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フェンリルに転生した俺、人間に復讐を決意します  作者: アイスマシーン
灰の王編
104/125

103.馬鹿の集まり

「ねえ、貴方。その眼で、勇者を見たの?」

「……ああ、灰となった同胞の記憶は俺に受け継がれている」

「本当に、勝てると思ってるの?」

灰の王はその問いに、一瞬だけ沈黙した。

彼の瞳が静かに揺らぐ。エヴィの問いは単なる確認ではない。

その言葉には、計り知れない重みがあった。

「――勿論だ」

「……まあ、別に貴方が倒さなくても、シータが勇者を殺すけど」

まるで、そんなことは当然の未来であるかのように。

ルウが小さく笑う。

「そうね、約束してくれたかしら」




その後拠点へと戻ってきた三人とシータ。

「おかえり、どうだった?」

シータが尋ねるとエヴィは肩をすくめた。

「まあ、悪くないわ」エヴィが静かに答える。

サーシャとルウは顔を見合わせると小さく笑った。

「そう、ならよかった」

シータは安心したように微笑んだ。

「今いる全員を【実越仙境】に移しても一切の問題はないわ。あそこなら衣食住が問題なくそろうし、マナで補える」

「そっか」



シータは、どこか安心したように息をついた。

「それじゃ、灰の王。ここに同盟を結ぼう」

「ああ、よろしく頼む」

灰の王はどこか満足げな表情で頷いた。




シータが灰の王との交渉を終え、同盟を結び数か月が経った。


拠点で保護していたエルフ達の【実越仙境】への移動が着々と行われていた。

5000人程度のエルフ達が皆、【実越仙境】へ移動するとなると結構な大仕事だった。

「まったく……人使いの荒いこと」

エヴィがため息をつきながら呟くとアリューが笑った。

「ん~流石に大変かな灰の王?」

アリューの横にいる灰の王は今にも倒れそうな表情で力を込めていた。

「な……に、問題ない。ゲート程度いくらでも、保って居られる」

「ふーん?」

エヴィが少し意地悪そうに笑いながら、灰の王の額に浮かぶ汗を見つめる。

「そう? なら、この移動が終わるまでしっかり頼むわよ?」

「くっ……言われなくとも……」

灰の王は歯を食いしばりながら、大規模な転移ゲートを維持していた。

彼のマナをもってしても、5000人を安全に転移させるのは相当な負担らしい。



「まあ、頑張ってね」

アリューが呑気に言うと、灰の王はちらりと彼を睨んだが、すぐに視線を戻した。

「……あと半分だ」

転移を終えたエルフたちは次々と【実越仙境】へと送り届けられていく。

彼らは目の前に広がる美しい光景に目を輝かせ、新たな拠点での生活に期待を抱いていた。




エルフ達の大移動が行われている時、拠点ではシータとオリジナルが向き合っていた。

「やあやあ、久しぶり」

オリジナルの声が響くと、シータはすぐに警戒の姿勢を崩さず、冷徹な目で彼を見据えた。その表情には一切の隙がない。

「何か用か?」

シータの問いかけに、オリジナルは淡々と答える。

「ああ、実は『楽園』方で進展があったんだ」

「そうか……で?」シータの口調には、どこか冷たい響きがあった。

「それで、君の力を借りたいんだ」オリジナルは淡々と続ける。

「……それは命令か?それとも頼みごとか?」

シータはじっと彼女を見つめる。その瞳からは感情が読み取れなかった。しかし、その奥にある強い意志だけは感じ取れた。

「そうだね……これは頼みごとだよ」

オリジナルは悪びれずに答えた。その表情には、どこか楽しげな笑みが浮かんでいた。



「分かった、話せ」

シータがそう言うと、オリジナルは嬉しそうに笑った。

「簡単に言えば君の事を探してる、僕の協力者としてじゃなくて。君、シータ=スコールをね」

シータはその言葉に、僅かに目を細めた。

「私を?」

「ああ、覚えてるかな君が殺した二人組の僕のクローン。その片割れさ」

シータは軽く息を吐いた。

「なるほど……それで?」

「探してるのなら、こちら仕掛けないかい?」

「つまり、向こうが仕掛ける前に叩こうと?」

オリジナルは指を鳴らしながら、にやりと笑った。



「話が早くて助かるよ。その通りさ。僕としても、自分のクローンが勝手に動き回るのはあまり気分が良くないしね」

シータは静かに目を閉じ、一瞬思案するように息を吐いた。そして、ゆっくりと目を開き、オリジナルを見据えた。

「……いいさ。お前の策に乗ってやる」

オリジナルの笑みが、さらに深まった。

「決まりだね。それじゃあ、これを」

オリジナルが何処からともなく地図を取り出すと、それをシータに手渡した。

地図には赤い点が記されていた。



「これは?」

「奴らは、セイゼン教という宗教団体に属している」

「エルフの虐殺が始まった位にできた。『人間が善でありその他全てが悪。ならば我ら人間が全てを踏み台に生きよう』という思想の下、活動している」

「なるほど、そいつらの目指す世界が『楽園』か」


「そうだよ、自分たちが善だと信じて疑わない。馬鹿の集まりさ」

「それで、私はこの教会から潰せば良いんだな?」

オリジナルがこくりと頷く。

「ああ、頼めるかい?」

シータは地図をしばらく眺めていたが、やがて小さく息を吐いた。そして静かに言葉を紡ぐ。


「分かった」

その言葉に満足したように、オリジナルは微笑んだ。

「じゃあ、任せたよ」

オリジナルはそういうと、そのまま姿を消した。

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