99.リロード
灰の王は闇夜の中をゆっくりと歩く。
何かを感じ取ったのか迷いなく森を歩いている。
「同胞のマナ……それと獣人か?」
灰の王は何かを感じ取りながら歩き続ける。
彼は何かに気付き、その方向に足を向ける。そして、そこには村があった。
手入れされているようだが無人の村。
闇夜の中を歩く灰の王。その足取りには迷いがなく、ただ同胞の気配を追い続けている。
「……地下か。なるほど、隠れ家としては理に適っている」
森を抜けた先には、静まり返った無人の村が広がっていた。整然とした建物や手入れの行き届いた畑が、ここが最近まで人々の手で維持されていたことを物語っている。
そして辺りを暫く歩き、ふと何かを感じ取ったように立ち止まった。
「ここか……地下への入り口が隠されているな」
灰の王は目を閉じ、マナを感知する力を強めた。すると村の中央に地下への隠し階段が存在する場所があることに気付いた。
彼はその場所に足を踏み入れる。さらに地下へと続く階段を下り、静かに奥へと進んでいった。
「止まれ」
声が聞こえると、そこには一人の獣人が立って居た。
「人間?ではなさそうだが。誰だお前」
「……俺は灰の王。我が同胞、エルフたちを導き救う者だ」
その声に億しもせず、灰の王は答える。
「随分安っぽい自己紹介だな、それで何の用だ?」
シータは灰の王を睨みつけた。灰の王はその視線に怯む様子もなく答える。
「我が同胞を安全な地【実越仙境】に匿う。その為にきた」
シータは灰の王の言葉を鼻で笑う。
「悪いな、全く信用できない」
「別に、貴様の許可など求めていない。力尽くでも連れて行くまでだ」
灰の王はそう言うと剣を構える。それを見たシータもまた戦闘態勢に入る。
「灰の王だっけ?まあ、殺しはしない、安心しろ」
「【九天衝落:黒天】」
光が集まり黒き槍が出来上がると同時に一直線に閃光が走り、灰の王の体を貫いた。
「……!?」
灰の王は衝撃に体勢を崩し、その場に膝をつく。そして倒れたまま、ゆっくりと顔を上げた。
(なんだ!こいつ!)
灰が王の失った体を再生しようと集まっていく。
「まだ始まったばかりだぞ、灰の王」
「馬鹿な……」
灰の王は立ち上がり、再び剣を構える。
「貴様には、全力を出さねばならぬようだ」
空間魔法
「【灰世界】」
灰の王の声が深く響いた。
その言葉と共に、地下の空間は一変した。目に映る全てが消え去り、無限に広がる白い空間に変わる。
そして、空中から降り始めた灰は、異様な力を持つことをシータは即座に感じ取った。
降り注ぐ灰に触れた物体が瞬く間に灰に変わり、消滅していく。灰は静かに、しかし確実に周囲を侵食し始めていた。
「灰燼に帰そう、此の世の不条理全てをな」
ひらりはらりと乱れ落ちる灰の雨、その灰は彼女の体に触れるたびにその肉体を灰にしていく。
(回復魔法で治せはするが……いや、こっちの方が効率がいいか)
「【自己転換】」
シータが片腕を伸ばしそう唱えると腕から分解されるように壊れ始める。
そしてすぐにまた壊れた所から治り始める。
シータはその体を肉体からマナ体へと変換した。
「……マナ体だと、珍妙な技を」
シータの体は灰になっていく。しかしそれはすぐに元に戻っていく。
マナ体ならば回復魔法を挟まずともマナで形を成すだけでその欠損を補える。
灰の王がシータを見据えると次の瞬間にはその姿は消えていた。
灰の王の目の前に現れると同時、彼女は構えていた。
大きく息を吸い込み、その技を使用した。
「【我武者羅】」
瞬時に繰り出される七の連撃。
かつて戦った武人が使用した。音すら置き去りにする、武術の極致。
その一撃目で腹を、二撃目で太ももを三発目に左肩を貫かれた。
「ぐっう!?」
四撃目は回避したものの、五撃目で胸を抉られる。同時に放たれた六撃目は、鳩尾に入る。
七撃目の蹴りは。何とか腕で受け止めるも勢いに負け吹き飛ばされた。