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第一話

年齢制限に迷いました。中学生や高校生にこそ読んで欲しいような……

問題があれば変更します。


 そこな君よ、まあ聞いてくれ。


 新型のウィルスやら戦争やら要人の暗殺やら経済危機やらと、おい、どうした世界よ、ひきつけでも起こしたか? なんて聞いてやりたくなるようなこの時代、バシバシと叩きつけられる重大ニュースに右往左往するだけの俺たちの前に、どうやら極めつけがやってきた。


 巨大隕石が地球に落ちるらしい。それも人類滅亡レベルのやつが。


 世の中に流れる暗い淀みのようなものを薄々も感じつつ、それでも何事もなく笑って過ごせた中学生生活におさらばをして、未来は明るくなるだろうという根拠もない思いを漠然と抱いて、いざ楽しい高校生活へと赴かんとしていた時期にだ、政府が正式に人類を滅ぼす巨大隕石の件を認め、発表した。それが半年前の事ね。騒々しい半年間の幕開けだ。


 いや、それ以前にも騒がれていたことは騒がれていたんだよ。


 最初は外国の天文好きの素人の発表だったはずだ。巨大隕石が降ってくる、世界中の政府はそれを隠している、人類は滅亡するという警告なのか告発なのかもわからん文書と天文素人には判断できない計算式やら証拠の数々、それは当初、ネット界隈にあふれる陰謀論の一つとして片付けられていた。


 状況の変化が起きたのはその天文好き素人が何者かに殺されたと家族が発信したことだった。今の時代、やろうと思えば誰もが情報の発信者になれる。顔まで出して必死に訴える姿に世界中の注目が集まり、そして世界中の天文のプロ、素人が検証を始めることになった。


 巨大隕石ぃ? んなもん無い無い、っていうのが、え? これ事実じゃね? に変わって、あれ? これ本当の事だぞ、やばい、人類は滅亡する! ってなるのにそう時間はかからなかった。人種や組織を問わず様々な場所で発表される圧倒的な量の証拠の数々が、それでも根強い陰謀論で終わらせようとする勢力を駆逐していく。


 ついに抑えきれないと判断したのか、ようやく各国の政府は示し合わせたかのように、いや実際に示し合わせて、認めた。認めやがった。


 認めて欲しくなかったよ、マジで。陰謀論だった方がどれほど良かったことだろう。何事にも無関心、無感動を自負するこの俺をもってしても、悲観に暮れてその日は食事も喉を通らなかったほどだ。翌日はドガ食いしたけどな。


 親切心を装った責任逃れと長々と続く言い訳でコーティングされた”人類文明終了のお知らせ”を受けて、人々はパニックに落ちる。当たり前だろうが。何が「知らせなかったのはあなたたちのため」だ「パニックにならないでください」だ、なるわ、んなもん。


 公式発表直後、日本でもあちらこちらで買い占めや暴動が起きたし、混乱に乗じて好き放題する輩も大勢現れた。外国では政府が転覆して、そのまま情報が入ってこなくなった国も多い。当時、確かに人々は狂騒の渦の中にいた。いきなり熱湯に放り込まれたカエルのごとく。


 そして政府の公式発表から半年。


 巨大隕石が落ちてくる前に混乱によって人類文明は自滅崩壊しちゃうのかと思いきや、世界は意外と平穏を取り戻していたりする。すくなくとも日本は落ち着いている国の一つに挙げられるだろうし、自分の身の回りでも最近は特に目立った事件も起きていない。


 ダーウィン先生、ヒトって慣れる生き物なんですね? 何気に人類、凄すぎない?



 朝の教室には独特の雰囲気がある。


 半年前の発表では巨大隕石が地球に衝突するのは3年後と言われた、つまり今この時点から見て二年と半年後。


 もはや学校に来る必要も無いと判断したのか、半分近くのクラスメイトを見かけなくなった。いや、ここは半分以上も残っていることに驚嘆すべきか。


 政府が公式発表した当初じゃあ、まだまだ信じなかった人が圧倒的な多数派だったからな。とりあえず一応は学校に来て、そしてポツポツと来なくなった。中には俺のように、学校に行く理由もないが、行かない理由もないなんて消極的な選択でもって来ている奴もいるんだろう。


 惰性でもって、ズルズルと。


 さんざん論破されているが、実は人類を滅ぼす巨大隕石なんてのは最初から嘘っぱちで、世界はこれからも続くと思っている人たちは結構いる。人類存続論者の中にもいろいろな派閥があって、中には人類が同族同士、戦争で殺しあうのをやめさせるために世界中の政府が手を取り合い協力している、争うものとそうでないものの選別が今であり、やがて世界は平和につつまれるだのなんだの。


