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夢で戦(あ)いましょう!  作者: 久藤翼


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8/8

遭遇2

毎度のことながら大変お待たせいたしました。

前回投稿日からいつのまにか1年以上経っていて驚いております。

 辺りはしんと静まり返り、先程までの戦闘が嘘のようである。


 昨日闘争の渦中にあったビルから抜け出したばかりだというのに、些か危機感が薄かったと反省する。

 あの少年が所属している派閥というのが杏那の言う敵対派閥でないことを祈るばかりだ。


 そこではたと気がついた。

 未宇が死んでから少年が死ぬまで二分、いや一分もあるかどうか。

 つまり復活するまでの時間もそれくらいである。


 この場に留まっていたらまた未宇を殺そうとすることが容易に想像できる。


 逃げなければ。


 しかし明らかに少年のほうが足が疾い。今の戦闘を見ただけでも解る。

 馬鹿正直に走るだけでは、すぐに追いつかれてしまうだろう。


 問題はそれだけではない。

 拠点の位置を悟られないように戻らなくては、厳重に隠されているのが無駄になる。


 拠点とは反対方向だが、一度砂場側から道路に出るのがよいか。

 一番近い出口でもあるので不自然ではないはずだ。


 道路に出てからはどうする。

 一分半ほどあれば全力で走ってぎりぎり丁字路を曲がりきれるかどうか。

 (いや)、このところの未宇の体力では全力疾走で端までは保たないだろう。


 家の中に隠れるか。

 だが虱つぶしに探されると見つかるのは時間の問題になる。

 何より、少年の近くに留まりたくない。


 違う、家を通ればよいのだ。

 杏那は当然のように家の中を通過していた。住人がいる訳でもないので遠慮する必要はない。


 玄関から入って裏口から出る、あるいはその逆を繰り返せば、道路を走るよりも早く拠点の周辺まで戻れるはずだ。


 どこまでこれを繰り返すか。

 一番重要なのは追ってくるであろう少年を撒くこと。

 次に可能であれば、あの白い部屋に戻ること。


 白い部屋に入るためには、杏那と歩いたあの儀式が必要なのか、あるいは既に必要ないのか。

 杏那が言っていたセキュリティに未宇が登録されているのか定かでない以上、今は戻ることは考えないほうがよいかもしれない。


 焦りが消え冷静になると、今考えても仕方がないという気持ちになってくる。

 実際、方針は立ったので今すぐに考えなければならないこともないはずだ。


 かと言って、考える以外にすることもできることもない。

 何もない時間とはこんなにも退屈で緩慢なのか。


 いつ来るとも知れぬ死に戻りまで焦りと緊張が保つわけもなく、未宇の思考は先ほど別れた詩乃の様子にまで移ろっていた。


 唐突に振り返った詩乃は、何を見て何を思ったのか。

 あるいは、見てなどおらず「視て」いたのか。


 十中八九、後者だろう。

 『盗覚』で誰かの視覚を盗み見ていた。そして何らかの異常を確認した。それが「まずいこと」だったので報告に帰った。


 やはりあの時、意地でも追いかけるべきだったのだ。

 ちゃんと詩乃と一緒に帰っていればこんなことにはならなかった。


 今頃、杏那や詩乃は心配しているだろうか。

 それとも、まだ呑気に散歩していると思っているだろうか。


 こんなことになっていると知ったら、詩乃は杏那にこっぴどく叱られそうだ。


 そこまで考えて、会って間もない人たちの様子を想像できてしまうことが、未宇にとって不思議な感覚だった。

 さらには、それこそ呑気なものだが、身体があったらにやけてしまっていると自覚する程に、彼女らと関われたことを嬉しく思う自分がいた。


 不意に後方で、ざっ、と砂を蹴るような音がした。


 振り返ると、少年が叩き斬って殺したであろう人物が木々をすり抜けて走っていくのが見える。

 後ろ姿だけでは青年なのか、少し大人びた少年なのかはわからない。


 今の今まですっかり忘れていたその人物によって、未宇は自分の蘇生が近いことを知った。


 ふと視界の右上に意識を向けると既に『3』と表示されている。

 そして、大した間もなくそれは『2』へと変わった。


 二分以上もカウントダウンの出現に気がつかない、なんてことがあるのか。

 些か思考に意識を取られすぎたようだ。


 軽く反省しながらも、未宇は今までの思考を振り返った。

 次第に緊張感を取り戻していく。

 大丈夫、もう方針は立ててある。


 カウントダウンは残り十秒を切った。





 道と誰かの家の中を走り続けてどれくらい経っただろうか。

 今のところ、予定通りに白い部屋に近づけているはずだ。


 しかし既に息は荒れ、未宇の体力に限界が見えてきていた。


 何件目かの家に入る。

 玄関を土足で上がり、二階への階段を横目に家の突き当たりへ向かった。


 そこで厄介なことが判明した。

 裏口や外に出られるような大きな窓が存在しなかったのだ。


 もちろんそれを一切想定しなかった訳ではない。

 極力避けるために、いままでは家の横から軽く覗いて反対の道路に出られるか確認するようにしていた。


 ところが疲労からか、ここにきてその確認を忘れてしまった。


 ジグザグと家々を通り抜けてきて、今更あの少年に見つかるとは思えない。

 そもそも追ってきている気配すらない。


 それでもまだどこか不安で、それを払拭するためにも動き続けていなければ気が済まなかった。


 少しだけ考えて、玄関で見た階段を上る。

 幸いこの家が面する道路とは反対側にも、屋根に出れる窓があった。


 滑らないよう慎重に歩き、奥に位置する家の屋根に飛び移る。

 辛うじて落ちずに耐えることができた。


 気を抜くとガクガクと震えだしそうなくらい脚が重い。


 とりあえず屋根から降りて休もうと、しゃがんで片足を下に伸ばす。


 その時、屋根の瓦にしがみついていた手足が一気に滑り、そのまま落ちた。

 簡単な受け身すらとることができなかった。


 理解が追いついた時には、屋根と塀で狭くなった空を仰いでいた。


 地面に打った頭が痛い。それから……。


 徐ろに身体を起こして、下半身を見た。

 脚があり得ない方向に曲がっている。


「あぁ」


 アドレナリンが出ているのか痛みはない。

 そのせいか、他人事のように何の感情も湧かなかった。


 そうは言ってももう動けそうにはない。

 敷地の隅まで這って、塀に力無く背中を預けた。


 これからどうするべきだろうか。


 疲れ果てて回らなくなった頭では、同じ問題提起が繰り返されるだけで一向に思考が進まない。


 脚がじんじんと痛みだしている。

 それと同時に、抗いがたい強烈な眠気が未宇を襲っていた。


 意識を手放したら死んでしまうのではないかという恐怖が、未宇を必死に叩き起こそうとする。

 しかしその思いも虚しく、未宇の意識は闇に蝕まれていった。




 ☆☆☆



 目を開けるとそこは自室のベッドの上だった。


 脚や頭の痛みは一切ない。重石に縛りつけられたような身体の重さもない。瞼が勝手に下りてくることもなかった。


「よ、よかったぁ」


 唯一、心臓だけが早鐘を打ったように高鳴っている。

 煩いほど鼓動が身体中に響いているが、不快感よりも寧ろ安堵感が染み渡った。


 しかしこうしてはいられない。

 早く戻らなければ杏那や詩乃を心配させてしまう。


 口元まで布団を引き上げ、未宇は再び眠りについた。


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