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26 悪性幻獣


「クレスト! おい、クレスト! なにしてるんだ! 速く召喚しろ! なんでもいい!」

「何もたついてるの! 速くしないと押し切られちゃう!」


 眼前には大量の魔物が押し寄せて来ていた。


 視界の悪い森の中でも見て取れるだけで十数体はいる。見えない魔物を数に入れればもはやあの二人だけでは対処できない。二人がやられれば僕の番。


 その前に。


「くッ!」


 足下の雑草を上書きするように淡い光の線を引き、幾重にも重ねて魔法陣を描く。


 それは正常に機能を発揮し、こちらの世界にはいない幻獣を召喚する。


 はずだった。


「くそッ! こいつもダメかッ」


 魔法陣は機能を果たしきれないまま光を失い、崩壊してしまう。


 召喚に失敗した。幻獣に拒絶された。


 もうこれで何度目だ。


「なにやってんだ! クレスト!」

「うるさい! すこし黙っていろ!」


 考えろ。まだ幻獣はいる。


 これまでの傾向から考えて、一度召喚したら同系列の幻獣に軒並み召喚を拒絶されている。役目を終えて帰還した幻獣が仲間内に召喚に応じないように伝えているとしか考えられない。なら、その近縁にあたる幻獣ももはや僕の召喚には応じないだろう。


 数多く呼び出せたはずの幻獣が今や一匹も残っていない。


「かくなる上は……」


 こんなもの召喚する気はなかったけれど、背に腹は代えられない。


「僕の皮膚をやる! だから召喚に応じろ!」


 それは召喚に代償を伴う幻獣。


 ジンですら召喚したことのない下等存在。


 こんな悪性の幻獣に頼らざるを得ないなんて。


「インピュアー!」


 描いた魔法陣から溢れ出すヘドロのような黒い液体。


 それは触れるものすべてを穢し、腐らせ、森を犯しながら眼前の魔物へと迫る。


「あいつ、なんてモノを! フィア! 逃げるぞ!」

「なんて……は、吐きそう」


 二人は勝手に助かり、ヘドロは魔物を森ごと飲み込んだ。


 その後はまるで咀嚼でもするようにうねり、なおも地面を穢していく。


 こいつ、役目を終えたのにこっちに居座る気か。


「もういい! 帰れ!」


 そう告げるも聞く耳を持たず、こちらの指示に従う様子がない。


「あまり僕を舐めるなよ」


 魔力供給をカット。


 これで強制的にあちら側へと帰還させられる。


 それに気がついたのだろう。


 インピュアーはヘドロの波を起こし、僕を飲み込もうとした。


「クレスト!」


 ケインの声が響き、ヘドロに押し潰される寸前。


 インピュアーは魔力が尽きてあちら側へと帰還する。


 穢され、腐った無残な森を残して。


「ぐぁッ!?」


 右手に強烈な痛みが走り、見れば皮膚が溶け落ちていた。


「従わないくせに……代償だけは持っていくんだな……」

「だ、大丈夫なの?」

「大丈夫? 大丈夫なように見えるか、これが。さっさと治療しろよウスノロ!」

「――ッ、わ、わかったから。怒鳴らないでよ」


 魔法による治療が行われて、腕の痛みが引いていく。


 その事実に安堵を覚えつつも気分はよくならなかった。


 もうまともな幻獣は召喚出来ない。


 僕は毎回、あの下等な幻獣に代償を払わなければならないのか?


 どうして、どうしてこうなった。


 なってしまったんだ。

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