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6 花弁乱舞


 あたしには目的がある。


 それはどうしても成し遂げなければならないこと。


 そのために努力して来たし、あたしには人並み以上の才能があった。


 けど、あの日。ブロンズランクの昇級試験の時。


 あたしは圧倒的な実力の差を目の当たりにした。


 ジンという名の冒険者。


 一生を掛けても追い付けないかも知れないと思わされたのは初めて。


 あたしを作っていた自尊心や誇りが粉々に打ち砕かれ、だからこれはチャンスだと思った。


 この男とパーティーを組むことが出来れば目標に大きく近づける。


 これがプラチナランクまでの最短距離。


 あたしはそう確信した。


「だから!」


 花弁が舞い、剣と成す。


「こんな所で負けてらんないのよッ!」


 いくつもの花剣を射出して頭上のリョクノカプスを狙う。


 ひらりひらりと躱されても花剣はあたしの意思通りに動く。


 手数を駆使して逃げ場を塞げば空中で飛行を封じられる。


「ここ!」


 すべての花剣をリョクノカプスに向けて放つ。


 逃げ場はないし、いずれかの攻撃は通るはず。


 けれど、リョクノカプスはあたしを嘲笑うようにすべての花剣を破壊した。


 両翼で起こした風が鎌鼬となって、身を包む繭のように幾重にも重なっている。


 花剣はその先端が触れた端から粉微塵になってしまった。


「最悪ッ」


 リョクノカプスは風の繭を維持したまま、頭上から鎌鼬を飛ばしてくる。


 降り注ぐそれに対抗して花剣をたくさん放ったけど、これじゃ切りがない。


 あたしの魔法、鎌鼬との相性悪すぎ。


 花剣で打ち落とせはするけど、鋭い風にどんどん粉微塵にされる。


 魔法で消費する魔力にも限りがあって、追い込まれているのは私のほう。


 このままじゃジリ貧。


「なにか、突破口は……」


 時間を、稼ごうと思えば稼げる。


 このまま膠着状態を続ければジンが助けに来てくれるかも。


 二対一なら確実に勝てる。


「なに考えてんのよ、あたし。ダッサ」


 ここであたしが勝てなきゃなんにもならないでしょうが。


 弱気になっていた自分に活を入れて、上空を睨む。


「風に、色?」


 リョクノカプスが巻き起こした風の繭に色がついている。


「花弁の……欠片」


 粉微塵になった花剣の欠片が風に乗って繭を巡っていた。


 花剣が鎌鼬に斬り裂かれるたび、繭の色は濃くなっていく。


 そしてあたしは見付けられた。


 リョクノカプスという個体の癖なのか、風の繭に薄い箇所がある。


「デカいのお見舞いしてあげる!」


 ありったけの魔力を注いで花の大剣を作って放つ。


 降り注ぐ鎌鼬に削られて小さくなっても突き進み、風の繭の薄い箇所を突く。


 人の身では触れないほど大きかった花の大剣も短剣程度まで縮む。


 それでも風の繭を突破して、リョクノカプスを貫いた。


 風の繭が解け、魔鳥が落ちる。


 舞い落ちる花弁が亡骸を覆い、あたしは勝利を確信した。


「やった!」


 勝てた。


 一人で、誰の力も借りることなく、勝ってみせた。


「あたしは強い!」

「あぁ、そうだな」

「ひゃあっ」


 思わず変な声が出て、すぐに振り返る。


 視界に収めたジンは真っ白な白髪から黒髪へと戻る途中で獣化の証になる獣耳と尻尾も無くなりかけていた。


 腰には見慣れない形状の剣がいつの間にか差してある。


「……聞いてたの?」

「聞いてたし、見てた」

「見てたって……もしかしてずっと?」

「割と最初のほうからな。こっちが思いの外早く終わったから」

「……見てたなら助けなさいよ」

「実力を見るって言っただろ? それに危なくなったら直ぐに助けにはいるつもりだったよ、ホントに」


 それは獣化を解きながら現れたのを見ればわかる。


 いつでも助けに入れるように獣化したまま見守っていた、ということだから。


「……まぁ、いいわ。それで結果は? あたしは合格?」

「そうだな……正直、リョクノカプスを一人で斃したのには驚いたよ。実力はある」

「じゃあ」

「反面。危なっかしいとも感じた。ロゼに強い意志があるのは俺にもわかる。でも、だからこそ心に焦りがある。常に余裕がなくて強張りすぎだ」


 その厳しい言葉は、でもその通りだった。


 あたしにもその自覚はある。


 これは当然の結果。


 悔しいけど、諦めるしかない。


「だからまぁ、なんだ。これから苦労しそうだって話だ」

「え?」


 それって。


「受け入れるよ、ロゼ。パーティを組もう」


 待ち望んでいた言葉が現れた。


「……いいの?」

「俺もどうしてもプラチナランクの冒険者にならなくちゃいけないんだ。パーティーを組むなら同じ目的を持った冒険者のほうがいい。本気、だろ?」

「えぇ、もちろん。あたしは本気でプラチナランクを目指してる。絶対になってみせるわ」

「なら、文句なしだ。これからよろしくな、ロゼ」

「えぇ、もちろんよ。ジン」


 目的に一歩近づけた。


 あたしはジンとプラチナランクの冒険者になる。


 この先にどんな苦難が待っていても関係ない。


 必ず成し遂げて見せる。

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