 現実論が人類滅亡で陰謀論の方がやさしい世界とか、価値観が逆転している。ちゅーか、現実がすでに現実感無いからな。ここは物語の世界かよって。


結愛「おっはよー」

悠馬「おお、あたなは俺の同級生にして小、中、高と同じ学校で、ご近所にお住まいの”かのこ・ゆあ”さんですね」

結愛「悠馬は一体、どこの誰に何を説明してるの?」

悠馬「いや、もしこの世界が小説なら文章による人物紹介は必要だろうが?」

結愛「この世界は小説なんだ、と、幼馴染の少年に聞き返す美少女の隣では、同じくクラスメイトで可愛い可愛い希望ちゃんが笑っているのであった」

悠馬「乗るのかよ。自分で美少女とか言うあたりお前の精神は鋼で出来てる」

結愛「はい、ここで、みしま・のぞみちゃんの自己紹介が入りまーす」

希望「えと、えーと」

悠馬「無理スンナ」


結愛「実際問題、本当に物語の中にいるみたい。世の中、激変しすぎ問題」

希望「そういえばテレビから新型ウィルスの話題消えたね。今は隕石ばっかり」

悠馬「まぁウィルスも消えたんじゃないのか、知らんけど」

結愛「自殺する人が激増とか、テレビじゃ自殺者数のカウントやってる」

悠馬「人口の減少に歯止めがかかりませんな」

結愛「あ、けど妊娠する人は激増しているとか、人類の生存本能なんちゃらって。もう世界は終わるって言うのに、ちょっと無責任すぎない? そんなにエッチがしたいかー?」


 デリケートな話題に、三島は顔を赤らめ慌てる。白磁の肌と表現していい美少女の白い肌が朱色に染まる風景は、何かとやさぐれがちな毎日で疲れた脳ミソに優しいです。そんな三島に遠慮なく抱き着く結愛。


結愛「超かわいいんですけど!? のぞみんはずっとそのままでいてねー」

希望「うきゃ! 結愛ちゃん、ほおずりやめてえー!」


 騒ぐ二人に教室中のクラスメイトの視線が集まる。その中、三島に抱き着きじゃれる結愛をじっとりと見つめる一人の男、戸川の視線が気になった。



 授業開始のチャイムが鳴る。心なしかさみしい音色がする。そんな気持ちになるのは教室にやってきたクラスメイトがついに半分を切ったって気が付いたからだろうか。主人を乗せていない椅子の数なんか数えるんじゃなかったよ。


 数学の丘元先生が挨拶をして授業が始まる。


先生「あ~、数学は~人生のすべての場面で役に立つ学業ですが~そんなことは置いておいて、私は~ボカロが好きです。ボーカロドの事です。今日はボカロの話をします」


 生徒たちの多くがガクっと崩れ落ちる。お前らリアクションいいな。


 ボカロの歴史や文化について熱く語りはじめる丘元先生。これはもう授業でもなんでもないが、世の中の暗いニュースや暗い話題を聞かされるよりずっといい。教師すらも失踪していく時代。誰もが好きなことを好きなようにやり始めた。以前なら教職の進退問題にまで発展しそうな授業じゃない授業が続く。ふっ、熱いなオカモト、ボカロにまったく興味なくてスマン。


 そして放課後。


詫夢「おーい悠馬ー。カラオケ行こうぜ」

悠馬「おお、君はご近所にお住まいで、わが友人ポジションの”いいな・たむ”君ではないか」

詫夢「なんだそりゃ。オカの話聞いていたらカラオケ行きたくなった。ボカロ縛りな」

悠馬「ボカロの曲をまったく知らないが? 俺が歌える曲は”君が代”しかない」

詫夢「激レアくんかよ」

悠馬「なんだと? エスパー魔美に出てくる高畑君みたいな体形しやがって!」

詫夢「さっきからちょいちょい何なの!? あとアニメのチョイスが古すぎぃ!」

悠馬「今、家じゃ両親が懐かしのDVD祭りやってんだよ。巻き込まれてる」


 そういや最近、今やってるテレビとか動画とか見なくなった。ふっ、時代に取り残されてしまうな。どうでもいいか。


結愛「えー、なになにー?」

悠馬「詫夢がカラオケに行きたいってさ」


 三島を連れた結愛が俺たちの会話に割り込みをかける。


結愛「カラオケも最近あちこちで閉まってるよね? やってるとこある?」

詫夢「うっす。やってるとこ調べたよ。駅前ね。の……希望ちゃんも一緒に行こうぜ?」

希望「うん。いくいく」


 電車で二駅、駅前カラオケ店に到着。意外と多くの客で賑わっていた。こいつら他に行くところとか無いのか? 人のことをいえないが。


 少しだけ待たされてから部屋に入る。


詫夢「よっし、最初から全開で行かせてもらいますよー」

結愛「いえーい。ひゅーひゅー」


 詫夢の奴は見た目高畑君だけど歌が上手くて最初に聞いた時は驚いた。見た目高畑君だけど。そして何気に三島も上手い。結愛の奴は盛り上げ役なら一流だ。歌は……楽しそうに歌うけどね。俺は歌の心得は皆無。そもそも古い曲も最近の曲も知らないからな。自分の番はかろうじて知っているアニソンで乗り切った。


 何巡目か。詫夢の奴が俺の知らない曲を熱唱している。そのサビに差し掛かった時、突如、カラオケの映像も部屋の電気も消えた。停電か?


