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フェンリルに転生した俺、人間に復讐を決意します  作者: アイスマシーン
灰の王編
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107.真なる調和

向かってきた天使いたちを次々と蹴散らし、シータ達は異様なマナが漂う大聖堂に近づいていた。

シータは足を止め、目を細めながら大聖堂を見上げた。

「……異様な気配だな」

周囲の空気が重く、肌にまとわりつくような圧迫感がある。

漂うマナの濃度は異常で、まるで世界そのものが軋むような感覚さえあった。

「何だ?何が起こって……」

「入れば分かる」

シータはエルメスの言葉を遮り、歩を進める。

「今の所は敵の気配は無いが……油断はするな」

エルメスが警戒を促すように呟くと、シータは小さく頷く。

「ああ、分かっているさ」

そして二人は大聖堂へと足を踏み入れた。その瞬間――

目の前に見えるのは見渡す限り晴天の空間だった。

「少し、お話しませんか?」

そう言って現れる黒装飾の男。

「……誰だ?」

エルメスが問いかけると、黒装飾の男は恭しく礼をする。

「私はカラサトスと申します。少々お時間をいただきたく、お声がけさせていただきました」

「断る、死ね」

その言葉と同時にシータは光の槍をカラサトスに飛ばす。

「おや、随分乱暴ですね」



【再定義】(リデファイン)

「ここには盾がある」

カラサトスの前に現れた盾が、シータの攻撃を相殺する。

シータは即座に次の攻撃を放とうとしたが、周囲の空間に異変を感じて足を止めた。

「……何だ、この空気は」

エルメスも眉をひそめる。先ほどまで感じていた異様なマナの濃度が、さらに圧縮されるように変質していた。

カラサトスは薄く微笑みながら、ゆっくりと手を広げた。

「間もなくです――"楽園"が始まります」

その瞬間、この空間の奥から強烈な光が溢れ出した。

――儀式が完了したのだ。



空間が歪み、大地が軋むような音が響き渡る。

「くそっ……間に合わなかったか!」

エルメスは歯噛みし、光の中へ突っ込もうとする。しかし、カラサトスがその前に立ちはだかった。

「おっと、ここからが本番ですので」

彼が指を鳴らすと、突如として全世界にその姿が映し出された。

――カラサトスによる『世界への放送』が始まる。

黒装束の男、カラサトスの姿が、各地の空に、鏡に、水面に、さらには意識の奥深くにまで直接投影された。


『世界の皆様、はじめまして。私はカラサトス。神々の代行者として、この場に立っております』

その声は静かでありながら、圧倒的な威圧感を持って響き渡った。

『今、"楽園"が始まりました。長きにわたり続いた不完全な世界は、ここで終わります。そして、新たな世界――"真なる調和"が生まれるのです』

瞬間、各地の空が歪み、雷鳴のような音が響き渡る。

『そして皆様に紹介しましょう。この新たな時代を築く者たちを――』

放送の映像が切り替わる。そこに映っていたのは、"二つの影" だった。

一つは純白のウェディングドレスを身に纏い、その布は静かに蠢きながら光の粒子を撒き散らしていた。

六本の腕のうち、一組は赤ん坊を抱き、別の一組は虚空に渦を生み出し、最後の一組は宙を彷徨っている。

また一つは黒きローブに包まれた巨人。その四本の腕のうち、一組は傾いた天秤を持ち、もう一組は巨大な黒剣を握りしめていた。

『喚く混沌ゼン 悟る秩序アク』

『この二人が出会い、交わる時こそ、私たちの新しい世界の幕開けとなります。私は神々の代行者として、ここに宣言しましょう』

カラサトスの声は重厚かつ荘厳に響き渡る。

『世界は終わり、新しき時代――"楽園"が訪れるのです』



「大人しく聞いて下さりありがとうございます」

カラサトスの演説が一旦止まり、礼をする。

「何、敵がベラベラと現状を喋ってくれただけだ」

シータは小さくため息をつきながら、カラサトスを睨む。

「一つ、教えてくれませんか?私には分からないのです、このような世界でなぜ希望を抱けるのか」

「この世界は酷く醜く、酷く脆い。平等は何処にあらず、平和などは絵空事に過ぎない」

シータは鼻で笑いながら、わずかに肩をすくめた。

「そんなこと、今さら言われなくても分かってるさ」

「……ではなぜ?楽園を拒むのです?」

「お前こそ、この世界は弱肉強食だと分かっているのか?別に私は強者が自分の力を使い願いを叶える事に不満など有りはしない」

「気に入らないのなら、力でねじ伏せればいいからな」

シータは口元に微笑を浮かべる。しかし、その目は笑っていなかった。

「なるほど……貴方は混沌を望むのですか?それとも秩序がお好みで?」

カラサトスは淡々とした口調で問いかける。

「そんなものに興味はないな……」

シータは軽く首を回しながら、肩の力を抜く。



「私はただ、"納得できないこと"をそのままにはしないだけだ」

カラサトスはわずかに目を細める。

「貴方のような者は、この世界では"異物"と呼ばれるのですよ」

「異物? なら結構なことだな」

シータはニヤリと笑い、足を一歩踏み出す。その動きと同時に、空間が僅かに軋んだ。

「楽園だの調和だのと、よくもまあご立派な理想を掲げたもんだが……結局のところ、お前たちのやろうとしていることは"押し付け"でしかない」

「"正しき世界"を造ることが、なぜ"押し付け"になるのでしょう?」

「その"正しさ"とやらを決めるのは誰だ? お前か? それとも、あの二体の怪物か?」

「世界は"あるべき姿"に戻るだけです」

カラサトスは穏やかに言い放つ。その言葉に、シータの眉がピクリと動いた。



「ふん……あるべき姿か……」

シータはゆっくりと息を吸い込み、そして、鋭く目を細める。

「そう言うのは勝った方が決める物だ」

「なるほど……確かに、それも道理ですね」

カラサトスは納得したように頷き、静かに構えた。

「【再定義】」

「矢は幾万と存在し、敵へッ」

そう言い切る前にシータはカラサトスに接近しカラサトスを蹴り飛ばした。

「っ……!!」

吹き飛ばされたカラサトスの体が、見えない壁にぶつかる。

「悪い、遺言だったか?」


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