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フェンリルに転生した俺、人間に復讐を決意します  作者: アイスマシーン
灰の王編
105/119

104.セイゼン教

商業国家カルバドリア

この大国にもセイゼン教は根付いていた。


首都から離れた土地にある教会、そこの司祭室で二人の男女が祈りを捧げていた。

「どうか我らにお導きを」

二人は両手を組みながら祈りの言葉を口にしている。

そこに、一人の女性が入ってきた。彼女はゆっくりと扉を閉めると、穏やかな声で語りかける。

「貴方たちに祝福がありますように」

その声を聞き、二人はぱっと顔を上げた。そこには美しい女性が立っていた。

その容姿はまさに女神と呼ぶにふさわしく、慈愛に満ちた微笑みを浮かべていた。彼女はゆっくりと歩き出し、二人の前に歩み寄る。

「あぁ……聖女様」

二人は目に涙を浮かべながら、彼女を見つめた。

「今日はどうされましたか?」


「……その、我々は一体いつ『楽園』の住人になれるのかと」

聖女と呼ばれた女性は、優雅に微笑みながら二人を見つめた。

「楽園へ至る道——それは、信仰と行いによって決まります」

彼女の言葉に、二人の男女は深く頷いた。

「我々は、信仰を捧げ、異端を排し、己の正しさを証明してまいりました。それでも、未だ楽園は遠いのでしょうか?」

男が懸命に訴える。彼の目には、純粋な信仰心と、微かな焦りが宿っていた。

「焦ることはありません」


聖女は静かに手を伸ばし、男の肩にそっと触れた。その瞬間、男の体が一瞬震える。心が安らぐような、柔らかい魔力が彼を包んだからだ。

「神は見ています。あなたたちの献身を、信仰を——全て」

「聖女様……」

二人は涙ぐみながら、崇敬の念を込めて彼女を見上げる。

聖女は微笑みながら、そっと手を引いた。

「でもね……」

その瞬間、空気が変わった。

「神は、何よりも『結果』を求めているのです」

慈愛に満ちた微笑みは、どこか冷たいものに変わった。

「異端は根絶されましたか?」

二人は息をのんだ。


「……いえ、まだ……」

「ならば、あなたたちの信仰はまだ足りないということです」

聖女の言葉は、まるで刃のように鋭く、二人の胸を刺した。

「ですが……ですが我々は……!」

「努力は認めます。でも、それは『楽園』への確約にはなりません」

聖女はそっと目を細める。

「次の異端討伐、あなたたちも参加なさい」

「えっ……!?」

「信仰を示しなさい。そうすれば、神もあなたたちの献身を評価するでしょう」

二人は戸惑ったが、聖女の瞳に宿る威圧感に逆らえず、ただ頷くしかなかった。


「……はい……」

「素晴らしい。では、共に神の意志を成しましょう」

聖女は再び微笑んだ。

その姿は、まさしく神の使徒のように美しく、恐ろしかった。

(最早狂気だな……)

シータはその横で話をきいていた。

勿論、彼女は姿を晒していない、自身の体をマナ体にし、他の背景と同化するようにしている。

聖女と信徒の会話が終わり、信徒が教会を去ると聖女はその眼を険しくしどこかへ歩いて行く。


シータはその背を追う、そして、人気のない場所につくと聖女は後ろを振り向いた。

「誰でしょうか?神の考えを否定する愚かな冒涜者の方でしょうか?」

(気づくのか……)

シータは驚きを隠しながら、ゆっくりと姿を現した。マナの流れを制御し、光を再び反射するようにすることで、徐々にその姿が浮かび上がる。

聖女は静かにシータを見つめた。その瞳には警戒の色が浮かんでいるが、恐れの様子はない。


「……貴方が異端の側の者ですね?」

「ああ、愚かしい!神の言葉すら聞けない獣風情が人間の住む国に入るなど。愚かしい愚かしい愚かしい!」

聖女はヒステリックに叫ぶ。それは、怒りと憎しみに満ちていた。

「私は、『楽園』の信徒として、貴方を浄化します!」

「うるさい……」


「この場で滅びなさい。神の名のもとに——」

その瞬間、聖女の周囲に光の魔法陣が展開された。純白の光が降り注ぎ、神聖なエネルギーが渦巻く。

「【光刹幾砲】」

「随分名前だが―――」

聖女が静かに詠唱を終えた瞬間、光が柱のように収束し、シータへと襲いかかる。

だが、シータは顔色一つ変えず、静かに手をかざした。

「相手を知れ、恥をさらすぞ」

その瞬間、光の奔流が真っ二つに引き裂かれるように消滅した。まるで見えない壁に阻まれたように、光はその先へ届かない。


聖女の顔が驚愕に染まった瞬間――シータは既に敵の懐へ潜り込んでいた。

その体に触れると同時に光の鎖が聖女の全身を拘束する。

「う、ああああああああ。やめろ触るな!汚らわしい獣が」

「叫ぶな、耳が痛い」

シータは淡々と呟き、さらに強く縛りあげた。

聖女は苦痛の声を上げながら必死に抵抗するが、抜け出すことはできない。

「神を侮辱し、あまつさえその信徒に手を出すとは」

シータの瞳には冷たい光が宿っていた。それはまるで氷のように冷たい。

「異端者め!貴様らこそ神の威光を汚す獣だ!」


「そんな事はどうでもいいさ、お前は何と繋がってる?」

シータの問いに、聖女は苦しげに睨みつけながら叫んだ。

「何と……? 貴様には理解できない! 我らは神と繋がっている! 神の意志を受け、その手足となり、『楽園』を作るのだ!」

「へぇ、そうか」

シータは冷淡に呟くと、光の鎖をさらに締め上げた。

「ぐっ……! ぁぁ……!」

聖女は激しく身をよじるが、まるで逃れることはできない。

「質問の意図が分からない訳じゃないだろう、ほら速く」



「助けて……ミザール様ぁ……助けて……!」

聖女は苦しげにうめきながら、誰かの名を必死に呼ぶ。

だが、シータは冷淡に彼女を見下ろしながら、ふと嘲るように口を開いた。

「……何だお前、人間じゃないか」

聖女の背から突如として純白の羽が現れ、淡く光を放ち始める。そして、その頭上には淡い光輪が浮かび上がった。

「この羽に光の輪……アリューが前に言ってた天使か」

シータは目を細めながら、興味深そうに聖女の姿を観察した。


「人間のふりをして天使が宗教活動ねぇ……。これはまた随分と胡散臭い話だな」

「ミザール、それにアリューか……随分な名を出す」

後方から声が聞こえた、シータが振り向くと誰かがこちらを向いていた。

「……誰だ?」

「俺はエルメス。安心しろ、敵対するつもりはない」

名乗ると同時に、影のように静かに現れた男は、落ち着いた声音でそう告げた。

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