 部屋の外に出てあたりをうかがうと、暗い廊下の中でキョロキョロと様子を見る隣の客と目が合った。とりあえず愛想笑い、日本人の基本スキルね。


悠馬「復帰しそうにないし、解散だなこりゃあ」

詫夢「一番いいところ!」

結愛「停電かー。しゃーなし」

希望「懐中電灯、持ってるよ? 出すね」

結愛「でかっ! ご立派な懐中電灯で!」


 三島は懐中電灯を常に持ち歩いているのか。明かりならスマホのライトでいいだろ、とか思って用意してなかったわ。いるな、懐中電灯、これからは俺も持ち歩こう。


 外に出てすぐに電車も止まっているのを知る。停電だと電車も止まるのね。当たり前だったわ。しかしここから家まで歩いて一時間オーバーか。しゃーなし。


結愛「あ、叔父さんに車出してもらえるか電話してみる。ちょっと待ってて」

詫夢「悪くないっすか? ガソリンとか今、手に入りにくいっしょ」


 スマホで電話をかける結愛に見つからないようにか、三島が俺の服の裾をこそっと引っ張る。三島は結愛たちのいる方向を気にしつつ背伸びをして俺の耳元にそっとささやいてきた。


希望「ね、このあと二人で会わない? ……ナイショで」


 一瞬、頭が空白になり、そして沸騰する。


 なっ……何事! 何が起きた!? 二人に気づかれないように首だけを動かして三島の顔を見る。ぐぎぎ。


 三島はいたずらを成功させた幼児のごとく、白い頬を少しだけ赤らめて上目遣いで俺を見返してくる。ぐるんぐるんと回る頭の回転に少し遅れて心臓が鼓動を早め始める。


 三島希望という少女は清楚、清純をテーマにして描かれた絵画のような正統派の美少女であり、結愛の親友でありとても小悪魔的であって、いかん、混乱してきた。早まるな、落ち着け俺の心臓よ。


悠馬「……ごめん」


 ごめん、ごめんじゃない、いやごめん。断った。ごめんなさい。


「そう」つぶやいて、そっと俺から離れていく三島。


 あれ? 俺、選択間違えた? いや、しかし。


結愛「叔父さん来てくれるってさー! およ? なんか怪しい雰囲気ですな? 何かあった?」

悠馬「何にもないが何か?」

希望「何にもないよー」


 三島にも問う結愛、そしてニコニコ笑顔で何もなさそうに普通に返す三島。こちらの様子を窺う詫夢。顔が赤くなっているのを自覚している俺。そう……三島、平気そうなの……そう。


 挙動不審な動きをする俺以外の3人で盛り上がる会話を右から左へと聞き流していると、一台の車が駅前のロータリーに止まる。手を上げて挨拶してくれるのは、俺も何度か会ったことがある結愛の叔父の弘樹さん。


 お礼を言いながら車に乗り込ませてもらう。


詫夢「申し訳ないっす。ありがとうございます」

弘樹「気にしないで。いいんだよ」

結愛「叔父さん、会社あがりだって。ガスを整備する会社なんだよ」

希望「お仕事、ご苦労様です……その」


 三島は何か言いたそうにしているが言葉が続かないようだった。いろいろと障害は起きているが、それでもライフラインがこの社会でまだ生きているのは、そこで働いている人たちのおかげなんだよな……


 なんとなく学校に行って、なんとなく時間を潰して、なんとなく遊んで、送ってもらう……。あ、やばい。三島の出す「申し訳なさげオーラ」が俺たちにも感染した。そんな心の内を見て取ったのか弘樹さんが軽快に笑う。


弘樹「本当に気にする必要は無いんだよ? 皆、やりたいことをやっているだけだもの。子供は笑っているのが一番だもの」


 ほんわかとした、やさしい笑顔で言われる。いい人過ぎるだろう。感謝しかない。


 世界、いや、人の営みって奴は意外と丈夫に出来ているらしい。あちこちで軋みを上げているが、町中が暴徒であふれるわけでもなく、全員が仕事を放棄するわけでもなく、少なくとも見せかけだけは平穏と言っていいくらいには落ち着いている。考えてみたらそれも当然のことなのか。隕石の話が降って湧く以前にだって、余命宣告をされた人たちは大勢いた。その人たちは全員もれなく暴れまわっていたか? って話だよ。ほっと息をつく三島の綺麗な横顔を横から覗き見て思う。


 とりあえず、ダーウィン先生? 俺の選択は間違っていたのかもしれません。



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