9 金色銀色
「ゴ、ゴールドランクの冒険者ばっかり。シルバーランクなんてあたしたち以外一人も……」
「堂々としてろ。べつに居て悪いことなんてないんだから」
「わ、わかってるわよ」
魔物や魔族の侵入を沮むためにある背の高い堅牢な防壁。
朝の日差しを遮って暗く沈む城門前には、ゴールドランクの冒険者が集まりつつあった。
これから寒冷地に向かうためか通常の仕事よりも若干荷物が多い。
寒冷地仕様の戦闘服がそこに詰まっているはずだ、俺たちみたいに。
「知らない顔ばっかりだな」
この場にいるゴールドランク冒険者とは初めて会う。
過去、一緒に仕事をした冒険者がいればと思ったんだけれど。
カノンはまだ来てない。
「ん? おい、お前ら見ない顔だな」
近づいてくるのは目付きの悪い冒険者。
銀色の髪に人相の悪い顔。
戦闘服の着こなしも大雑把で乱暴だった。
「いつゴールドランクになったんだ? 最近だろ」
「いや、俺たちはシルバーランクの冒険者だよ」
「シルバー? おい、シルバーなんて使えない奴ら連れてきたのはどこのどいつだ」
こちらのランクを知ると彼の態度が一変する。
言葉や声音、態度や視線から見下されていることは間違いない。
ロゼの表情に露骨な不快感が浮かんでいた。
「二人を連れて来たのは僕だけど何か問題? ジハルド」
どこからともなく現れるカノン。
いつも神出鬼没だ。
「カノン、お前か。問題も問題だろうが。ゴールドとシルバーじゃ雲泥の差があるんだぞ。足手纏いになるだけだ、今すぐ帰らせろ」
「無茶言わないでよ-。この二人には例の炎の魔物を斃してもらわなきゃなんだから」
「こいつらに任せるってのか? だったら尚更だ。不安要素を消すのにシルバーなんて向かわせたら本末転倒だろうが」
「大丈夫だって。いまのジンさんでもキミよりは強いから」
「あ?」
今のはよくないな、カノン。
火に油を注いだぞ、いま。
「言い過ぎだ、カノン。人を煽るな」
「シルバーはすっこんでろ!」
「あんたも仕事の前にもめ事を起こすなよ。腹に据えかねてるだろうけど仕事が終わるまで我慢しろ。ゴールドランクの冒険者だろ」
「テメェ……」
わなわなと震えはするものの、カノンや俺に手を出そうとはしてこない。
ゴールドランクは伊達じゃない。
ここで我を通すような人間はそもそもこの位置に立つことすら出来ないのだから。
「馬鹿にしてたシルバーに言い負かされるなんてゴールドも形無しだね。見てる私まで恥ずかしくなってきた」
「レイ。お前もか」
レイと呼ばれた彼女は腰まである艶やかな黒髪を手で払う。
ジハルドを見るその瞳は紫紺に染まっていた。
「これ以上、粘っても状況はよくならないと思うけど?」
「……俺も冒険者だ。今は飲み込んでやる。だが、憶えとけよカノン!」
「僕、忘れっぽいから憶えてらんないかもー」
「そん時は嫌でも思い出させてやるよ」
心底機嫌が悪そうにジハルドはこの場を離れていく。
大きなトラブルにならなかったことにほっと一息をついた。
「カノン」
「だってー。僕が推薦した二人なんだよ? それを貶されちゃ僕の立場がないでしょ」
「だからって煽るなよ。もっと良いやり方があったはずだろ」
「僕はこれしか知らないからしようがないよねー」
けらけらと笑う姿を見ていると咎める気も失せてくる。
言っても無駄だというのが半分くらいを占めているけれど。
「ふーん。カノンが連れてきた冒険者があなたたち、か」
「ジンとロゼだ。よろしく」
「どうぞよろしく。私はレイ、カノンとは同期なの、ジハルドともね」
「三人で活動したことなんてないけどねー。それでご用件は?」
「別に。仕事に関わることだからどんな冒険者を連れてきたのか気になっただけ。この目で確かめられてよかったは、あなたたちならきっと大丈夫。そんな気がする」
「ジハルドより見る目があるね」
「当然でしょ。それじゃ、またね」
ジハルドに続くようにレイもここから離れていく。
「これで一件落着? 面倒ごとにならなくてなりよりだけど、いいの? 時間。もうすぐ出発でしょ?」
「おっと、そうだった。危ない危ない。さ、行こうよ、二人とも」
寒冷地へと向かう大きな馬車に乗り込み、指定された席につく。
「ふっ、ふふっ」
すこし離れた位置に座るレイが小さく笑う。
かくいう俺たちも口元に手を当てて、声が出ないように必死だ。
「こんなことってあるかよ」
「ほんとーに」
レイや俺たちの視線を釘付けにしているのは他ならぬカノンとジハルド。
その二人の座席が並んでいたからだ。
お互いに心底居心地悪そうにしている様子を見ると込み上げてくる笑いを抑えられそうにない。
「ねぇ、ジンさーん。席、変わってよー」
「お断り」
「そんなー」
色々とやり過ぎてしまうカノンにはいい灸になっただろう。
ここから寒冷地までまだまだ長いから、この馬車ゆっくり進まないかな。
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