そうさ。もう神を降臨した以上。彼女が望むのは僕を殺す事だろうからね」
「迎え撃ちに行ってくるよ」
そしてオリジナルは姿を消した。
「で、どうするわけ?」
エフレンがシータに問いかける。
「……待機、とりあえず情報が欲しい」
そう言いながら私は一冊の本を取り出す。それは【全知全能】オリジナルから貰った。
此の世の全てが乗っている本。
「皆、少し待ってて」
★
神はその歩みを止める事は無い……二柱の神が会合するまで残り八日と2時間。
★
一方同時刻。
「何ださっきの」
ジーク・ドームゲートとクエンは先の放送に驚きを隠せなかった。
「——まさか、これがねえ」
「知ってんのか?」
「Noよ、知ったこっちゃないわ」
クエンは口角を吊り上げて言う。
「動くとするかしらね、事が大きくなってきたわ」
クエンは踵を返すと、肩を軽く回しながら背を向けた。
「——俺は行かねえぞ」
「そう、残念ね。私は行くわ」
クエンはそう言うと拠点から去ってゆく。
ジークは呆れたように頭を掻きながら、静かになった空を見上げる。
そこへ、不意に空間がねじれた。
ジークが反射的に構えると、その空間のひび割れた先から現れたのは、オリジナルだった。
「やっ久しぶりだねm、ジーク」
「——げえ」
ジークはあからさまに嫌そうな顔をする。
「『げえ』とは失礼だね、そんなに僕との再開が嫌なのかい?」
オリジナルは肩をすくめると両手を広げて戯けたように言った。
「……要件はなんだ」
「あの時の約束を果たしてもらおうか……」
「碌なもんじゃねえだろうな」
ジークは肩をすくめる。
「僕を殺す手伝いをしてくれ、これで契約が切れるなら悪い話ではないと思うけれど」「ああ?つまりあれか、お前のクローンか?」
「話が速くて助かるよ……さあ、どうする?」
「……くたばれイカレクソ野郎」
「それは……了承と受け取るよ」
「後……野郎は止めてくれないかな」
★
「レース様……二柱の顕現致されましたね」
カラサトスは、神妙な面持ちでレースに話しかけた。
「……ああ」
「どうなさいますか?」
「決まってるだろ……オリジナル、貴方への復讐を果たす」
レースは恍惚とした表情を浮かべる。その目には何が映っているのか誰にも分からない。
「マスター、約束は守ります。見ていてください最後の輝きを」




